聞かれてた
——タキア村にて。
オレは村の砂利道でユウナさんに会った。
なぜかはわからないが、ユウナさんはオレの前に立っている。
オレは吸い込まれるように見惚れていた。
月の光がその姿を妖艶に魅せている。
「あの、トビさん……」
「はい、なんでしょうか……?」
こんなシチュエーションだと、なんか如何わしいことか、ラブコメ的展開になりそうだが、オレにラブコメの神は舞い降りてこない。
だから用があるとしたら、何かのお礼か謝罪くらいだ。
「その、ありがとうございます!」
「いえ、別に大したことないですよ」
ほらやっぱり。何が、と理由を聞くのが面倒なので省くことにした。
だって内容は多分、装備を造ってくれたことだろう。
「それと、実は謝りたいことがあって……」
「何ですか?」
謝りたいことって何だろう。何かあったけ?
「その、私、聞いちゃったんです!」
「何をですか?」
「その、私が、魔女の生まれ変わりだと…」
「ああ、そのこと……、え? 今なんて?」
「だから、私が魔女の生まれ変わりだと……」
今のはオレの聞き間違いか?聞き間違いかな?うん、聞き間違いだろう!
まさか、聞いてるわけないって、うんうん!
絶対何かの聞き間違いだ!
よし、気合い入れてもう一回聞いてみるか!
「もう一回、聞いていいですか? 何を聞きましたか?」
「魔女の生まれ変わり……」
ユウナさんはそう言って申し訳なさそうに下を俯く。
オレは数秒の間、地蔵のように固まったあと、ようやく理解した。
なるほど、聞かれてたのですか……。
ふぅー、まずいことになりました……。
——空中保管庫にて—
「はあ!? 聞かれてた!? なんてことしてくれての君は!」
「すいませんって謝りたいところだが、どうやって入ったクソ女神!」
オレはユウナさんを一旦、空中武装保管庫に連れてきたが、まさかの女神がなぜか侵入していたことに腑煮え繰り返っていた。
「そんなこと今はどうでもいいでしょ!
どうすんの! ねぇ、どうすんの!」
「知るか! オレだってまさか聞かれてるとは思ってなかったんだよ! 大体お前が大きな声で話してるから気づかれたんじゃねぇのか! あぁん?」
「はあ? 私のせい、私のせいなの! だからアンタは女の子にモテないんだよ!」
「おい! 今オレのモテ期は関係ねぇだろ!」
「あ、あの……」
「「あぁん?」」
「ひぃ!」
おっと、ついつい女神相手にしてるとヒートアップしてケンカしてしまっていてユウナさんの存在を忘れてた。
しかもオレと女神はユウナさんにかなり鋭く睨んでしまった。
「ああ、すいません、ユウナさん。えっと、
その、魔女の件ですが……」
一体どこから話そうか?
あなたは魔女の生まれ変わりですと言われて納得できるものなのだろうか。
だがいずれ知ってしまう事実だし、話しておいたほうがいいような……。
「率直に言います! ユウナさん!」
「は、はい……!」
「ユウナさんがこれまで魔物に襲われるのは
偶然じゃありません、すべて魔女の生まれ変わりで得た魔力が原因です」
「そう、ですか……」
ユウナさんはそう言って下向いてしまった。
あれ? もしかして受け入れられないか?
まあ、そうだよな。いきなり魔女の生まれ変わりのせいで魔物に襲われるなんて夢にも思わないだろうな……。
「なんとなくですが、よくわかりました」
「え、ほんとですか?」
「はい、とは言ってもまだ信じられませんが……、でも魔物に襲われる原因がわかってよかったです」
ユウナさんはどこか安心したような表情をしていた。
「驚かないんですか……?」
「いえ、驚きましたよ、すごく……。ただ、あんまり現実感がないというか……」
「以外と抜けてますね…」
「うふ、よく言われます……」
ユウナさんはクスッと笑っていた。
オレも心が軽くなる感じがした。
重苦しいのは苦手だからな。
「あ! だから私だけ魔法が使えるんですね!」
「そうみたいですね……」
ユウナさんが嬉しそうに言う中でオレは苦笑いを浮かべた。
それはこのあと言うことがもしかたらユウナさんに責任を負わせるんじゃないかと思うから。
言わないという選択肢もあるが言わなければ
また同じ事が起こるかもしれないから。
オレは自分の決断に悔いがないことを祈る。
「ユウナさん、それと今回の魔王軍幹部の襲撃もユウナさんの魔力が狙いでこの村に攻めてきました」
オレはそう言ったあと、下を向いた。
ユウナさんの顔を見るのが怖かったから。
もしかしたら悲しそうな顔をしているんじゃないかと思ったら直視することができなくなった。
「それは、大変なことになりましたね……」
「え……?」
オレは予想してた反応と少し違う答えが返ってきたから。
いや、思いっきり違う。
まるで他人事のような言い方だった。
「それだけですか……?」
「はい……」
あっけらかんと言うユウナさんにオレはだいぶ拍子抜けしてしまった。
オレとしてはもうちょっとリアクションが欲しかったような気がするが、まあいいか!
本人が気にしてないならそれでいいや!
「それならよかったです……」
「はい、それに守ってくれる人がいるから……」
「あ、そうですよね……」
そう言ってニッコリと微笑んでいるユウナさんを見てオレはカイトの顔が思い浮かんできた。
そういえばユウナさんにはあのカイトがいるから別に落ち込むこともないんだよな。
ああ、なんか気遣って損した気分。
「あ、そうだ! 魔法といえば!トビさん
少し頭をこちらへ」
「あ、はい……」
オレは言われるがまま頭をユウナさんの顔に近づけるとユウナさんは手をオレの頭にかざした。
すると頭が軽くなるような感じがした。
「ん? ユウナさん、これは?」
「回復魔法をかけてみました!」
「回復魔法!? え、なんで?」
「トビさん、ずっと作業していてお疲れのようでしたのでかけておきました!」
ユウナさんはまるで天使のような笑顔でオレに言ってくれた。
ユウナさんに回復魔法をかけてもらったあと、ユウナさんを家まで送ってから別れた。
そのあと保管庫のほうに戻り、オレは一息つく。
しばらくオレは保管庫の中の椅子に座り、天井を見つめてただなにも考えずにいた。
何かを考えていたわけではなく、ただ一点を見つめたままぼーっとしていた。
しばらくしてから眠くなってきたのでそのまま寝落ちした。
目を覚まして保管庫の外に出ると、太陽の光が空のてっぺんにあった。
もう、昼か?
やけに今日は調子がいい。
ユウナさんにかけてもらった回復魔法が効いたのか。
オレは欠伸をして村に戻る。
—鍛治場にて—
オレは鍛治場でタイガさんを筆頭に村の男たちで作戦を立てていた。
「とりあえず、これでいいだろう」
「トビ殿、これで奴らは倒せるでしょうか?」
タイガさんがまるで自信無さげに言ってくるがそれではダメだ。
オレはタイガさんの心に鼓舞を打つように言った。
「いや、倒さなきゃいけない。奴らは倒さない限りどんどんと攻めてくる。無限に……」
「確かに……」
ヴェルシャス、奴がどんな卑劣な戦い方をしてくるか分かったもんじゃない。
奴らは俺たちの負の感情をエネルギーにしているだろう。
恐らくオレたちが準備していることも想定内に違いない。
ならばどんな奥の手を隠しているか。
だが奴は知らないオレがただの鍛治屋じゃないことを——
それはオレが造った武器や武具を見れば一目瞭然。
オレが造りだした刀、鎧、銃、そして盾。
この武器や武具にはいろいろ細工はしてあるがそれは戦いを見ればわかる。
もし、まだやり残したといえば——
「これなら、なんとかなりそうですね!」
カイトが武器を見ながらヴェルシャスとの戦いに燃えているが、オレからすれば実は言うとあんまり参加してほしくないんだ。
別にカイトがイケメンで嫌いだから善戦に出てほしくないとか、カイトにカッコいいところを全部持ってかれる心配があるからとか、そういうわけではない。
……が、オレが戦いに参加してほしくないのはユウナさんのためでもある。
オレは以前、ユウナさんに鉱山の洞窟で聞かされたことを思い出した。
ユウナさんはカイトが死ぬ夢を見て泣いていた。
こんなにも思ってくれる可憐な女性がいるのにカイトは戦う気満々の様子。
さて、どうやって善戦から離脱させようか。
オレがそんなことを考えてるとはつゆ知らず
カイトは凛々しい顔でオレにこう宣言してきた。
「トビ殿、いよいよですね! 共に頑張りましょう!」
なんとも残酷な事だが、仕方ない。
カイトには引き下がってもらおう。
「カイト、悪いがこの戦いから手を引いてくれ」
「え……!?」
カイトは何を言われたかわからない様子か、
もしくはオレの言葉が信じがたいか、呆然とした表情からだんだんと焦りの表情に変わっていく。
「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ。どういう意味ですか!?」
カイトの声は震えていていた。
その表情には焦り、怒り、驚きといろいろ混ざっているように見えた。
「そのままの意味だ。お前はこの戦いに参加しなくていい、下がれ」
オレが考えた結果の答えだ。




