優秀な生徒
——王都、魔法学校。
それは魔法を学ぶことができる場所。
魔力を持つ者には通う義務があり、必ず入学しなければならない。
通う生徒は王族から準男爵までの貴族たちが
16歳になると通い始める。
魔法の他にも礼儀作法やお茶会のマナーなど貴族としての立ち振る舞いなどを教える場でもある。
「……というような感じだね!何か質問は?」
「じゃあ、良いですか? なんでオレはこの学校の説明を受けているのでしょう?」
オレは今この学校の建物の中をハルさんとその校長のハリエットさんと歩きながら普通に説明をしてもらっているが疑問があった。
それにオレは別の目的があってここに来たのだがなんでこの状況になっているのやら?
「ふーん、何か不満でもあるのかな?」
ハリエットさんは子どもみたいに頬をプクっと膨らませて拗ねたような顔をする。
「いや、不満じゃないですけど…。ここがどういうところかはわかりましたが、それを知ったところでオレには関係ないと思いますが……」
興味ないですという感じで言うと彼女はクスっと笑みをこぼした。
「仕方ないでしょ! こういう体でないと学園に入れないんだから! 本当だったら君は立入禁止の立場なんだよ! そこんとこわかってる?」
人差し指をオレに向けてプンスカと怒りながら言ってくる。
…この人は一体何歳児なんだ?
「それはわかってますが、オレには別の用が……」
「何? 別の用って?」
「あ、それは……」
「ふーん、言えないんだ?」
うわっ!? 近い!? こんな美女に近くに来られると心臓の鼓動が早くなっていく!
綺麗で凛々しい人の顔立ちはとても目を惹くし、澄み切った瞳に見られると目を逸らしたくなる。
「いやまあ言えないことでもないんですが……」
ただ今回の場合は本人に許可なしで内密にしているからあまり知られるとマズイんだが……
「ま、別にいいけど……」
「あの、ユリアーナさんについて知りたいのですが……」
ハリエットさんが歩き出そうとしたときにオレは咄嗟に口にだしていた。
その名前を聞いた途端、彼女は歩みを止めてこちらを振り返る。
「……ユリアーナって、公爵家の?」
「ええ、そうです。詳しく教えてもらいたいのですが……」
ハリエットさんは何か気難しい顔をして考え込んでいる。
何か訳ありなのか?
そう思ってやっぱりいいですと言おうとしたがハリエットさんは顔を上げてニコリ微笑んで言った。
「別にいいんだけど、なんで……?」
「それは言えません。…まだ確証がないので……」
オレは曖昧な答え方をしていた。
いや、ハッキリと命を狙われているからと言えばいいかもしれないがまだ正体も掴めてない以上むやみに口にするのは気が引ける。
慎重な性格の故の判断……か?
「そう、なら仕方ないわね。ついてきて、そこで話しましょう!」
「感謝します……」
ハリエットさんの気遣いによって深くは掘られなかったことに頭を下げた。
一息ついてふと横に立っているハルさんを向くとオレを心配な眼差しで見ていた。
「どうかしました……?」
「ううん……。トビくんが隠し事かって……」
「すいません。今回は諸事情で……」
「謝らなくていいよ! 別に責めてはいないから!」
「そうですか……?」
「うん! 言ったじゃん、トビくんが悩んで決めたことならなにも言わないって!」
ハルさんはいつもの優しい笑顔でそう言ってくれた。
やっぱりハルさんは天使だ!
だがふとハルさんの格好に目を向けてオレは唖然とした。
ローブを着ていて後ろ姿や横の姿しか見てなかったがハルさんはなぜかスカートを履いている。
その格好は完全に女の子だった。
ヤバい! めっちゃ可愛い!
なんかすごい急にドキドキしてきた。
普段はピチッとしたスリムズボンを履いているから特に何も思わなかったがハルさんの足は超美脚! そして細い!
「……そんなに……見ないで…」
ハルさんは途端に恥ずかしくなったのかオレの目を自分の手で覆ってきた。
今めっちゃハルさんの顔が見たい!
「おーい! 早くしてよねー!」
二人の初々しい時間を切り割くようにハリエットが大声で呼びかける。
…ああ、いいところだったのに。
オレとハルさんの甘い時間はすぐに終わった。
ハリエットさんに案内されて入った部屋は明らかに教室ではなくお偉いさんの部屋ということがわかる。
つまり校長室だ。
校長が座る椅子と机が部屋を入ればすぐにみえる。
その前に来客用の長机と座り心地が良さそうな椅子がある。
ハリエットさんは校長席ではなく、手前の椅子に腰をかける。
オレも同じように反対側に腰をかける。
となりにハルさんも座ってからハリエットさんは一息ついて話し始めた。
「さて、ユリアーナ・アルフレットについてだったね…、どんな事を知りたいのかな?」
「あ、はい。…そうですね……」
そういやなんて聞けばいいんだ!?
ユリアーナさんのことを詳しく教えてくれと頼みこんだはいいがなんて聞くんだ!
まずはユリアーナさんの何を聞けば……、性格か?
マズイ! どうする!
オレは必死に頭を抱えて質問の内容を絞り出す。
そして出た答えが…………。
「すべて、教えてください…」
「………えっ?」
「いや、別に変な意味じゃなくて純粋に知りたいというか、なんと言いますか……」
自分でも変なことを言っているという自覚があるのかしどろもどろな喋り方になっていた。
「優秀な生徒だよ……」
「へっ……?」
「ユリアーナ・アルフレット、うちの学園の自慢の生徒だ……」
「あ、ああ、そうですか………」
ハリエットさんは静かに話し始めたので少し戸惑ったが黙って聞くことにした。
ハリエットさんはまるで我が子の良いところ悪いところも含めて話してくれた。
ユリアーナさんは学年は常にトップの成績で実技、筆記ともに上位の成績を収めている。
だが優秀すぎる故、浮いてしまうことがあるらしくあまり周りに馴染めてない様子。
いつも一人退屈そうな顔をして何か遠くを見つめている。
周りの生徒も誰もユリアーナさんに近づいこうとしない者も多くクラスでは常に一人席に座っているだけ。
オレはその話を聞いて率直に思ったのはやはり十代というのは難しい年頃なんだな、と。
「彼はまるで、一匹狼って感じだよ……」
「そうですね………」
オレは話を聞いてため息をついた。
だがすぐにあることに気づいた。
「…彼って、ユリアーナさんが男だと知ってるんですか?」
「当たり前でしょ! どっからどう見ても男でしょ!」
「いや、どっからどう見ても女の子にしか見えないです!」
なんてヘンテコな会話をしていた。
——すると、どこからか地響きが聞こえてきた。
平和な時を乱すかのように起こった地響きが起こる同時に王都の鐘を激しく叩いて鳴らす音が
耳に入ってくる。
オレとハルさん、ハリエットさんの顔に緊張感が走る。
オレは急いで魔法石で保管庫からの映像を見る。
その映像に写っていたのはあの魚人の魔物だった。
目を疑うしかなかった、なぜまたあの魔物が王都に現れたのか!?
ありえないと言いたいところだがしっかりと映像に写っているのはあの魔物だ。
しかも前より少し大きくなっているように見える。
「どうなってんだ?」
「…魚人の魔物みたいだね?」
ハリエットさんがオレのとなりに来て同じように魔法石に写る魔物を睨む。
視線を下に向けると胸が当たっていることに気付いたが今は言うべきではないので心の中だけに留めておく。
「あの魔物を撃退してきます」
「えっ!? できるの!?」
「一応、あの魔物は不意打ちですが倒したことがあるので……」
オレはそう言うと校長室から飛び降るために窓に足をかける。
「ちょ、ちょ、ちょっと危ないよ!」
「え? 何が?」
ハリエットさんがオレの腕を掴んで止めてくる。
「そうだよ! ここ結構高いよ!」
ハルさんも同じく心配してくれるがオレは別に気にしてないのだ。
「心配ご無用です。大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なの!?」
「だから大丈夫ですって、それじゃ!」
オレはそう言うと同時に左の腕輪をちょうど目に入った鉄のような置き物があったので
それに腕輪を当てる。
カーンと甲高い音を立てた後一気に飛び降りる。
「あ! ちょっと!」
ハリエットさんやハルさんがオレの手を掴もうとしたが捕まえられずオレは下に落ちていく。
あわや大惨事と思ったかもしれないがオレには絶対的な安心感がある。
なぜなら………。
「トビくん!」
ハルさんが叫ぶと同時に目の前を何かが横切る。
何かは目視できなかったがそれはトビの方へと向かっていく。
そしてトビの身体に瞬時に装着するそれはトビ専用のアーマー、黄金の武装戦士だった。
地面ギリギリのところで火炎増強が発動して
空へと飛んでいく。
「……何、あれ……?」
初めて見るハリエットにはそれは理解不能なものと思うだろう。
そしてそのゴールドアーマーを見ていたのは二人だけではなかった———




