護る者、滅ぶ者 二
【お詫びとご報告】
さて突然ですが、WEB小説では戦闘シーン(戦闘回)が嫌われるという噂を聞いたので、ここからは一日に二話ずつ更新することにします。
しかも長いですしね。
傍目から見て冗長と感じたら申し訳ありません。
戦闘シーン、物凄く苦手なんです。
公募で寸評を頂いたときにも思い切り「派手なことやってる割りに戦闘シーンが冗長」と指摘されました。
だったらもういっその事カットしろと言われそうですが、流石に話の流れ的にそうもいかず……。
指摘されてから二転三転と戦闘シーンは書き直しました。
そしてその結果がここから続く長い戦闘シーンになります。
ですがこの章が終わったら、また一日に一度の更新に戻ります。
この章が皆様にとってお目汚しになるかも知れませんが、あらかじめご了承ください。
付け加えて申しておきますと、この章を飛ばすと最後の章でわけが分からなくなること請け合いです。
戦闘場面が続きますが、この物語の中で一番大切な場面が含まれていると言う事もご承知おきください。
そうして陣に戻ると、すかさず陸王が声をかける。
「どうなった」
翠雅は一つ頷いて答えた。
「分からぬ。闇の妖精族は雷韋を疑っている。何をしでかすか」
「守護精霊でばれたんだな。闇の妖精族らしいや。きっと仕掛けてくる。俺が火の珠玉を持ってるのを闇の妖精族は知ってんだから。什智もそれを欲しがってる」
雷韋がそう言い終わるのと同時に、突然兵士達がざわついた。
騎乗している将兵が、
「卿、あれを!」
そう声を上げて、指差した。
翠雅がその声にはっと背後を振り返ると、グローヴの陣の前に弓兵がずらりと並んでいるのが目に入った。それも今にも矢を射放とうとしている瞬間だ。
そして突然、矢の雨が降り注ぐ。
だがそれは、宙空で消し炭へと変じた。
雷韋が射掛けられた矢を、守護精霊に命じて焼き払ったからだ。
矢を一瞬にして焼き尽くされたというのに、続けてグローヴの兵は矢を次々射ってきた。
しかしそれも、射られた瞬間から消し炭になっていく。流石に五回を数えた頃、雷韋がいきなりキレた。何がなんでも戦を始めようとする意思を感じたからだ。
いや、正確にはそれとも違う。戦を始めようとしているのではなく、雷韋と陸王を殺す為に無差別に、遮二無二に攻撃を仕掛けてきたと感じたのだ。
「くっそ」
そう呟いた途端、グローヴの軍に炎が放たれた。
皆、一瞬にして火達磨になり、悲鳴を上げてあちらこちらを転げ回る。
瞬時に現れた獰猛な赤い舌はグローヴの兵を舐め回して、彼らからは黒煙が上がった。
それを目にした陸王は、
「雷韋、お前!」
背後の雷韋を即座に振り返った。その雷韋の手には、火の珠がしっかりと握られている。
それを見て、まさかと思った。魔術を『力』ではないと言っていた雷韋が、いきなり敵兵士を火達磨にするなどとは、いくらなんでも考えが及ばなかったのだ。
けれど、振り返って見た雷韋の顔にはどこか焦りがあるようにも見える。
しかし、いきなりの事に驚いたのは陸王だけではない。エウローンの兵士達も突然の事に気を飲まれている。翠雅や影香、雪李もだ。
その翠雅に雷韋は声を上げた。
「翠雅、今のうちだ。ばれないうちに押し込め。そんで、什智をとっ捕まえるんだ!」
翠雅はそう言われても、敵の事とてもあまりの事に、雷韋と隊列を乱して黒煙を上げながら火達磨になっている敵兵を見比べるだけだ。
そして、雷韋の言葉に一番に動いたのは陸王だった。
「いくぞ、翠雅! あの炎はおそらく偽物だ。そうだな、雷韋」
「そうだよ! 火は火でも熱くない。火はついてるけど、本当は燃えてないんだ。だからみんなも早く。什智をとっ捕まえちまえばこっちのもんなんだから。それに仕掛けてきたのはあいつらだ。領主の面目も立つだろ」
雷韋が陸王の言葉を受けて、早口で捲し立てる。そして、その言葉に従うように陸王は馬を駆った。その次に続いたのは、意外にもヘルハウンドを伴った雪李と影香だった。
「卿、お早く。皆の者、突撃だ! グローヴの者共が攻めてきたぞ!」
影香は雪李に僅かに遅れて馬を駆る。翠雅やほかの兵達は、更にそれに遅れて騎馬の腹を蹴った。前面に出ていた騎馬部隊は何が何やら分からないまま馬腹を蹴っていたが、翠雅は馬を駆りながらじわりと『魔術の炎』に思い至った。
あれは幻覚などではなく、実際に火はついている。だが雷韋が言っていたように、黒煙を上げようとも燃えているのではないのだと。敵方は今は火が突然噴き出した事でのたうち回っているが、時間が経てば熱を感じない事に気付くだろう。
だから今のうちなのだと。この混乱に乗じて、什智を取り押さえればよいのだ。
そのエウローン軍とは真逆に、敵方は大混乱に陥っていた。火達磨になっても燃え尽きないせいか、皆市門から逃げ出そうと門に殺到している。その逃げ出した兵士や騎馬を、市門の外に控えている兵士達が布を使って火消ししていた。それにいち早くあやかろうと、火達磨になったまま半狂乱になって仲間を殺す者も現れた。当然、それは一人二人の話ではない。それどころか前にいる者を押し倒し、その上を駆けていく者を更に押し倒して前へ上へと這い上がっては転げ落ちる始末だ。
文字通り、グローヴ側は地獄絵図だった。
そうして混乱する市門前の兵士達の中に突っ込み、陸王が吉宗を存分に振るうと、燃えない炎に飲まれた兵士達の首が次々と落ちていく。
それを見た雷韋が、
「陸王。何も殺す事ないじゃんか」
非難の声を上げるが、陸王は聞く耳を持たなかった。
「こう混乱してんじゃ、什智がどこにいるか分からんだろうが」
「でも!」
「煩ぇ。口を噤んでねぇと舌噛むぞ」
炎の中の阿鼻叫喚に、血の雨が降り注ぐ。陸王は、邪魔だと思った片っ端から首を刎ねていった。そこにヘルハウンドが飛び込んで、乗り手を失い、人間と違って熱を感じないせいでうろうろとしている騎馬の首を噛み千切り、まず動いていないものを片付けていく。馬の状態から、熱を感じないと気付く者があるかも知れないからだろう。それは陸王には容易に想像がついた。
雪李の動きは、陸王からしてみれば有り難い事だった。
更にそこに、翠雅率いる騎馬隊二十と八十人の兵士達が飛び込んできて、大混戦に持ち込まれた。
炎に包まれているグローヴの兵は次々と斬り殺され、殺された者達と交代でもするように市門の向こうから新たな兵士達が現れる。
けれどおかしな事に、什智の姿がどこにも見えなかった。炎が襲った直後、真っ先に逃げ出したのだろうか。
徐々に火に包まれていない兵士達が場に増えていく。彼らは既に、炎に包まれた仲間達を助ける事を放棄していた。放棄して、立ち向かってくる。そういった者達は、槍を持って騎馬の首や胸を狙ってくる。市門から出ると、槍を避けきれずに落馬する者も多く出た。更には遠目に弓兵隊も控えている。三十人ほどいるだろうか。




