タキア村の底力
——とある山の中。
誰にも知られず、誰にも邪魔されない場所で
金属がぶつかる音、炎が燃えさかる音、地面が砕ける音、木がへし折れる音、さまざまな音が数秒の間に聞こえてくる。
その凄まじい物音で壮絶な戦いを物語っているのがわかる。
両者一歩も譲らない激闘を繰り広げる。
その様子を空から見ると、黒い煙が立ちのぼり、綺麗な緑の山の形は崩れて大きなクレーターができあがっている。
すると二つの物体が空中に舞い上がり、互いにぶつかり激突し合う。
アーマーを着たトビが右手の平から炎弾を数弾発射、ヴェルシャスはそれを瞬間移動で全て避けていく。
ヴェルシャスは瞬間移動でトビの目の前まで来て、手の平から闇の魔法と炎の魔法を合成した漆黒の炎をトビの顔面に打ち込むが、アーマーの赤眼の目が光り、平然としている。ヴェルシャスはすぐさまトビから離れる。
…くそっ、なぜ効かない。
ヴェルシャスはこれまでどんな敵と戦ってきたかわからないが今までならその漆黒の炎というもので相手を葬り去ってきたのだろう。
トビの武装は基本的に鉱石と魔石で防御力を高めるために造られている。
あくまで攻撃重視の武装ではない。
何が言いたいか、つまり能力と書かれた欄にに盾というのは、攻撃魔法を跳ね返す能力を示すのだ。
魔法無効化に近いだろう。
トビは両方の手の平を前に出すと、火炎放射を発射、もちろんヴェルシャスはそれを瞬間移動で避ける。
しかし、その間にトビは距離を詰めてヴェルシャスの目の前にきて炎弾をぶち込む。
だが、ヴェルシャスも魔法無効化の能力で跳ね返す。
「……見たことない攻撃だな。一体なんなんだ、貴様は?」
「ただの普通の平凡な男だ」
「何度聞いても答えは同じか……、小賢しい」
「別に嘘はついてねぇぞ」
少し暴れすぎたのでおしゃべり休憩を挟んでいるかと思うが、まだまだHPや魔力は有り余っている。
ではなぜ、そんな悠長なことをしてるか?
トビはヴェルシャスに聞きたいことがあった。
「なあ、一つ聞いてもいいか?」
「いいだろう。なんだ?」
「魔王は一体何をしようとしているんだ?」
「前にも言ったが、貴様が知る必要はない」
やはり聞いても答えは同じか…。
絶大な魔力を持っているハルさんやユウナさんが魔女の生まれ変わりだと知っているのは魔王だけか?
このヴェルシャスは詳しいことまでは聞いてないのか?
「そっか、ならいいや! だがオレも全力で阻止させてもらう」
「フン! くどい!」
するとヴェルシャスは空中に浮遊したままトビを睨みつけると同時にトビの身体に不可思議な重みを感じた。
「な、なんだ!?」
オレはそのまま地面へと何かの力によって叩きつけられる。
急に重くなった身体は抵抗も虚しく、地面に落下したトビは一瞬混乱するが瞬時にヴェルシャスの能力を思い出す。
……そう言えば、なんか魔重力なんて表示があったな、もしかしてそれか?
オレはどうやら変な力で叩き落とされたようだが、アーマーのおかげでほぼ無傷。
普通の人間なら即死だな。
「人間風情が、我にたてつきよって」
「ふぅ、危なかった……」
オレは地面からゆっくりと身体を起こし空中にいるヴェルシャスを見る。
この野郎、やってくれたな! お返しだ!
「武装変更、雷武装!」
するとアーマーは黄色い雷の閃光が身体中にビリビリと音をたてて現れる。
両手に埋め込んである魔石も炎から雷へと変化。
オレは雷武装に変更したときふとステータス画面に意識を向ける。
あれ? なんだ、これ?
見たことないものがずらりある?
そこには雷武装に変更した際に表示されるさまざまな攻撃手段があるがその中にいつのまにか色んな攻撃手段が表示されていた。
「電撃破? まあ、試してみるか……」
オレは右手に魔力を集中させて電撃破を発射させる。
発射した電撃破は雷の閃光ビームのようなものを放つ、そしてそのままヴェルシャスへと狙い定める。
ヴェルシャスはその閃光を見た途端、瞬間移動で避ける。
「…なんだ、今のは!?」
「よそ見するなよ……」
「なっ!?」
ヴェルシャスはその閃光に意識を向けてたせいでトビへの警戒が疎かになっていた。
再び目を向けるとトビはすぐ目の前に
拳をヴェルシャスの顔面に喰らわそうとしたが、ヴェルシャスは直前で防御結界をはる。
トビはそのまま防御結界へ拳を打ち込む、危機一髪でなんとか防げたと安心したのも束の間、結界はビリビリと不吉な音を出す。
「なに!?」
ヴェルシャスは危険と判断したのか、空間移動で回避する。
途端に結界は見事破壊されたのだ。
「……今のは、なんだ?」
「さあな、オレもわからねえ……」
「ほう……」
ヴェルシャスはトビが放った閃光に危機感を感じたのだろうか。
トビにその能力を問いただすが、当の本人はわからない様子。
ヴェルシャスはだいぶ動揺しているみたいだ。
…あの閃光だってオレにもわからねぇ、いつものように雷武装に変更したら知らない間に
あんな攻撃があったのだから。
それに雷の能力もいきなり跳ね上がってる。
なんとなくだが予想はついてる。
おそらく、ステータスにも表示してた光という属性だ。
あれは一体……。
だか、今はよくわからない能力でヴェルシャスと対等に渡り合える。
「第二ラウンド、開始だ!」
——タキア村、防衛戦——
「いいか! 何匹たりとも中に入れるな!」
タイガが指示を飛ばして村の男たちの士気を高める。
ショットガンを使い果たしたタイガたちは、次にトビが開発したガトリング砲で魔物たちを追撃していた。
迫り来る群勢は最初のほうよりかなり減っているが、まだまだ多い。
数十匹倒してもまだ数十匹残っている。
…なかなか厳しいな。…だが、トビ殿からいただいた装備で必ず村を守ってみせる!
タイガは今一度、自分の胸に使命感を燃やし、魔物との防衛戦により士気を高める。
「うわぁ!?」
「どうした!?」
男の一人がいきなり声を上げた。
見るとどうやら魔物が投げた槍が肩に刺さったようだ。
「大丈夫か! おい、誰か手当てを!」
タイガが叫ぶも今は村の男たち総出で魔物の村の防衛戦をしているから怪我の治療をできるものが一人もいない。
まいったな……、これじゃ……。
タイガは手の打ちようがなく、切羽詰まっていた。
どうしようかの明け暮れていると、遠くで声がした。
「兄上! 兄上!」
「待つんだ! ユウナ!」
タイガは後ろから聞こえる声に顔を上げると、ユウナとそれを追いかけるかのようにカイトがこちらに走ってくるのが見える。
「ユウナ! カイト! 何してんだ、戻れ!」
ユウナが来たところで戦闘経験がない以上ただの足手纏いなのに一体何の目的があってきたのか。
カイトに至ってはトビから善戦離脱を余儀なくされたにもかかわらず一体どういうことか。
「兄上、私が治療します!」
「えっ? ユウナが、できるのか?」
タイガは唯一の救いに近い言葉を疑ってしまった。
ユウナに治療できるほどの技術があったのだろうか。
今まで一緒にいるが、見たことがない。
だがユウナはしっかりとタイガの目を見て任せてと強い意思を示す表情をする。
「わかった。頼む!」
タイガはユウナの言葉と表情を頼りに治療するようにお願いする。
ユウナは力強く首を縦に振り、自身の手を村の男が怪我してる肩に手を添えると、ユウナの手が光り輝き出した。
するとみるみるうちに肩から流れ出た血が少なくなり、肩の傷もだんだんと塞がっていく。
「これは……」
タイガは絶句するほど驚いた。
今まで家族としてそばにいたがそんな神の力に近いようなものは見たことがない。
「終わりました……」
ユウナは怪我の治療を終えたら下を俯いてしまった。
どうして下を俯くのであろうか、タイガはユウナの表情を見ながら疑問に思い、戦いそっちのけでユウナのことが気になった。
「ユウナ、これは一体……?」
「兄上に謝りたいことがあります……」
ユウナはそう言って申し訳なさそうな表情をする。
「どうした……?」
「実は、これまで魔物に襲われていたのは、私が原因なのです」
ユウナのその言葉にタイガは激しい魔物との戦闘の中、混乱して固まってしまった。
実の妹から言われたその言葉にかなり動揺していた。
「何を、言っているのだ……?」
「私が全ての原因なんです……、この戦いを招いたのも私のせいなんです」
そう言いながらユウナは大量の涙を目から流れていた。
「どういうことか説明してくれるか……?」
タイガの頭の中は混乱しており、落ち着いて話をまともに聞けるかどうか怪しいが、
ユウナはこの危ない戦いの中、勇気を出してしかも仲間治療もしてくれた。
そんな勇敢な妹の話を聞かない兄がどこにいるだろうか。
タイガはゆっくりと深呼吸をして心を落ち着ける。
「私は魔法というものが使えるのです……」
「魔法……?」
「はい。私には魔力というものがあり、本当は子供の頃からこの魔法というものが使えたのです」
ユウナが話してくれるその内容はタイガにとってあまり理解できなかったが、今目の前で起きたことをみれば、その魔法というものがすごいものだと分かる。
だがそれよりも気になることがある。
「ユウナよ、襲われるのが原因はお前だとはどういうことだ?」
ユウナはここにくるまで話そうか迷っていたが、その迷いは今タイガの目を見て決心したのだった———




