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戦力外

——オレが考えた結果の答えだ。


オレは無惨にも戦力外通告に近いやり方でカイトに善戦から離脱してもらう。


「なんで僕が手を引かなくちゃいけないのですか!」


「悪いけど、もう決まったことなんだ。諦めてくれ」


「そんな、納得できません! しっかりとした理由を!」


「理由か……」


カイトはなんとかして戦いに参加させてもらえるようにすがりついてくる。

別にカイトが嫌いなわけではない、嫌いならばとっとと善戦に投げ出して死んでもらったほうが早い。簡単な解決策だ。


だがそんな残忍なことをするためにこの村に来たわけではない。

カイトが死んだ場合、村の人はもちろん、一番悲しむのはユウナさんかもしれない。


ならば死なれて困るような人は最初から戦いに参加させないし、連れて行かない。


最高の解決策だ。


「それは、戦力にならないからだ」


オレはそう告げると、カイトは驚きと落胆の表情になり、下を俯いてしまった。


戦力にならない……。

そう言ったほうが納得するだろう。

カイトは若いが剣士としては充分な実力はない。

まだ、未知数だ。だからこそ今後伸びる可能性はあるが、この戦いにそんな奴を放り出せば死ぬ確率は高いに等しい。


「トビ殿! カイトが戦力にならないって、何かの間違いじゃないですか!」


村の一人がそう言って交渉してくるが、余計なことをと思う。

オレは心の中で断固としてカイトに善戦に参加させない旨を伝える。


「敵はオレたちが思ってるより強いんだ。死ぬかもしれない危険性があるんだ。そんなところに戦いに慣れていないカイトを放りこんで死なせたいのか?」


オレの棘のある脅しにも近い弁論に村の男たちは全員押し黙る。


「カイト、年は幾つだ?」


「……15です」


「なら、尚更ダメだ」


「なんでですか! 年は関係ないでしょ!」


「オレの国では15歳はまだガキだ! この戦争にガキが出る必要はない!」


オレは怒りにも近い声でカイトにそう断言した。


カイトはそのまま黙り込み何も言わずに立ち去って行く。

立ち去る後ろ姿はあまりにも惨めに見えただろう。


「これでよかったのですか、トビ殿?」


タイガさんは立ち去るカイトを見ながらオレに悔いはないかという感じで尋ねるが、オレからすれば悔いはない。


「ああ、これでいい……」


オレはそう自分の心に言い聞かせるように呟く。



—タキア村、とある建物—


ヴェルシャス戦に向けて村の士気が高まる中。


前日の夜、誰かの家であろう建物が映る。

その建物の中は灯りもなく月の光が差し込み、かろうじて灯りがある。


その灯りの影に隠れて人影が剣を振る姿が見える。


「ハァ、ハァ、ハァ」


トビによって戦力外通告され善戦から離脱させられたカイトだった。


カイトはよほど悔しかったのだろうか。

一心不乱に剣を振り、その顔は自分の無力さを痛感して怒りに満ちた表情をしていた。


カイトはしばらくして剣を振り、最後の一太刀を振ると剣を下ろし、一息ついた。


「なんで、僕が……?」

 

確かに弱い、あのヴェルシャスという奴が目の前に来たときは足がすくんでしまうくらいに恐怖心にのみこまれた。


自分が太刀打ちできるはずがないことは一目瞭然。

だけどそれでも村のために戦いたかった。


だけどそれは叶わなかった。

トビさんによって僕は善戦から外された。


…戦力にならないからだ。…戦争にガキは必要ない。

トビさんには言われた言葉が今も頭の中をぐるぐると駆け巡る。


「くそっ! …わかってる、わかってるんだ……、僕に実力がないことは……」


何もできないもどかしさが心を苛まれて不安定に陥り、壁にもたれかかって座り膝を抱え込む。


完全に自暴自棄に陥っていた。


すると誰かが扉を開き中に入ってくる。

その人物は僕の隣りに静かに座り、声をかけてきた。


「カイト……」


僕は顔を上げて隣りを見ると、建物の中で暗く顔がはっきりとわからないがその影の形でユウナだとわかる。

ユウナは僕を心配してくれるように見つめるが、僕からすればその視線は哀れに思うような目にみえてくる。


「何の用だ……?」


僕はユウナに対してぶっきらぼうに聞いた。

完全に八つ当たりに近かった。

そんな不甲斐ない自分に嫌気がさして、また目を伏せる。


「カイトが、善戦から外されたって聞いて……」


「笑いにきたのか……?」


「え……?」


「不甲斐な僕を笑いにきたのか?」


僕は無意識に口からそんなことを言っていた。

情けない自分を隠すようにそんなことを言っていた。


「ち、違うよ! その、心配で……」


ユウナは僕の自虐で慌てたように否定するが、僕はそれをなぜか嘘だと思いこんでしまった。


「心配…? いいよ、そんな嘘つかなくても……」


「ほんとだよ! 私は……」


「いいから! ほっといてくれ!」


「………!」


ユウナの言葉を遮るように僕は怒りまかせに声を荒げていた。


「わかってんだ……、自分でも弱いって、だけどそれでも、村のために強くなろうって、ひたすら頑張ってきたのにあっさりと外されたよ、笑ってしまうよ……」


無様な姿とはこのことかもしれない。

自分の弱さが嫌で腹立たしく思えてくる。それをユウナに八つ当たりしている。


「僕だってみんなと一緒に戦いたかったよ、けどほんとは怖かったんだ! あんな奴らを相手にするとか、ほんとは怖くて仕方なかったんだ!」


もう心の底から隠していた弱音が次々と溢れてくる。もう止めれなかった。


「善戦から外された時は正直ホッとしたよ、安心した。…けど、そのあとに罪悪感が押し寄せてきて、自分だけ逃げてるみたいで、僕も戦わなくていいのかって……」


僕は話してる最中に目頭が熱くなるのがわかった。涙が溢れ出してきた。

もう止めれなかった。


悲しくて悔しくて弱い自分が嫌で気づかないうちに心が劣等感で押しつぶされそうになっていた。


「カイトは弱くなんか、ないよ……」


ユウナはそっと囁くように僕にそう言ってくれた。


「いや、僕は弱いんだ……」


「ううん、カイトは強いよ……」


「違う! 僕は弱いんだ!」


僕は下を向きながら泣いているせいか、声がかすれていた。


「…じゃあ、どうして私を守ってくれたの?」


「……!」


ユウナに聞かれて僕の心は少しだけ冷静になった。


「カイト、前に私に言ってくれたこと覚えてる?」


そんなことを聞かれて僕はなんのことかわからなかった。

僕は黙ったまま俯いるがユウナは話を続ける。


「カイト、子供の頃に私を魔物から守ってくれたんだよ。子供なのにもしかしたら自分がやられるかもしれないのに、それでも勇敢に立ち向かってくれたんだよ……、私とても嬉しくて頼もしくて、とても心強かったよ。そしてこう言ってくれたんだよ……。『僕がずっと守ってるから、安心しろ』って、そんなこと誰にだってできることじゃないんだよ!」


ユウナは嬉しそうに言っている。

僕はそんなユウナの声で少しだけ顔を上げて見ると、ユウナはとても清々しい顔をして笑っていた。


僕はそんなユウナの横顔に見惚れていた。


「だから、カイトは全然弱くなんかないよ!」


そう言うと一緒にユウナは僕を見て微笑んでくれる。


僕はその笑顔に夢中になっていた。


「ちょ、カイトどうしたの!?」


僕はユウナに抱きついていた。

嬉しかったのかわからない、いや嬉しかった。

ユウナに勇敢だって言われて、嬉しくて……。


「ありがとう、ありがとう、ユウナ……」


僕は子供のようにユウナの胸で泣きながらそう呟いていた。


ユウナはそんな僕を何も言わず、優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。


月の光が暗闇を照らし、二人を包み込むように明るく照らしていた。


「それとね、トビさんはカイトを守りたかったんだと思うよ…」


「僕を、なんで……?」


「優しいから、かな?」


ユウナはイタズラっ子のような笑みを浮かべる。


「なんだよ、それ……」


僕はその夜、ずっとユウナに抱きついていた。

情けなくても弱くても勇敢に生きようと心に決めて……!


——そんな二人を遠くの陰で聞いていた一人の人物、盗聴魔のトビだった。


「別に会話を盗聴してやろうと思って聞いてるわけじゃないが、まあ側から見れば盗聴になるか……」


オレは遠くの保管庫でアーマーを整備しながら二人の会話を聞いていた。


実を言うと、カイトに渡した装備に細工をしてある。

それが盗聴、ほんの実験のつもりだったがまさかこんないい会話を聞いてしまうとは、罪悪感があるな。




——翌日。


戦いのときがやってきた。

村の人たちは準備万端、オレも戦闘準備完了。

全てに抜かりなし! ……多分?


装備を整えて、村の女子供は村長の家の地下造った避難所に避難させ、村の男たちは外で魔王軍を待ち構える。


村の入り口の壁の上にオレは一人で立っていた。


タイガさん率いる村の男たちは壁の内側で武器を装備して待機。


戦闘前の静けさが緊張感を煽る。


オレは静かにそっと目を閉じる。すると——


ブー! ブー! ブー! ブー!


敵感知の警報が鳴り響く。

村の男たちは一層気合いが入り、神妙な顔つきになる。


「……来たか」


目の前に魔物の群勢が見えてくる。

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