夜の荒野の声
——王都とは、イグリニア王国の首都。
王都のど真ん中には王様、王妃また王子、王女と王族が幸せに優雅に暮らしている無駄にデカく広く高く、それはそれは大きなお城がある。
その国を収める王がアールグラント・イグリニア国王陛下。
そして王族を始め、貴族たちも多数存在していると。
貴族の階級は公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵とこのように階級が分かれてある。
これはいわば身分を表すものだ。
その身分が高かければ高いほど王族からの信頼も厚い。
また功績などを上げた男爵が子爵へと昇格するのは普段からあるが、伯爵から公爵へと一気に位があがることもあるらしい。
そして稀にただの平民から準男爵という爵位をもらえることもあるらしい。
ただ準男爵はあまり他の上位貴族からは歓迎されてないらしい。
なんか、かわいそう……。
王都の人口は今や3000万人を余裕で超えているという。
さらにやはり王都というだけであってたくさんの種族もいる。
亜人、獣人、エルフにドワーフ、そして龍人、鬼人族までいるらしい。
かなりの種族がいるんだな……。
さらに驚きなのが冒険者の数は約半数をしめており、腕利きの冒険者がほとんどだと、レベルはほとんどが500越えだとさ。
つまりオレみたいなレベル100の冒険者からすれば燃え盛る炎の中に裸で突っ込むようなものだ。
と、ここまで王都についてハルさんから聞いていたオレは王都に行くのが少し嫌になってきた。
それは貴族の関係性がなんとも気に食わないのだ。
階級があること自体はどうってことないが問題は関係性だ。
貴族どもは階級が上の奴らは人を見下す傾向がある。
オレがまだ日本で学生をしてた頃に誰も見られていない隠れたところでどこぞの腹黒お嬢様というクソビッチが自分が大企業の娘だからって、偉そうに我がもの顔で振る舞って性格が弱そうな女の子をイビリたおしていたのをオレは目撃してしまうことがあったのだ。
だから貴族と聞いてオレはあまりいい気分はしない。
もちろんいい貴族はいるかもしれないが、そんな奴がいるなら会ってみたいものだ。
それよりもオレが気になるのは…………。
「…しかし、ハルさんはなんでそんな王都に詳しんですか?」
「えっ!? な、なんで!?」
「貴族のこととか、王族とか、それに冒険者もどうしてそんなに詳しいのかなって?」
オレがちょっとだけ気になって聞いてみるとハルさんはやけに動揺していた。
……聞いちゃマズかったか。
「そ、それは……、勉強したから」
……なんだろう、今の間は?
なんでもないと思うがハルさんの態度がどうもよそよそしいような気がするのはなぜだろう。
ハルさんなぜそんなモジモジしてるんですか?
なぜそんなオレをチラチラと伺う目をしてるんですか?
なぜそんな顔を真っ赤にしてるんですか?
完全になんかあるよね! あるよね! 絶対!
まあそれはさておき、王都か…………。
行ってみるか!
と、いうわけで——
来ました、王都!
王都まで馬車を走らせると約十日はかかるのでオレの場合は空中武装保管庫での移動にした。
これなら何かあった時にすぐにアーマーを取り出せるし、移動距離も短縮できる。
ちなみにハルさんも一緒に来る予定だったのだが何か準備するものがあるとかで
後で合流することになった。
「先に着いちゃったけどどうすればいいんだろう?」
オレは今王都の門に来たはいいが、どうやって入るのかわからなかった。
金貨はいくらか持ってきてはあるがどうすればいいのやら……?
こんなことならハルさんの説明ちゃんと聞いとけばよかった……。
トビがなぜ後悔しているのかというとほんの数時間前————
——地下、オレ帝国にて。
オレはいつものように作業場でアーマーの準備をしているとハルさんが心配そうに聞いてくる。
「大丈夫? トビくん?」
「何がっスか?」
「何がって、王都の入り方だよ! ちゃんとできるの?」
まるでハルさんは自分の息子が上京するのを心配する母親のようになっている。
…ハルさんに少しはしっかりとしたところも見せておかないと!
「大丈夫ですよ! オレができる男だってところを証明して見せます!」
自信満々の顔で意気込むトビを見てハルは何を証明するのだろうと少し疑問に思った。
「よっしゃ! じゃあハルさん、先に行きますね!」
オレは心配するハルさんをよそに意気揚々と空中へと飛んでいく。
オレが飛び去った後、ハルさんはまだ心配そうな顔をしていた。
「…本当に大丈夫かな? 王都って今結構入場厳しくなってるから。 あ、そんなことよりも早く準備しなきゃ!」
もちろんこんなことを呟いていたことも知らずオレは飛行の間、呑気に鼻唄を歌っていた。
そして今————
「くっそ! こんなに躊躇するくらいだったらちゃんと聞いときゃよかったぁ!」
オレは王都の門からかなり離れた荒野で保管庫の中で頭を抱えていた。
このままじゃ埒があかないのでとりあえず、寝ることにした。
しょうがない! ハルさんには後で謝って一緒に入ってもらおう。
そんなことを考えてるうちにいつの間にか眠っている自分がいる。
——気づけば夜も深まった荒野。
オレは目を開ける。
「……………………」
オレは目をパチクリしながらゆっくりと起き上がる。
保管庫の入り口の小窓の中から外を窺う。
視界には辺り一面ただの暗い荒野だ。
時間を確認すると深夜2時、不吉な出来事の前触れか。
オレはため息をついてもう一回寝ることにする。
だが一度冴えてしまったらもう二度と寝られない。
「…どうしたもんか?」
オレは気分転換に外で散歩をすることにした。
保管庫を出ると満月の光が薄気味悪い夜の荒野を明るく照らしていた。
風の吹く心地よい音が心を浄化してくれるようだ。
「今日は涼しいな……」
なんて呟きながら少しぶらつきながら今後のことを考えているとどこからか声が聞こえてきた。
オレは一瞬、足を止め体を硬直させる。
いや別に、これは怖いとか、幽霊的なものが怖いとかそういうんじゃないから!
これは、……そう武者震いだ!
オレはそう自分にみっともない言い訳をして耳を澄ます。
静かな荒野に確かに声が聞こえてくる。オレは聞こえてくる方にビビりまくりの重い足をなんとか動かして声のする方へと歩いていく。
近づくにつれだんだんと声も大きくなってくる。
声は一人分しか聞こえてこないが誰かと話しているように思える。
いやそうであってほしい!
こんな薄気味悪い荒野でホラー的な要素とかマジいらねぇから!
さらに声は性別さえも明確になっていく。
声の主は女性かな? 話し方や声のトーンからして女性だろう。
オレはやがて保管庫から100メートルくらい離れた場所にやってきた。
そろりと気配を消すようにその声の主の姿を拝む。
「うん、そうだね。 じゃあ、明日も頑張るよ……」
ぼんやりとシルエットは見えるが肝心の顔がわからない。
ただ一つだけわかるのは声の主は、何か見えないものと喋ってる気がする。
…なんかやばいもん見ちまった気がする。
オレはそのまま帰ろうとすると————
「っ!? 誰!?」
いきなりその声の主、女性に気づかれてしまった。




