記憶とキオクとキモチ
「……消して悪い母じゃなかったんだ。僕が熱にかかった。それから母は必至で治療薬を探してくれた。」
シャルは母を抱いて涙を流す。
「その時だった。疲れた母の疲労に付け込んで、ソイツ(悪魔)が現れたのは。―――感情も思いも、記憶さえも全部黒く塗り替えた。」
ナタネはシャルのいたベットに腰掛ける。
「なら、姉さんがソイツのワリィとこばっか言ってのはなんでだ」
「…姉さんは――記憶を失った心が塗り替えた理想。最初は姉さんが僕をいじめていたんだ。」
「どういうことだ」
「そのままだよ、あれは雨の日だったなぁ」
「なんで、痛いよ、姉さん!」
「うるさい!なんでアンタばっかり!アンタばっかり!!」
シャルを子供には少し重いパイプで叩くのは紛れもないローズの姿だった。雨の音にもパイプの音は負けなかった。
「…アンタはいらなかった!アンタがいるから母様は私を見なくなった!なんでよ!!どうしてあなたは幸せばかり持っていくの?!」
母の腹から生まれた姉さん。母の腹から生まれた僕。でもそれは間違いで、本当は僕は拾われた孤児だった。孤児だった僕は臭くて、汚れまくっていた。でもそんな僕に近づいて綺麗にしてくれたのは、紛れもなく、姉さんの母だった。
「アンタなんていなければ!アンタなんて!」
ローズはパイプを振るも、足を滑らせて転んでしまった。反動で倒れてくるパイプはローズの頭を重く掠った。帰ってこない僕たちを心配した役人と騎士たちはローズを見るなり、病院へ急ぐ。僕は自分で包帯を巻いた。ローズは病院でしばらく眠っていた。それからしばらく経って、僕は熱にかかった。
「私、絶対に治る方法を探すわ」
寝込んでいた僕に母は時間を見つけてよく僕のところに来てくれた。ある日、パタッと母が来なくなった。代わりに来たのは、眠っていた姉さんだった。恐怖に震える体。でも姉さんは”違った”。いや違いすぎて怖くなった。
「大丈夫?シャル」
怖かった。突然変わった日常に。突然現れた日常に。理解するのに時間がかかりながらも僕は姉さんの傍にいた。母には気味悪がられるようになった。その時だった。姉さんの肩に白い悪魔が少しだけ見えた。
「それが全部だよ。それがはじまり……全部、変わった姉さんの考えた理想で物語は終えるんだね」
その時、下からルギの声が聞こえる。
「おい!そっちはどうなった?!終わったなら援護してくれ!」




