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導かれて 二

「ちょっと、なんのつもりだよ。俺はこの街を出なきゃならなかったのに。もう城門が閉じちゃっただろ」

「俺はお前のせいでお尋ね者だ。どうしてくれる」

「は?」



 雷韋らいはなんの事か全く分からずに、きょとんとした声を出した。



「いきなりなんの事だよ。俺、何もしてねぇぞ」

「一昨日、森の中でお前を追ってきた連中に顔を見られて、お前の仲間だと思われたらしい。そのせいで、お前と並んでお尋ね者になったと言ってるんだ。分かるか。俺もお前も賞金首だ」



 小柄な雷韋の胸を指先で何度も強くつついて、これでもかとばかりに教え込む。

 雷韋はそこで嘆息すると、陸王りくおうも意外に思う事を聞いてきた。



「うん、自分が賞金首なのは知ってる。で、俺ってばいくらの賞金がかかってるんだ?」

「あ?」

「だから、俺の賞金っていくらさ」

「何言ってんだ、お前」



 いきなり妙な事を聞いてくる雷韋に、陸王は怪訝けげんな顔になる。



「自分にかけられた賞金がいくらか知りたいだけだよ。だって俺、一回捕まったもん。屋台の親父に騙されてさぁ。まぁ、この通りなんとか逃げ出しては来たけどな」



 唇を尖らせてぶつぶつと言う。それを聞いて陸王は眉根を寄せた。



「お前、いつ逃げ出してきたのか知らんが、逃げ出してまだこんなところにいたのか」

「だって、牢に放り込まれて身体も服も小汚くなったんだもん。川に入って水浴びしたり、洗濯したりしてたんだぜ。でさ、いざ逃げようと思ったらあんたに捕まっちまったんだよ」



 それを聞いて、陸王は呆れたように天を仰いだ。



「ところであんたは? 一緒に賞金首になった俺でも捜してた」

「誰がお前なんざ捜すかよ。乗合馬車を降りたら、お前を見つけただけだ。見つけたついでに文句の一つも言いたくなってな、ここまで引っ張ってきた」



 仰いだ天から雷韋に視線を戻して、陸王は口を開いた。


 何しろ陸王も三人の男達に追われたのだ。乗合馬車に乗り込んだ振りをしてすぐに降り、丁度通りかかった商隊と修道僧達の中に身を隠して男達の目から逃れた。そして街の逆側、東門まで移動して、そこから新たな乗合馬車に乗ってここまで来たのだ。


 けれど陸王には、それを説明する気は毛頭なかったが。



「そっか。じゃあ、お尋ね者同士、一緒にここから逃げねぇ?」



 にこにこと笑いながらの雷韋の軽い口調。



「お前、事態を飲み込んでるのか。隣のローラン領にまで手配書が回ってるんだぞ。それだけじゃねぇ。もっと広範囲にばらかれている可能性もある。どこに逃げても、多分奴らは執拗しつように追ってくるぞ」

「まさか。この国を出れば、そこまで追っちゃ来ないよ」

「この国を出るまで捕まらなけりゃいいがな」



 何か苦いものでも飲み込んだように、顔をしかめて言う。

 そんな陸王を上目遣いに見詰めて、



「それにしてもさ、追われてるのになんでここに来たんだよ。グローヴ領はこの隣だぜ。なんだってわざわざ。俺でさえ逃げようとしたのにさぁ」



 雷韋は当然の疑問を口にした。

 そんな雷韋の様子に陸王は溜息をつく。



「俺は俺の冤罪を晴らす為にグローヴ領に行くつもりだ」

「はぁ? どうやって冤罪だって証明するのさ」

「さてな。今夜一晩考えるさ」




 そこで雷韋は「あ」と声を上げた。



「そう言えば、グローヴ領の領主、什智じゅうちがおかしな事言ってたんだ」

「なんだ」



 問う陸王に、雷韋は、うん、と首肯しゅこうして話し出した。


 地下牢で会った時、什智が火の精霊を封じた珠玉の力を使ってこの世を支配し、王になると言っていた事を。


 それを聞いて、陸王は顎に手を当てると難しそうに考え込んでしまった。雷韋はそれに構う事もなく続ける。



「見たところ、俺が盗んできた珠玉にはそこまで大層な力があるわけじゃない。確かに精霊が宿っていたけど、それだけだ。ただ、使い方を間違えると大惨事は引き起こすだろうな。それとも闇の妖精族(ダーク・エルフ)があの珠玉の使い方を教えるのかな」

「闇の妖精族? そんなもんがいたのか」



 雷韋は再び首肯した。そして、何故か分からないが、闇の妖精族に目こぼしされた事を話した。更には、火の珠玉も見せる。



「わざわざ目こぼしなぁ。それもその火の珠(そんなもん)をお前に持たせたままか」

「俺は闇の妖精族となんか、もう関わりたかないぜ。この球を持って俺は逃げる。それでも行くってのか」



 陸王は雷韋のその言葉を聞いて、何事か考え込んでいるようだった。



「お前、つけられてるんじゃねぇか?」



 暫し考え込んで、陸王はぽつりと言った。



「つけられる? 誰に」



 きょとんとして問う。



「闇の妖精族にだ」



 真剣な目をして陸王は雷韋を見詰めてきた。



「火の珠をお前に渡したままだってのがどうにも気になる。俺は魔術にはうとい。だが、何か気にかかる」

「気にかかるったって、俺は何も感じないぜ。俺は精霊使い(エレメンタラー)だけど、根源魔法マナティアだってなんだって使える。でも、魔術がかけられてるって感じはしない」



 そこで陸王は一拍置いて、そうか、と答えて嘆息をついた。

 と、不意に雷韋は気付いた事があった。陸王が腰に刀を帯びていない事に。



「あんた、剣はどうしたんだよ」

「あ?」



 片眉を跳ね上げて聞き返す。



「あの剣だよ。俺が盗んだ日ノ本の剣さ」



 言われて、あぁ、と呟くと、



「背に隠してる。あれは大陸じゃ目立つからな。手配書にも日本刀、帯刀の文字があった」



 外套の中で背に手を回し、刀を取り出してちらと見せるが、ほんの数秒見せただけですぐに陸王は刀を背に隠してしまった。

 刀を隠し終えて、陸王は改まった風に雷韋を見た。



「ところでお前、俺から金をっていっただろう。返せ」



 陸王の唐突な言葉に、



「悪ぃ。全部荷物取られちまった。勿論、あんたの財布も」



 雷韋は思わず目の前の男を見返して、気まずそうに頭を掻く。

 それを聞き、陸王は呆れた溜息をついて雷韋の左手を奪った。

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