襲来
——タキア村の鉱山にて、オレはユウナさんと話をしていた。
「でも、それが辛いんです……」
ユウナさんは涙を浮かべてポロポロと泣いていた。
オレは非常に焦っていた。
これはどうするべきだ! どうやって慰めるべきなのか! わからん!
女性が泣いてる現場に早々居合わせることなんて昔ではありえないから、涙を流す女性を慰める方法なんて知る由もない!
この場合、イケメンってどうやって慰めるんだっけ?
あああああ、わかんねぇぇぇ!!
オレは自分の頭を掻きむしる。
「ごめんなさい、急に、なんか涙がこぼれて……」
「い、いえ、大丈夫です!」
ユウナさんはどうにかして止めようとするが涙はそれに反してどんどんと流れている。
辛い、その言葉に少し疑問を抱いたので聞いてみることにした。
「その辛いってのは、カイトさんが戦っているのが辛いということですか?」
「それもそうですが、私が戦うことができないから、余計に辛いんです……」
オレが恐る恐る聞くと、ユウナさんは泣きながらも微かに絞り出すような声で話してくれた。
確かに、ユウナさんの言うとおりで魔法も使えない人たちが魔物や魔獣相手に立ち向かえるのも限度がある。
ユイさんの刀を見るとわかる、刃こぼれはそんなに目立たないがもし硬い魔物とかであの刀を使うようなら戦っている最中に折れる可能性もある。
ましてやユウナさんは魔法を使えるのを黙っている。
そうなったらいよいよ魔物との戦いも厳しくなる。
「夢で、見るんです、カイトが、血を流して、倒れているのを……、とても怖くて……」
ユウナさんは小さく華奢な身体を震わせ、唇を噛み締めて俯いている。
相当心身ともに参っている状態だな。
オレはそれについてどう言えばいいかわからずにいた。
「大丈夫、ですよ……、何も心配することはありません」
何が大丈夫なのだろうか、自分で言って少し苛立ちを覚える。
あまりいい解答ではない、そう言ったのはその場凌ぎでしかない。
「本当、ですか……?」
ユウナさんは顔を上げてその純粋な瞳でオレを見る。
オレは女性から相談などされたことがないからあまり安心させるようなことは言えない。
それに下手に無責任なことは言いたくないと思った。
なので心苦しいがひとまず退散することにした。
だが、このまま帰るのはちょっと失礼か。
「あまり気のきいたことを言えませんが、ただカイトさんが戦うのは誰か守りたい女性がいるからじゃないですか……」
「守りたい、ひと……」
ユウナさんはか細い声でそう呟いた。
何を思っているのか表情からは読み取れなかったが、彼女なりの解釈をしたのか。
「それに、死ぬつもりで戦っているわけではないので……」
「えっ………?」
オレは最後にそっと呟いて鉱石の洞窟から立ち去る。
ユウナさんは聞き返してきたが、そのまま振り向くこともなく逃げるかのごとく鉱山をあとにした。
「はぁ、息苦しい…」
鉱山から出てオレはため息をついていた。
なんかすごい重苦しい雰囲気だった。
オレにはああいうものは居心地が悪い。
「ユウナさんには悪いが、今のオレに言えることは何もないんだ…」
こういうときに何かカッコイイことが言えない自分が情けない。
いや、イイことを言おうと思えば言えたが、なんかあの感じのユウナさんを見てたら何を言っても逆効果かなと思って言わなかっただけ、決してなんかカッコいいセリフが思いつかなかったわけではないのだ!
オレはそう自分で無理やり納得させてた。
すると————
ブー! ブー! ブー!
敵感知のセンサーが反応して左の腕輪が鳴り響く。
またこの村に何かが来たのか!
オレは急いで村に向かって走りだす。
タキア村に着くとオレは自分の目に映った光景が信じられなかった。
この村に魔物の群勢が大量に迫っていている。
一体何が起こっているのかよくわからなかったが、只事ではないことはわかる。
オレが行くとタイガさん含め、ユイさん、カイトさん、そして村の男たちが武装して村の入り口に立っていた。
「タイガさん!」
「おお、トビ殿! 来てくれたのですか!」
「はい、異常事態ですか?」
「ええ、そのようですな……」
オレとタイガさんはそう会話したあと、魔物の群勢のほうに目を向ける。
魔物の群勢はまるで統率が取れたように列になり、歩をゆっくりと進めてくる。
これだけ統率が取れてるとどうやらかなりの大物がいるな。
やがて魔物の群勢は村の入り口から数百メートル離れたところで歩みを止めた。
この村に何の目的で来たのかはさっぱりだ。
魔物の種類はさまざま、アンデットにオーク、オーガもいる、およそ数百体もの魔物を操っているものは、………魔王か!?
「道を開けろ!」
すると魔物の群勢の後ろから声が聞こえた。
声からして男だ。
魔物の群勢は真ん中の道をゆっくりと開ける。
そしてその魔物たちを操っていた人物が姿を見せる。
「お初にお目にかかります。人族の皆様、我は
魔王軍幹部の一人、ヴェルシャスと申します。
以後、お見知りおきを」
その魔王軍幹部と名乗るものは礼儀正しく挨拶をしてきた。
その幹部の身なりはどこぞの育ちのいい貴族かと思うくらいに清楚な黒のタキシードに身を包み、身長はかなり高く足が長い、タイガさんともしかしたら一緒なくらい、そして顔は男前ときた。
なんか腹立つし、ムカつくなあいつ!
「タキア村、村長のタイガだ! この村に一体何の用だ!」
タイガさんが前に出てヴェルシャスと交渉を始める。
するとヴェルシャスはニヤリと笑い、話をし始めた。
「いや、昨夜の件で話をしようと思いまして……」
「昨夜……?」
「ええ。昨夜、我が放った魔物たちがあっさりとやられてしまったのでそのお礼参りに来ただけです」
そうは言うが完全に何か企んでいる、そんなことを思わせる笑みを浮かべこちらを見る。
「それは、オーガのことか……?」
「はい。その通りです」
タイガさんが言うといかにもという感じで答えた。
つまりオレが倒したオーガはあのヴェルシャスが命令してこの村に襲いに来た奴らということか。
ずる賢いというか、悪賢いというべきか。
…ん?…てことは今回来たのってオレが原因でもあるのか?
「なら、一つ聞いてもいいか!」
「なんでしょう?」
「これまで村の住人を襲っていたのはお前の仕業か?」
タイガさんの顔は怒りに満ちた表情をしていたが、話し方や言葉は至って冷静だ。
恐らくは探っているのか、確かにもしあのヴェルシャスという幹部が今まで村の襲撃犯なら解決となるが、その目的がわからない。
オレたちの様子を見ていたヴェルシャスはゆっくりと口角を上げてニヤリと笑う。
やはりコイツが黒幕か?
「さて、何のことでしょう?」
どうやらシラを切るつもりらしい、タイガさんもその態度に腹を立たせているのか、ヴェルシャスを鋭く睨んでいる。
「我はただ魔王様の命令に従って遂行したまで、他に何もないのだ。それに我は貴様らに用はない」
ヴェルシャスのその言葉に疑問を抱いた。
オレたちに用がないなら、なぜここへ?
「我は魔王様の命で絶大な魔力の持ち主を攫いにきた。早くそやつを差し出せ」
ヴェルシャスはとある条件を提示してきた。
絶大な魔力の持ち主、魔王軍幹部の襲来、タキア村が襲撃された理由、………もしかして!?
オレは嫌な予感がよぎった。いやむしろそれしかないと結論は出ていた。
奴の狙いはユウナさんだ!
「絶大な魔力の持ち主? そんな奴はこの村にはいないぞ! お前の勘違いじゃないのか?」
タイガさんはヴェルシャスに向かって大口を叩き、威張っているが知らないんだ。
ユウナさんがどうして魔物に襲われやすいか。
「勘違い? いや、そんなはずはないさ。
どれ、探してみるか……」
ヴェルシャスはそう言って目を閉じて黙り俯く。
見る感じどうやら魔力を辿っているのか、それとも感じとっているのか。
するとヴェルシャスはバッと目を見開き、コウモリのような黒い翼を広げて飛び立とうとする。
…まずい!
オレはすぐさま左腕輪に指示を出してアーマーを保管庫から取り出す。
奴の行き先は恐らくユウナさんが動いていなければ、まだ鉱山の中だ!
アーマーの右腕を装着すると同時にヴェルシャスに向かって炎弾を撃ち込む。
ヴェルシャスはその気配に気づいて、間一髪のところで避ける。
空中でよろめきながらもキレイに地面に着地する。
そして立ち上がりオレを睨む。
「貴様、面白いことをするではないか?」
ヴェルシャスは不気味な笑みを浮かべる。
ゴールドアーマーが次々とオレの身体に装着していく。最後に顔のアーマーが装着し、赤眼の目が鋭く光る。
「悪いがこれ以上好き勝手やるなら容赦はしない、こっちは色んな意味で吹っ切れそうなんだ、邪魔をするな」
まさに一触即発、戦いの火蓋は切って落とされた。




