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第16話 じゃあ、ずっと離さないでください


「……紅。元気がないように見えます。体調が悪いんですか?」

「可もなく不可もなくだ。血を抜かれて多少怠いけど、それはいつものこと。それよりも――高校生にもなって一緒に風呂に入るのはどうかと思うんだよ」

「いいじゃないですか。この方がお互い待つ必要がありません。子どもの頃は一緒に入っていましたし……そもそも、私の裸を見ることも珍しくないでしょう?」


 事もなさげに言ってのける那月と俺がいるのは白い湯気が立ち込める浴室。

 舞咲家の本邸にあるような温泉施設レベルの広さではなく、至って普通なサイズの浴槽に那月を抱きかかえるような体勢で収まっていた。


 当然、高校生の体格で男女が一緒に入れば狭い。


 自然と密着する肌と肌。

 お湯だけではない温かさと言葉にしがたい理性を揺るがす柔らかさが絶えず五感を刺激して、そこに那月がいることを知らしめていた。


 二人分の体積によって(かさ)を増したお湯は少し動くだけで浴槽から溢れてしまうだろう。

 なるべく動かないようにしたいのだが……こと那月には俺の思いが伝わっていないらしい。


「……一応聞くけど、吸血での発情は収まってるんだよな?」

「そうですけど?」

「吸血衝動は性的興奮でも起こるんだよな」

「紅も知っての通りです」

「…………この状況、大丈夫なのか?」

「普段ならあまり大丈夫ではないのかもしれませんが、流石に鎮めてすぐに再発することはないと思いますよ。……多分」

「自信を持って言ってくれよ頼むから……」


 顔に手を当ててため息をつけば、目の前にあるのは雪原のように白い那月のうなじがあって。

 お湯に浸かってしまわないようにと長い銀髪は頭の上で団子にしてあるため、いつもは隠れているそこが露出されている。


 シミも傷もない滑らかな肌色。

 水滴によって彩られ、妙な背徳感と艶やかさを放っていた。


 視線を外せば線の細い身体のラインが目に入る。

 そして、ほんの僅かに慎ましいサイズの胸が横から見えてしまっていて――気分を変えるべく咳払いをした。


 性欲を煽るにはじゅうぶん過ぎる威力を秘めていることを、那月はわかっていないのだろうか。


「あのなあ……忘れてそうだから言っておくけど俺だって男なんだからな?」

「そんなことわかっていますよ。私を女にしたのは紅じゃないですか」

「生々しい発言はやめろ」

「こういう話は女性の方が深くまでするみたいですよ? ……まあ、話す相手はいませんけど」

「自爆してどうするんだよ」


 乾いた笑いを漏らす那月。

 自虐ネタに対する適切な返しを持っていない俺としてはフォローも難しい。

 

「少し話を戻しますけど……紅が望むなら、私の身体なんて好きにしてくれていいんですよ?」


 静かに、躊躇(ためら)いも緊張もないまま、さもそうするのが当然かのように那月は呟く。

 くるり、と首だけで振り向いて、間近で視線が交わる。


 那月が俺の胸に(もた)れかかってきて、さらに距離が近くなった。

 同じシャンプーを使っているはずなのに、鼻先をくすぐる甘い香りが意識の隙間に流れ込んで。


「…………あんまりそういうことを言わないでくれ。ただでさえ薄っぺらい理性が粉々に砕ける」

「砕けても問題ないでしょう? 私たちは許嫁なんですし、このままいけば結婚も視野に入ります」

「そうなのかもしれないけど……自分の欲に溺れてそういうことを求めるのは男として最低だろ」


 その気になれば那月を問答無用で組み伏せて、強引に犯すことだって出来てしまう。

 理性があり、その人を……那月を大切に思っているから出来ないのだが、こんな状況になれば嫌でも意識はする。


 特にどこをとっても魅力に溢れていて好きな異性であるのなら、人間として当たり前の反応だとも思う。


 もちろん、それが許されることではないと理解しているけど。


「……それを言うなら、私は自分の欲に(おぼ)れていることになってしまいます」

「那月は吸血衝動って立派にどうしようもない理由があるだろ。それを責めようとは絶対に考えない。生理現象をどうにかしろって方が無理な話だ」

「だとしても、そこに私の意思が全く介在していないと本当に信じられますか? 本当は私が吸血衝動だと偽って、吸いたいときに求めているだけかもしれませんよ」

「……那月は疑って欲しいのか?」

「そうではありません。ただ……私だけが望むのはフェアではありませんと伝えたかっただけです。紅も私に何かを望んで初めて対等です。少なくとも、私は紅とそういう関係でありたいと思っています」


 だから、と囁いて。



「紅が望むなら私は喜んで受け入れますよ。私が紅に背負わせている身体的、精神的負担と責任は、そんなもので相殺しきれる重さではありませんから」



 そうでしょう? と言うように、那月が俺の首――少し前に再びつけられた噛み痕へ手を伸ばし、しっとりと濡れた指先が優しく撫でる。

 細められた目元は慈しみさえ湛えていた。


 那月の本心ではあるのだろう。

 緋色の瞳の奥には嘘偽りの色が窺えない。


「それとも……私は欲を出そうと思えないほど魅力がありませんか?」


 細い声で問う那月の雰囲気は、迷子の子どものように映ってしまって。


 自分の行いのせいでこんな風に思わせていることが、本当に情けなかった。


「……そうじゃない」


 否定を返して、那月の手首を掴んだ。

 細くて凹凸の少ない、力を込めれば折れてしまいそうなほどの脆さを感じる手首。


「…………那月はずっとずっと、どうにかなりそうなくらい魅力的だ」


 俺が那月に救われたあの日から、それはずっと変わらない。


 掴んでいた手首を那月の前に戻しながら、少しだけ迷いつつも後ろから抱きしめる。

 か細い声を漏らし、肩が震えたのも伝わってきた。


 でも、那月は拒絶しようとせず、力を抜いて身を預けてきて。


「――那月を独占して、他の誰にも見せたくないって思うくらいには欲深いよ」

「……じゃあ、ずっと離さないでください」


 那月が俺の腕を胸元に抱き寄せる。

 お湯の温かさに混じって腕に当たる二つの膨らみの柔らかさ。


「言われなくても手放す気はないって」

「だったら許嫁も認めてくださいよ」


 ……まあ、それはそれとして。


「あんまり長く入ってるとのぼせるぞ」

「話を逸らしましたね?」

「上がって夕飯の準備し直さないとだろ。流石に腹減った」

「今離れて大丈夫なんですか? 私の勘違いじゃなければお尻の下で大変なことになっている気がするんですけど」

「そういうことは言わなくていいんだよ」


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