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連載候補短編

貧乏令嬢は大魔法使いに弟子入りします ~両親を失い、婚約破棄もされ、貴族の地位も奪われそうになり散々な状況だけど私は元気です!~

作者: 日之影ソラ

「え……」

「信じられないかもしれませんが……旦那様と奥様は……お亡くなりになられました」


 ある日突然、両親が亡くなった。

 あまりにも唐突に告げられた別れの事実に、幼い私は言葉も出なかった。

 王都で開かれるパーティーに出席するため、屋敷を出発したのが今朝のこと。

 帰りは明日になるから、しっかりお留守番しているように言われて、私は元気いっぱいに返事をして二人を見送った。

 知らせが来たのは、出発した日の夕刻だった。

 この日は曇天で、王都の方角にはもっと大きな雨雲が漂っていた。

 嫌な予感はしていたんだ。

 言葉にできない不安があった。

 だけど、まさか……こんなことになるなんて。


「お父さん……お母さん……」


 悲しさと孤独感が押し寄せる。

 大好きだった両親との別れは、到底受け入れられるものではなかった。

 現実を理解するのにも時間はかかる。

 だけど、周囲は待ってはくれなかった。

 お父さんがいなくなってしまったことで、繰り上がりで私が当主になってしまった。

 地方の小さな貴族とは言え、その代表が十歳の子供に務まるはずもない。

 しかし、他に跡取りもなく、それ以外の選択肢はなかった。

 今までお父さんがやっていた仕事を、私が一人でやらなければならない。

 当然、できるはずもない。

 薄情なことに、懇意にしていた貴族たちも離れていってしまった。

 

 そして……。


「アリス……君との婚約を破棄することが決まったんだ」

「レグルス様……?」

「すまない。父上たちが決めたことだ。私には何も……できない」

「そんな……」


 もっとも親しくしてくれていた貴族の家。

 アルマーク家も最後には離れていってしまった。

 四歳から仲良くして、婚約者になった幼馴染のレグルス様も、ついにはいなくなった。

 お金もなくなっていき、使用人たちも次々と屋敷を去っていく。

 そうして一年も経たずして、屋敷には私一人だけが残された。


 私は本当の意味で、独りぼっちになった。


「会いたいよ……お父さん、お母さん……」


 いくら呼びかけても返事はこない。

 当然だ。

 二人はもう、この世にはいないのだから。

 時間の経過と孤独が、私に残酷な現実を実感させる。

 毎日のように泣いていた。

 一人になった私は、一日のほとんどを自室で過ごした。

 部屋には思い出深い絵本が積み上げられている。

 辛く苦しい日々を乗り越えるため、両親のことを近くに感じるため、私は毎日のように本を読んだ。

 昔からおとぎ話や空想が大好きで、よくお母さんに読んでもらっていたんだ。


「お母さん……あ、これ……」


 何気なく一冊を手に取る。

 その本は、お母さんが帰ってきたら、一緒に読もうと約束していたものだった。

 まだ新しい本だ。

 最近の、この国に伝わる一つの伝説について語られている。

 その伝説とは、千年以上前の大魔法使いが、ゴーレムになって現代に復活したというものだった。

 一説には近年起こった実話を元にしているらしいけど、とても信じられない。

 ただ、私にとってこの物語は希望に見えた。


「そんなにも昔の人が戻ってくるなら……」


 お父さんとお母さんも……もう一度この世界に。

 大人たちが聞けば、愚かだとか哀れだとか散々なことを言われるだろう。

 それでも私は本気だった。

 二人に会いたい。

 お別れの言葉も言えないまま、さよならするなんて絶対に嫌だ。

 そうして私は決意した。


「私……魔法使いになる!」


 絵本に出てくる大魔法使いみたいになって、二人を蘇らせてみせる。

 そのために、いっぱい勉強をしよう。

 二人が戻ってきた時に、この屋敷がなくなっていたら大変だ。

 貴族のお仕事も勉強して、私がこの家を……エーデルワイズ家を守るんだ!

 何があっても……。


 それから、四年ほどが経過した。


  ◇◇◇

 

 王都の役人が屋敷を訪ねてくる。

 彼は険しい表情で私に言う。


「エーデルワイズ辺境伯、これ以上納期を遅らせるのであれば、こちらも然るべき対処を取らせていただきますよ」

「すみません! もう少しだけ待っていただけませんか?」


 真剣に頼み込む。

 今の私にはこれしかできない。


「……はぁ、いいかげん諦めてはいかがですか? 前当主がお亡くなりになられてから約四年……たった一人で家を支えてきたことは素晴らしいことです。ただ、もう限界でしょう?」

「それは……」


 事実、限界は近い。

 不慣れながらに勉強して、お父さんのお仕事を真似てきた。

 それでも足りない。

 一番大切な……お金が。

 二人がいなくなり、ふさぎ込んでいる間に、私の家が管理していた領地は、他の貴族たちにこぞって奪われてしまった。

 貴族にとって領地は大切な財源だ。

 それを失ったことで、私はお金を手に入れる手段を失った。

 

 王国に属する貴族は皆、年に一度国に税金を納める。

 そのお金は本来、領民から頂いたお金の一部だ。

 領地のほとんどを失った私には、国に納めるだけのお金が用意できなかった。

 最初の一、二年はなんとかなったけど、三年経って蓄えもなくなった。


「君はまだ若い。家に拘りさえしなければ、新しい人生を歩むこともできる」 


 役人さんはお父さんが当主だった頃から、この家と関りがある。

 こうなるまで直接話したことはなかったけど、お父さんとの関係性は良好だったらしい。

 よく相談に乗ってくれるし、納税が間に合わなくても待ってくれているのも、この人だからだろう。


「養子の話も来ていたのだろう? 今からでも遅くはない。受けてみてはどうだ?」


 今も、私の将来のことを気遣ってくれている。

 それでも私は……。


「……ごめんなさい。私は、この家がいいんです。お父さんとお母さん、二人との思い出がいっぱい詰まっている家を守りたいんです」


 決意は固い。

 私は今日まで、二人と再会することだけを考えてきた。

 屋敷を定期的に一人で掃除していたのも、節約のために畑を始めたり、自分で料理を覚えたりしたのも、すべては二人と再会するために。

 

「お父さんたちが戻ってきた時、家がなくなっていたら悲しむと思うんです」

「まだそんなことを……そうか。わかった。であれば仕方がないな」


 役人さんは悲しそうな目をする。

 小さくため息をこぼし、懐から王印が押された一枚の通告書を見せる。


「アリス・エーデルワイズ辺境伯! 本日を以て貴族の地位を剥奪する」

「――!」


 予想はしていた。

 納税が滞れば、いずれこうなる未来はわかっていた。

 だけど、もう少し待ってほしかった。

 今はまだ無理でも……。

 待ってほしいという言葉が漏れかける。

 ただ、王印が押されているということは、この決定は陛下が下したものだろう。

 私がいくら叫んでも決定が覆ることはない。

 むしろ今日までよく待ってくれた……。


「ただし、猶予を設ける」

「え?」

「よく読むんだ。そして、君のご両親の勤勉さに感謝しなさい」


 通告書には特記事項としてこう書かれていた。

 

 ただし、猶予期間を設ける。

 『現当主アリス・エーデルワイズが成人を迎えるまでに改善が見られた場合、本件を無効とする。』


「これ……」

「君のご両親は以前から、本来納める金額より多く納めてくださっていたんだ。国の助けになるならと。その分を合わせれば、君が成人するまでの納税額にギリギリ足りる。今回の一件は悲しい悲劇だ。君に非はない。そのことを陛下もわかっておられるのだ」


 心がざわっと震える。

 驚きと嬉しさで。

 これは奇跡みたいな出来事だ。

 一国の王が、たかだか辺境の小さな貴族の家の事情を知り、慈悲を与えてくださるなんて。

 お父さんとお母さんが真面目に働いていたおかげで、私の今が守られた。

 涙が溢れそうになる。


「これが最後の猶予だ。よく考えて生きなさい」

「……はい」

 

 私は流れ出た涙を拭い、役人さんにハッキリと返事をした。

 去っていく役人さんの背中を見送る。

 彼はきっと、私に普通の人生を歩んでほしいと願っているのだろう。

 この猶予だって、私が貴族としてではなく一般人として、普通の生活が送れるように準備するための期間に違いない。

 でも、私はまだ諦めていない。


「ごめんなさい」


 二人との再会を。

 空想の中で輝くような奇跡を。


  ◇◇◇


 ガタガタゴトン。

 揺れる馬車で私は目を覚ます。

 窓の外は暗く、夜空の星々がよく見える。


 私は今、王都行きの馬車に乗っていた。

 屋敷を空けるのは不安だったけど、仕方がない。

 これも家を守るための選択だ。

 王都には有名な学園がある。

 魔法や剣術、様々な技能や知識を学ぶために設けられた学園。

 十五歳以上であればだれでも受験資格があり、私は今年で十五歳になる。

 学園で魔法を学び、二人を取り戻す方法を探る。

 役人さんには内緒で、入学に必要なお金だけは残しておいたんだ。

 全てはこの時のために。


 数日かけて馬車が進む。

 私の屋敷から王都までは、馬車を使っても七日ほどかかる。

 大体四日くらいだろうか。

 ちょうど中間地点にある街にたどり着いて、私は馬車を降りた。

 ここからは自分で小さな馬車を借りて進む。

 御者さんに頼むのもお金がかかるんだ。

 できる部分はしっかりと節約する。

 この四年間でそういう癖がついていた。


 入学試験の日に遅れるわけにはいかない。

 深夜を除いて日が沈んでからも、私は馬車を走らせた。

 大自然の中を走る馬車。

 座席の横には小鳥が停まっていた。

 いつの間にか一緒にいて、なんだか懐いてしまったらしい。

 一人旅は寂しいから少し嬉しかった。


「一緒に王都までいこうね」


 少し焦っていたんだ。

 だから危険を理解していなかった。

 成人前の女の子が、一人で夜道を進むことがどれほど危険なのか。


「ん? あれ……」


 道に誰かが立っている。

 暗くてハッキリとは見えないけど、シルエットは確かに人だった。

 一人、二人……もっといる。

 馬車の音は響いているし、こちらにも気づいているだろう。

 しかし移動する気配がない。

 仕方がないので私は馬車を停める。


「あの、危ないですよ!」

「……」

「聞いてます――へ?」


 突然だった。

 手綱を持っていた腕を掴まれ、そのまま座席から引きずり降ろされる。

 地面に押し付けられ、手足を動けないように抑え込まれた。


「ちょっ、な、何するんですか!」

「危ないのはお嬢ちゃんのほうだぜ~ こんな夜に一人で夜道なんて出たら大変だ~ 危ない連中に見つかってひどい目に遭わされるぞ~」

「俺たちみたいなのになぁ」

「なっ……」


 ぞろぞろと男たちが取り囲む。

 みすぼらしい格好に、全員が武器を携帯している。


 まさか野盗?


 気づいたときには手遅れだった。

 私は必死にもがいで逃げ出そうとするけど、大人の力には敵わない。


「は、離して!」

「やなこった。せっかくいいカモを見つけたんだ。逃がすわけねーだろぉ」

「っ……」


 小鳥が私を守ろうとするように飛び回る。

 男の頭上をチクチクつつきながら。


「ちっ、なんだこいつ邪魔だ!」

「あ!」


 男が小鳥を叩き落とす。

 激しい衝撃を受けて地面に落ちて、ピクリとも動かなくなる。

 小鳥も人も同じ一つの命。

 それを簡単に終わらせてしまう男に、静かな怒りを抱く。

 しかしそれ以上に怖かった。

 下品な口からよだれが垂れる。

 くさい臭いが鼻を刺激する。

 早く逃げ出したい。

 こうなったら魔法で……でも、これだけ近いと私まで被害を受けてしまう。

 体勢も悪いし、こんな状態じゃ魔法を使っても暴発する。


「おい兄貴。こいつ金目のもんほとんど持ってませんよ」

「ちっ、なんだよ金持ちの格好してるくせにしけてやがんなぁ。まぁいいや。だったら朝までたっぷりかわいがってやろうぜ」

「い、嫌……!」


 男たちの視線が集まる。

 自分がこれから何をされるのかを想像して、背筋が凍る。

 辱められるなんて嫌だ。

 何より、私の夢を邪魔されたくない。

 必死に抵抗しても、自分の力じゃどうしようもない。

 男たちは私の服に手をかけ、無理矢理に破いていく。


「嫌……誰か……誰か助けてぇ!」


 私はたまらず助けを求めた。

 声は夜空に抜けていく。

 周りには何もない。

 誰もいない。

 私の声は……。


「馬鹿だな。こんな場所で叫んでも助けなんてくるわけ――」

「おいうるさいぞ」

「は?」

「え……」


 声が聞こえた。

 野党たちとは違う透き通るような少年の声だった。

 私は上を見上げる。

 野党たちも振り返り、視線を向けた先は……私が乗ってきた馬車の上だった。


「まったく、人が寝ている時に騒がないでほしいな。うるさすぎて起きてしまったではないか」


 彼はむっくりと起き上がり、私たちを見下ろす。

 月の光に照らされた髪は淡い水色に光る。

 妖艶、という言葉がこれほど似合う存在は彼以外にはいないだろう。

 あまりの美しさに言葉を失った。

 たぶん、野盗たちも見惚れていた。

 その、一人の少年に。


「お前たちか? ボクの眠りを妨げたのは」

「な、なんだてめぇ! どっから湧いてでやがった!」

「ボクは最初からここにいた。邪魔をしたのはお前たちのほうだ」

「んだとこいつ……おいお前ら! そいつもとっ捕まえろ! 珍しい見た目のガキだ。さぞ高く売れるだろうぜ!」


 野盗たちは標的を少年に変えた。

 私と同い年くらいだろうか。

 女性のように白く細い手足。

 とても強そうには見えない。

 野盗たちも同じように感じたのだろう。

 武器もとらず、素手のまま少年に近づいていく。


「に、逃げて!」

「他人の心配なんて優しいじゃねーか。俺が今からたーっぷり優しくしてやるからよぉ」

「っ……嫌」

「はぁ、やれやれ」


 少年が馬車から飛び降りる。

 目の前には野盗たち。

 一瞬で捕まる。


「邪魔だ」


 はずだった。

 彼が着地した瞬間、接近していた男たちがはるか彼方へ吹き飛んでいった。

 突風のような衝撃波によって。


「……へ?」


 私を襲っていた男が呆気にとられキョトンとした表情を浮かべる。

 何が起こったのか理解できていない。

 でも、私にはわかった。

 一瞬だけど、彼が着地した場所に魔法陣が展開された。

 今のは魔法だ。

 それも恐ろしいほど強力で正確な。


 少年がこちらを向く。

 ゆっくりと歩み寄ってくる。

 男も我に返り、鋭い形相で少年を睨む。


「て、てめぇ何しやがった!」

「うるさいぞ。邪魔だ」

「ぐ、うおおおあああああああああああああああああああああああ」


 仲間たちと同じように、私にまたがっていた男も吹き飛んでいった。

 どこか遠くへ。

 二回目はハッキリとは見えなかった。

 だけど、私の周りに魔力の残り香を感じられる。

 

「魔法……」

「ん? よくわかったな。一瞬しか見せていないはずだが……」

「あ、あの! あなたは魔法使いなんですね!」


 私は勢いよく起き上がり、少年に詰め寄る。

 もしかしたら彼なら、私の夢を叶えられるかもしれない。

 そんな期待が脳裏に宿る。


「……まず服を整えろ」

「え、あ……」


 勢い余って忘れていた。

 私は男に服をめちゃくちゃにされて、あられもない姿になっていることを。

 咄嗟に前を隠し、恥ずかしさに顔が赤くなる。


「着替えはあるのか? あるなら早く着替えてこい。ボクが見張っておいてやるから」

「あ、ありがとうございます……」

 

 私は着替えをしながら思い返す。

 彼の手際を。

 私も今日まで独学で魔法を学んできた。

 少しは使えるようになったけど、一人で学ぶには限界がある。

 だから学園に通うことを考えた。


「お待たせしました」

「うん。じゃあボクは行く。すぐ先に街がある。そこで休め。それから今度は夜に一人で出歩かないことだ。奴らを擁護するわけじゃないが、お前にも非はあるぞ」

「は、はい。すみません」


 なんだろうこの人……。

 私と年齢は変わらない見た目をしているのに、妙な威圧感がある。

 言葉の重みが伝わって、つい逆らえない。


「ではな」

「ま、待ってください!」

「なんだ? 礼なら必要ない。単なる気まぐれだ」

「そ、そうじゃなくてさっきの質問……」

「ん? ああ、その通りだ。俺は魔法使いだ」


 彼は淡々と答えた。

 不思議な雰囲気の人だ。

 私がこれまで出会ったどんな人とも違う。

 そこにいるようで、どこか空想の夢の中にいるような。

 ただ一つ、確かな思いがある。


「これで満足したか?」

「ま、まだです」

「なんだ?」

「その……助けてもらって、こんなことをお願いするのは失礼だとわかっています。でも、お願いします! 私に魔法を教えてくれませんか!」


 この人しかいないと思った。

 私の夢を叶えるには、この人の力がいると。

 ただの直感でしかない。

 それでも……。


「唐突に何を言い出すかと思えば……なぜボクがお前に魔法を教えなくてはならない?」

「わ、私も魔法使いになりたいんです! お父さんとお母さんにもう一度会いたくて」

「人探しか? それなら魔法に頼らずともできるだろう」

「……そうじゃなくて……二人は四年前に……」


 話の途中だった。

 少年の表情が一変する。


「まさかお前、死んだ人間を蘇らせようとしているのか?」

「……はい」

「不可能だ。失われた命は回帰しない。二度と戻らないからこそ、命は大切なんだ。魔法は万能だが……全能ではない」


 少年は夜空を見つめながらつぶやく。


「で、でも! 大昔の人がゴーレムとして蘇ったって本に!」


 少年はピクリと反応する。


「あんな話を信じているのか。誰もが空想だと思うような話を」

「私にとっては希望だったんです」

「……悪いことをしたな」

「え?」


 少年はどこか遠い目をしている。

 彼が呟いたセリフの意味が、私にはわからない。

 彼はため息をこぼす。


「とにかく教えはしない。ボクはもう弟子はとらないんだ」

「……そう、ですか」


 断られたことにショックを受けて俯く。

 冷静に考えば当然か。

 見ず知らずの相手に、いきなり魔法を教えてほしいと言われて、わかりましたと答えるほうが不自然だ。

 頭が冷えたことで私はふと思い出す。

 馬車の傍らに倒れる一匹の小鳥を。


「ごめんね……私のせいで」

「小鳥か?」

「はい。私のことを守ろうとしてくれて……」


 私は小鳥に向けて手をかざす。


「治癒の魔法か? 無駄だ。その小鳥はすでに――」


 そう、死んでいる。

 わかっている。

 だけど私には、この子を助ける方法があった。


「リザレクション」

「――!?」


 魔法陣が展開され、小鳥を淡い光が包み込む。

 光は小鳥の中に入り込み、傷を癒す。

 閉じていた目が、ゆっくりと開く。


「よかった」

「……まさか、今のは蘇生の魔法か?」

「はい」


 少年は目を丸くして驚いていた。

 

「信じられないな……蘇生を可能にする魔法が存在するのか。お前、それを誰に教わった?」

「い、いえこれは最初からできたので……」


 私が魔法の勉強を始めて最初に発動した魔法。

 それがこの『リザレクション』だった。

 この魔法があったから、私は淡い希望でもめげずに今日まで頑張ってこられた。


「生まれつき……潜在的に備わっていた魔法か。なるほど……その力があれば、死んだ人間を蘇らせるなどという考えにも行きつくか」

「でもこの魔法、小鳥さんとか小さな生き物にしか使えないんです。もっと大きくなると効果がなくて……」

「それは単に魔力不足と、お前の技術の問題だ」


 少年は小鳥と私の元へ歩み寄ってくる。

 その表情は少しだけ、希望を抱いているように見えた。


「お前が魔法使いとして成長すれば、いずれその魔法は完成する」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、だが相当高度な魔法だ。生半可な努力では足りない。生涯をかけて尚、足りない可能性もあるだろう」

「そ、そんなに……」


 私が思っている以上に険しい道のりらしい。

 ごくりと息を飲む。

 しかしそれでも、私は突き進む。

 二人にもう一度会いたいから。


「気が変わった」

「え?」

「さっきの言葉は忘れろ。お前をボクの弟子にしてやる」

「ほ、本当ですか!」

「ああ。ただし一つだけ条件がある」


 少年は私を指さす。

 指の先は私の身体の……胸あたりを指している気がして。

 まさか身体目当てかと一瞬だけ思ってしまった。


「お前の魔法を俺に使え」

「ま、魔法?」

「蘇生の魔法だ。その力を成長させて、俺を人間に戻してくれ」


 彼は堂々とそう言った。

 私は彼の言葉の意味が理解できず、困惑する。

 人間に戻す?

 私の目から見ても、彼は人間だった。

 そうとしか見えない。


「ど、どういう意味……ですか?」

「言葉通りだ。俺は人間に戻りたい。ずっと諦めていたが、お前の魔法なら可能かもしれない」

「えっと、それじゃまるで、あなたが人間じゃないみたいに……」

「その通りだ。俺は人間じゃない。この身体はゴーレムだ」


 ゴーレム? 

 どこかで聞いたような……。


「そういえば自己紹介がまだだったな。ボクの名はネロ・クラウディウス! はるか昔に生き、現代にゴーレムとして蘇った大魔法使い」

「そ、それって本の――」

「そう。あれはボクの話だ」


 過去から現代に蘇った奇跡の大魔法使い。

 あの話は実話を元にしていると書いてあった。

 半信半疑だった。

 けど、本物が目の前にいる?

 

「本当に……」

「信じる信じないはどちらでもいい。ただ、ボクの弟子になるなら条件を飲んでもらう。それが嫌だというなら」

「やります! 私を弟子にしてください!」


 食い気味に返事をする。

 話の真偽なんてどっちだっていい。

 私はただ、希望が指し示す道を進むだけだ。


「いいだろう。今日からお前は俺の弟子だ。名前はなんという?」

「アリスです! よろしくお願いします! 師匠!」

「ふっ、師匠……か。懐かしい感覚だ」


 こうして私たちは出会った。

 亡き両親との再会を願う少女と、人間に戻りたいと願う少年の見た目をした大魔法使い。

 かくして運命は動き出す。

 

最後まで読んでいただきありがとうございます!

いかがだったでしょうか?

少しでも面白いると思っていただけたら幸いです。

もしよければブクマ、評価★などしていただけると嬉しいです。


まだ未定ですが、この話を長編化する可能性がございます。

続きが気になると思っていただけた方も、評価★をしていただけると幸いです。


※連載化は確定ではございません。反応をみつつ検討いたします。

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ブクマもありがとうございます!

― 新着の感想 ―
[一言] 気になる終わり方だし続き気になるかな
[一言] 人間じゃない?ネロみたいだなと思ったらネロだった。
[気になる点] 成人前の小娘が辺境伯は流石に無理があるんじゃ・・・隣が隣国なら調略の餌食だし魔の森的な場所ならなおさらだし。
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