二
「……ねえ、それ食べていい?」
それから暫くして、残ったままのケーキを見ながら彼女が訊いてきた。断る理由もないので「どうぞ」と言えば、遠慮することなく「わーい」と喜びながら、何処からともなく取り出したフォークでケーキを食べ始めた。
幸せそうに頬張る彼女の姿が微笑ましい。
ケーキが小さかったせいか、それとも彼女が食いしん坊なせいか。三つの器に盛られたケーキはあっという間になくなった。
もうちょっとだけ彼女の食べる姿を眺めていたかったのだが……うーん、残念。
「いやー、美味だったわー。流石は私」
「自分で言うか?」
「いいじゃない。でもまあ、君にも食べて欲しかったかな」
「……食べれなくてごめんね」
「まあ、それはしょうがないよ。そんなことより、はい、誕生日プレゼント」
彼女が僕の足元に置いたのは花束だった。真っ白な花を基調に、淡い青や紫の花々であしらわれている。それらは陽の光を浴びてきらきらと輝いていた。
「男の人に花束ってどうかと思ったんだけどね……まあ、兼用ということで」
どの花にしようか頑張って考えたんだよー。
のんびりと話す彼女に対して、僕は黙り込む。贈られた花束をただただ見つめていた。
手作りの誕生日ケーキに、一生懸命に選んでくれたという花束のプレゼント。
食べることもできないし、触れることもできないのは少し悲しいけど、それでも僕はそれ以上に嬉しくて、とても幸せだった。
ずっと誰かに誕生日を祝ってもらいたかった。それは幼い頃からの小さな願いだった。
それが、まさか死んだ後になって叶うなんて思ってもみなかった。
「……ありがとう。凄く、凄く嬉しいよ」
触れることは出来ないから、ありったけの想いを込めて、真っ直ぐと彼女を見つめて僕は告げた。
「どういたしまして」
返された言葉はとても優しい声音で、まるで蕾が綻ぶように彼女は微笑んだ。
今日は僕にとって特別な日だ。
僕が生まれた日。つまり、僕の誕生日。
でも、それだけじゃない。
今日は僕が死んだ日。つまり、幽霊となった僕の誕生日。
そして、遡ること一年前。今日という二つの誕生日に僕は一人の少女と出会ったのだ。
幽霊が見えるという不思議な才能を持った目の前の少女と――。