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非才の後悔

その夜 宮殿・南宮の和室の縁側

シャル)「おや。どうやら先客がいたようですね」

孔庵)「おやや。湯上ゆあがりですか。」

シャル)「お隣失礼してもよろしいですか?」

孔庵)「どうぞ。どうぞ。」

孔庵は氷の入った陶器の酒瓶についているひもを持ってゆらゆらと揺らした。

「…今日はお見事でしたね。非才、久々に感銘を受けましたぞ!」

「それは先程聞きましたよ。」

「…非才は、やはり一線を越えてしまう技を使ってしまったことが今でも心に残っています」

「……あの技は使うべきではなかったと?」

「えぇ。これは非才の昔話にまで戻る出来事なのです」

「ではぜひ聞かせていただきたいです。」

「非才の昔話を聞きたいと?」

「言ったでしょう。僕は根っからの変わり者だと」


それは生まれもわからなければ、どこやってここまで生きたのかもわからない。物心がついて景色が見えるようになった時の光景を今でもよく覚えている。非才は処刑台のすぐそばで目が見えるようになった。

名前も罪もない赤子を殺そうなどとは誰も考えはしなかったのだろう。だから非才は生きていた。でも必ずしもそうかといわれても断言はできなかった。転々としたかもしれないし、もしかしたら川から流されてきてここに置いていった。そんなことも考えられるからこそ断言はできなかった。

まだ歩くことのできない孔庵は一人、捨てられた場所で這いつくばりながら、歩くことを覚えていった。服は落ちているものを拾って着ていた。それからしばらくして、街を歩く孔庵に声をかける男が一人。

「お前、ひどい身なりだなぁ」

「なんでしうか」

「ろくに言葉もしゃべれねぇのか。まぁいいや。一人で歩いていたお前に服と引き換えに仕事をしてもらおうかと思ってよ。あそこの家にいる女と子供3人を殺してこい」

男が指を指したのは茶屋で働く女性とその周りにいる子供3人だった。

「もし殺せたら、お前の服と…そうだなぁ…将来を約束してやる」

男が孔庵の前に捨てた刀は打刀と呼ばれるもの。だがまだ小さかった孔庵には少し重かった。男は静かに孔庵の前から去っていった。

その夜、孔庵は女性と子供3人を切った…いや、切ったように見せかけた。どうしても殺すことができなかった。罪のない人間を殺すことなど孔庵にはできなかった。ましてや子供に手をかけることはできず、孔庵は首に切り傷を浅く入れた。物音に気付いた女性が叫び声をあげそうになるも、孔庵が口封じをする。

「これは忠告だ。店をどこか遠くへ移せ。ここは危険だ。もし移れないのであれば、非才は、ここでお前たちを殺すことになる」

そういうと、女性は涙を浮かべながらコクコクと首を縦に振った。非才は窓から出ていく。翌日、その茶屋は音もなく人だけ姿を消した。

「…よくやったじゃねぇか。これは報酬の服だ。将来も約束してやる。ついてこい」

その男について行けば、刀や銃を持った男どもがうじゃうじゃいた。そこで孔庵という名をもらい、孔庵は仕事ぶりが認められ、一気に幹部へ昇格した。孔庵が16になった時、その出来事は突然やってきたのだ。


ならず者のアジトにて。

「おい孔庵!あんときの茶屋の娘とガキ覚えとっか?」

「……えぇ。」

「そうかそうか。生きとるって情報あったんが。お前。あん時始末しなかったんね」

一気に汗が走った。あぁ。見つかってしまったのかと。

「こっちで見つけちまったんが。…どう落とし前付けとんじゃ」

「……罪のない女性と子供を殺して何になるんです?!」

孔庵が声をあげると、その男は刀を突きつけた。

「売りさばく。子供は特に金になる。あの時死体がなかったのは他の奴に持っていかれたんやなって思ってたんど。でも違ったなぁ。まさか、生かしておいていたとは思わなってん。あぁでももうこの世にはいないなぁ。昨日殺したって言ってたんが。」

この男は危険だ。この男の首を落とさなければいけない。

男が指を鳴らすと、ぞろぞろと他のならず者がやってくる。

「お前ここでしまいやな」

あぁ。そうか。しまいか。なら、非才は、非才なりの、この物語に終止符を打とう。

非才はあの男からもらってずっと離さず持っていた打刀を振るう。

人というのは。本当は、こんなにも切りやすいのか。

非才はバタバタと人を殺していく。自分の人生を終えるかのように、その服にはべったりと返り血がついていく。

あぁ。悲しい。人というのは愚かで、美しくない。悲しい。非才は悲しくてたまりませぬ。なぜ殺されてしまったのです。なぜもっと遠くへ逃げなかったのです。非才はアナタたちが消えてしまったことがとても悲しいのです。その分、殺せと言ったコイツに憎しみと嫌気を抱き、非才も何もできなかったことに失望し、憎み、嫌う。あぁ。私はもう止まることなどできない。

気づくと、孔庵と共にいた仲間は血にまみれ、原形をとどめてはいなかった。孔庵は殺された茶屋の前で声をあげて泣いた。何もできなかった自分に。あの時忠告していた後悔。すべてが無駄だったと思い込み、孔庵は悪者だけを殺す本当の人切りとして生きることにした。すべての憎悪が形になり、あの大太刀は孔庵の前に姿を見せた。孔庵は気づけば倫道としてその道を歩んでいた。

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