英雄
——最強能力VS最高の能力の対決。
最強の能力を持ったヴェルシャスは手強く全く歯が立たないと思った。
しかしオレの光武装の攻撃欄にある大雷光放射線というものを駆使してすべての魔力を使い奴に向けて攻撃を放つ最後の手段だ。
その威力はまさに驚愕の殺傷能力を誇るレベルだった。
ヴェルシャスはその攻撃を甘くみていたようだ。
片手で軽く払いのけようとしたが、その圧倒的な威力を前にいつしか防御を高度なものにするしかなくなっていた。
そして眩しいくらいの真っ白な光が周りを覆い尽くすように現れて、そして大爆発を起こした。
オレはその爆風で吹き飛ばされていた。
目を開けるとそこには広い荒野の中心に10メートルくらいのクレーターができ上がっていた。
部分的に火の粉が所々落ちており、まさに激闘を繰り広げた末の有様だった。
「……やったか?」
オレは顔のアーマーを脱ぎ、ゆっくりと起き上がり周りを見る。
荒れ果てた大地という元は綺麗な山が今は完全な荒野になってしまった。
もちろん魔力を使い果たした魔石は胸の中になくなっていた。
おそらく粉々に砕けたのだろう。
ヴェルシャスの姿が見当たらない消えたのか?
それともまだ生きてるのか?
「とりあえず今のうちになんとかして……」
そう思っていた矢先に敵感知に反応が出る。
やはりまだ生きてるか、しぶといな……。
オレは立ち上がり辺りを見回す。
……どこだ、どこにいる?
心の中で心臓の鼓動が早くなっていく。
奴はまだ生きてることはわかるが、姿が見えない。
一体どこにいる……。
その瞬間背後から異常なまでの殺気を感じたので急いで振り返るが反応が遅かった。
ヴェルシャスはオレの背後をとり、首根っこを思いっきり掴まれる。
「おのれ……、人間……!」
ヴェルシャスの怒りは真骨頂に達していた。
ヴェルシャスは進化の身体のままだが、上半身の半分を大雷光によって持っていかれて見るに耐えない無惨な姿だった。
身体からは大量の血が流れており、再生能力がどうやら追いついてないようだ。
オレの首を右手で掴み上げる。
そのまま絞め殺す気だろうか、さすが悪魔は握力がハンパねぇな。
このまま首を潰されてしまいそうだ。
鼻息も荒く、完全に怒りに身を任している状況だな……。
「この我が、この我が、貴様のようなやつに! 負けるはずがない!」
おお、すごい自信だね……。
獣の闘争本能が奴をこれほどまでに憎悪を掻き立てるのだろうか。
ふと身体に目をやると徐々に奴の身体は再生を始めていた。
まだゆっくりではあるがじっくりと待っている余裕はない。
今すぐ奴にトドメを刺さなければならないがHPも限界が来ており、魔力もすべて使い果たしたオレにできることなどなかった。
今はコイツの怒りに応じてゆっくりと首が閉まっていくこの状況を眺めるしかないか……。
力が入らないHP切れか、意識が遠くなっていく死ぬのか?
視界がだんだんと薄れていく。
息が苦しい……。
そっと静かに目を閉じる。
ピロン! 魔石補充完了! 魔力回復!
その音と言葉とともにオレは目を力強く見開き、両腕のアーマーが奴の腕を掴みへし折るくらいの強さで握りしめる。
「な、なに……!? 貴様、なぜ!?」
「これを待ってたんだ……!」
ヴェルシャスもかなり動揺しているみたいだ。
仕方ないだろう。
魔力は使い果たしたから抵抗できないと思ってただろうが、一応予備は持っておくもんだ。
「もう一度、お前に特大の攻撃を与えてやるよ!」
「き、貴様、何を!?」
「今度はゼロ距離だ、お互い死ぬ覚悟はできてるだろうな?」
「ま、まさか!? やめろ、離せ! くそ!」
「じゃあな、精々自分のこれまでの行いを悔いるんだな!」
オレはヴェルシャスに向かってもう一度大雷光を発射する、しかも近距離で。
これで奴を戦闘不能にさせる。
オレは暴れるヴェルシャスを逃すまいと必死で奴の腕を掴み続ける。
奴はどうにか逃げようとオレを振り払おうとしてるが無駄なことをと思う。
「離せ、離せ、はなせーーーー!」
オレを殴ったり、腕をどうにかして引き剥がそう懸命に努力しているがオレもここで引き下がるわけにはいかない。
必死で下がる思いでヴェルシャスを逃がさないように腕を握りしめる。
胸の中心の魔石が白く輝き出し発射準備を開始したようだ。
その脅威を知っているヴェルシャスは怯えているのか、さらに暴れ出した。
だがもう遅い。
ハルさんの魔力が充分に込められた魔石は今までの倍の威力を発揮する。
それに加えていつのまにか増えていた最高の能力、光武装が合わさり最高の大雷光を放射できる。
「2人で一緒にあの世でのんびりしようぜ……」
ヴェルシャスは絶望の叫びを上げている。
それはまるで自分よりも恐怖の存在に出くわした後悔という目でオレを凝視している。
そしてオレたちを囲むように眩しく真っ白な光が放たれ何も見えなくり、その数秒後大爆発を起こした。
途端に身体に意識が吹っ飛ぶくらいの衝激が
オレの身体に染み渡る。
その直後、目の前が真っ暗になった。
何が起こったかわからない、身体が宙に浮いているような感覚だった。
周りは果てしなく真っ暗で自分がどこにいるのかさえわからない。
…どこだ? ここ?
何も聞こえない、何も感じない……。
そうかオレは死んだのか……!
ならばゆっくり眠るとしよう、女神には後でしっかり謝っておこう。
…あ、そういやハルさんにもう会えなくなるのか。
意外と異世界人生、短かったな……。
「……………!」
……ん? 今、誰かしゃべったか?
「……………きて!」
…何だ? 何か聞こえる。
「………ねがい、……きて!」
誰か、いる……?
「お願い、起きて!」
「………!」
すると突然耳に入ってきた声でハッと目を覚まし、起き上がる。
オレは死んでいたんじゃないのか……?
自分の身体を見回すが何も異常はない……。
「オレは、なんで……?」
「意識が戻ったのですね……!」
オレはふとその声のする方へ目を向けるとその人物に驚いた。
オレの隣りでずっと看病してくれて心配そうな眼差しで見ていたのはユウナさんだった。
「え、なんで……?」
オレはまだ頭がぼんやりとしていた。
起きたばかりだから意識が朦朧としているのか?
夢か? 夢なのか? 夢だとしたらさっさと覚めてくれ!
………………………。
…覚めない! てことは夢じゃない……?
「よかった……、ほんとうに……」
「なんでユウナさんがここに?」
「なんでじゃありませんよ!」
…え、なんで怒ってんの?
オレのとぼけた感じの言い方か腹立ったのか?
ユウナさんはその黒くつぶらな瞳を涙で潤ませて、なぜかオレを睨んでいるようだった。
「あの、なんで怒ってるのですか?」
「怒りたくもなります! こんなに無茶して! トビさんは、死にかけていたんですよ! わかってますか? もっと自分を大事にしてください!」
ユウナさんは会った当時のか弱い女性とは一変して逞しい女性のように見えた。
オレに訴えかけるその目はとても強く誰よりも命の尊さを知っている人の目だ。
「そう言われても、相手がちょっと……」
「たとえそれでも、貴方の身体は一つしかないんです! 敵を倒してくれたことは感謝します、ですがだからって自分の命まで粗末にしないでください!」
「……すいません」
ユウナさんの力強い言葉にオレはもう何も言えなくなっていた。
その後ユウナさんから聞いた話では魔物の群勢がいきなり魔力を何者かに全部吸われて、魔物はすべて綺麗さっぱり消えたというのだ。
なるほど、あの魔力は魔物の群勢からか。
それから村の人たちの怪我の手当てをしていると遠くの山のほうで大きな爆発がしたのを見て慌ててこちらに向かっていたそうだ。
そして二度目の爆発が起こってから数分後にこの山? 大地? に辿り着いた時オレが倒れているのを見て急いで走ってきたが、オレが息をしていないとわかった瞬間、血の気が引いたそうだ。
まあ、そうだろうな……。
そして急いで回復魔法? 蘇生魔法?わからないが無我夢中でかけていたから何かは覚えてないらしい。
何はともあれオレは生き返りこうして魔物の群勢、ヴェルシャス戦は幕を閉じた。
そういやヴェルシャスはオレの近くに死体がなかったら死んだのだろうと、思いたい。
「それじゃ、オレはこれで」
「本当に帰るのですか、トビ殿?」
「ええ、依頼は解決したし、報酬はいただきましたからもう帰らないと」
タイガさんや村の人たちは名残り惜しそうに見ている。
だが帰らないと、ハルさんが待っているから!
「トビさん、本当にありがとうございました!」
ユウナさんとカイトが改めて頭を下げて感謝してくれる。
「いえ、何はともあれよかったです」
オレは少し照れ臭いが笑顔で答える。
「トビさんがいなければ本当にどうなっていたか……」
「そうですね、トビさんのおかげです!」
カイトの顔を見るとどうやら生き生きとした表情をしている。
カイトもこの戦いで少しは成長したみたいだ。
「それじゃ、もう行きますね」
オレはアーマーを着ると村を背にしてそのまま空中へと飛び立つ。
空中に飛んだあとオレは村を振り返る。
村の人たちは笑顔でオレに手を振ってくれている。
……いい村だったな。
オレはそう思ってスピードを上げる。
そしてかっこよく飛び去る…………、つもりだったが飛んですぐ目の前の保管庫に思いっきり体当たり、そのまま地面へ真っ逆さまに落下。
ズドンと音を立て、煙が舞う。
ユウナはその姿を見てクスッと笑う。
「……ちょっとドジなゴールドアーマー、か」




