鵺(ぬえ)
深紅の空に負けじと赤く光を放つ月。屋根の上から見える景色はすべての闇を飲み込んだような赤黒い雲の数。月は深紅に染まっていてもその美しさは顕在したまま。
「今日も一興のためにどっかに行ってるのかなって思ってたんだけど。あ、俺の隣空いてるよ?座る?」
「…座らん。……今日はその目で何を見ている」
屋根の上で体を伸ばす螺の隣に来たのは、鎖骨に古傷を負った人間。
「今日はねぇ、名前も知らない死んだヤツのことかな?」
「……ヘルガーに行った者か」
「うん、アッサリと死んだんでしょ?アイツの手によって」
「……言っていたな。…始末した。ただそれだけを聞いた…」
「そっか、あーあ、話してみたかったなぁ」
「……一興にもならんぞ」
「え?そうなの?残念」
螺は人間の方を見上げた。
「今日は何かイッキョウあった?」
「ないな……」
「えー。つまんないな。昨日のヨキョウとやらはどうなったの?」
「お前余興をなんだと思っている。余興なんぞすぐに静まる」
「そうは見えなかったなぁ。――死人の血と、酒を混ぜて飲んで楽しんでる鵺は十分ヨキョウに浸ってたよ」
鵺)「……そうか…美酒であった。あとで賄いとして送ろう」
「いらないよ、趣味の悪い酒なんて死んでもごめんだね。」
「…そうか、あれよりうまい美酒は中々にないぞ」
「……鵺、やっぱり人間になんて見えないや」
「…人間なんざとうに捨てた。今ここにいるのは妖怪だ」
「ふぅん…。あ、そろそろ李が帰って来るや」
「……あとで別の美酒を送ろう」
鵺は屋根から音なく消える。
「鵺の酒は受け取れないや」




