対 六
「雷韋の魂は、男にしては珍しく陰。そして陸王の魂は男だから当然、陽。君達だって、陰と陽が惹かれ合う事は知っているよね。誰もが知っている摂理だもの」
人族は須く、陰と陽の魂で出来ている。陰の中に僅かばかり陽を含む魂を『少陽』と呼び、陽の中に僅かばかり陰を含む魂を『少陰』と呼ぶ。一つの少陽、少陰を『極』と言い、魂にはそれぞれ定まった形があり、形が合致し惹かれ合う陰と陽は『対』と呼ばれる。そうして陰と陽が惹かれ合うと、小さな太極を作る。
故にこれを総じて『太極魂』と呼ぶ。
対が出会うと、その瞬間に『絆』が出来る。相手を嫌おうが憎もうが、否定する事も拒絶する事も出来ない絶対のものだ。請われれば、請われるほど相手を拒絶する事が出来なくなる。いや、対は根本的に互いを嫌う事も憎む事も出来はしない。だから否定する事も拒絶する事も出来ないのだ。何があっても、結局最後には許してしまう。
それが対。絆の力。
それは魂の条理だ。
もし条理が動く事があるとすれば、それは『取り違え』だ。誤った極を対に選んでしまう最悪の行為。取り違えを起こした魂は破滅に導かれる。魂の条理を破る事は恐ろしいものだ。その者にとって精神と魂の『死』を意味するのだから。
ただ、滅多に起こる事象ではないが。
そして通常、陰は女に、陽は男に宿るとされている。時に陰の男、陽の女もあるが、人間族の場合その割合は全体的に見ると僅かだ。また、惹かれ合う陰と陽は大概同じ種族に生まれる。
対が兄弟姉妹である事もある。兄弟姉妹で対の者は、そのまま番になる事が多い。近親婚はいたって普通にあるのだ。
が、逆に別の種族に生まれ落ちる事もある。その場合、どんなに離れていても、陰と陽は月日をかけて巡り会うように定めづけられている。もし出会う事が出来なければ、人は少しずつ静かに狂っていく。それも魂の条理だ。
また、対は必ず番になるわけではない。対となる魂は傍にいるだけで充分なのだ。対は傍にいて、精神と魂の安定を図るもの。その為、番の相手はいくらでも捜す事が出来る。だから、対が同性同士でも関係がないのだ。
ただ、寿命が長い種ほど同性同士の対が多くなる。番になる事も少なくない。それは長命種の数を抑える為だ。寿命の短い人間族ならまだしも、長命種の数が人間族ほど多くなれば世界の均衡が崩れてしまう。その為、獣の眷属は同性同士で番になる事が多いのだ。それも世界の理の一つだった。
同性愛は人間族には忌まれ、同性愛者だと分かれば両者とも死罪になる国も多い。獣の眷属の中では考えられない事だが。
だがそれでも── 。
「貴様、魂の形が見えるのか? 一体何者だ」
陸王は咄嗟に立ち上がり、鯉口を切った。その黒い瞳には剣呑な色がある。
雪李を捉えていた雷韋の瞳にも驚愕の色が浮かんでいた。
二人の反応は当然の事だった。他人の魂の形が見える者など存在しない。人は己の魂の形を朧に感じるだけだ。陰陽の含有量を。
それは他人が知れるものでは決してない。
だと言うのに、雪李はそれを指摘した。雷韋を陰、陸王を陽と断言したのだ。あり得る事ではなかった。
雪李は陸王の反応に、片手を翳して慌てて制する。
「だから話は最後まで聞いて。僕にも魂の形が見えるわけじゃない。ただ朧に感じ取る事が出来るだけだよ」
「何故そんな能力を持っている」
「それは……」
どこか言いよどむ風に口を開く。
「僕は世の理を知りたいと思って世界中を歩き回った。この部屋にある本も、その時に掻き集めたものだ」
「その事なら雷韋から大体のところは聞いている。俺には魔術の事はよく分からんが、危ない事に首を突っ込んでいるらしいな」
「うん、首を突っ込んでる。で、そんな風に危ない事をしているうちに、僕は二つに分かれてしまったんだ。魂が分離したとでも言えばいいのかな。陰の僕と、陽の僕の二つに」
「なんだと?」
それは陸王らしからぬ、素直な驚きの声だった。
雪李は自分の胸に手を当てて言う。
「今の僕は陽だけの僕だ。陰の魂がない。つまり、人としては虚ろな存在と言える。こうなってから僕は、人の魂を感じ取る事が出来るようになったんだよ。多分、陰の僕を捜す為だろうね」
「陰の自分を捜す? 対ではなくか」
「違うよ」
目を伏せて、緩く首を振る。




