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「……ねえ、それ食べていい?」


 それから暫くして、残ったままのケーキを見ながら彼女が訊いてきた。断る理由もないので「どうぞ」と言えば、遠慮することなく「わーい」と喜びながら、何処からともなく取り出したフォークでケーキを食べ始めた。

 幸せそうに頬張る彼女の姿が微笑ましい。

 ケーキが小さかったせいか、それとも彼女が食いしん坊なせいか。三つの器に盛られたケーキはあっという間になくなった。

 もうちょっとだけ彼女の食べる姿を眺めていたかったのだが……うーん、残念。


「いやー、美味だったわー。流石は私」

「自分で言うか?」

「いいじゃない。でもまあ、君にも食べて欲しかったかな」

「……食べれなくてごめんね」

「まあ、それはしょうがないよ。そんなことより、はい、誕生日プレゼント」


 彼女が僕の足元に置いたのは花束だった。真っ白な花を基調に、淡い青や紫の花々であしらわれている。それらは陽の光を浴びてきらきらと輝いていた。


「男の人に花束ってどうかと思ったんだけどね……まあ、兼用ということで」


 どの花にしようか頑張って考えたんだよー。

 のんびりと話す彼女に対して、僕は黙り込む。贈られた花束をただただ見つめていた。

 手作りの誕生日ケーキに、一生懸命に選んでくれたという花束のプレゼント。

 食べることもできないし、触れることもできないのは少し悲しいけど、それでも僕はそれ以上に嬉しくて、とても幸せだった。

 ずっと誰かに誕生日を祝ってもらいたかった。それは幼い頃からの小さな願いだった。

 それが、まさか死んだ後になって叶うなんて思ってもみなかった。


「……ありがとう。凄く、凄く嬉しいよ」


 触れることは出来ないから、ありったけの想いを込めて、真っ直ぐと彼女を見つめて僕は告げた。


「どういたしまして」


 返された言葉はとても優しい声音で、まるで蕾が綻ぶように彼女は微笑んだ。




 今日は僕にとって特別な日だ。

 僕が生まれた日。つまり、僕の誕生日。

 でも、それだけじゃない。

 今日は僕が死んだ日。つまり、幽霊となった僕の誕生日。

 そして、遡ること一年前。今日という二つの誕生日に僕は一人の少女と出会ったのだ。

 幽霊が見えるという不思議な才能を持った目の前の少女と――。

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