002 ログイン
記憶はない、けど知っている。
知っている、信じていると言ってもいい。
裸足で歩く林の中を怪我をせず動けたことも。
遭遇したイノシシから逃げ切れたことも。
猿が木ノ実を分けてくれたことも。
僕を見守ってくれている守護女神のおかげだ、そう信じている。
「初期設定めんどくさいなぁ。 β版の引き継ぎ出来るっぽいし、このままでいいや。」
海辺で目覚めた時にうっすらと聞こえたはきっと女神の声だ。何を言ってるかは分からないかったがこちらに向けて声をかけてくれてたのは確かだった。きっと心配して声をかけてくれてたんだろう。
浜辺から歩いておよそ2時間。
彼女の御加護のおかげだろう、傷一つつかずに無事に林を抜けることが出来た。
林を抜けた先は大きく開けた空間になっていて、すり鉢状に広がった土地に複数のテントが乱雑に並んでいる。
大小の色とりどりのテントが敷き詰めまれている間を歩く人々、遠くからでもかなりの人数が見て取れる。
端の方に並べられた丸太を見るに、今も林を切りながら拡大中なのだろう。
僕はとりあえず、一番目立つテントハウスに向かうことにした。
敷き詰められた複数のテントの中心、サーカス会場を想わす一際大きな真っ赤なテント。
他の白シャツ連中もどうやら同じ考えらしい。
大きく口を開けた出入口から中へは並ぶことなく入ることが出来た。
中はかなり暗いが、地面に置かれたいくつかのランプのおかげで見えない程ではない。
ここで眠れと言わんばかりに敷き詰められたいくつもの布団達。少し離れたところから見るそれはさながら原稿用紙のようだ。
既に8割近くの布団に誰かが寝ているように見える。
周りのテントも気になる、調べるようか。
夜が空ける前に眠るべきか。
…………選択を迷ったが。
「布団があるうちに眠ろう、取り合いになったら嫌だし」
寝ている人たちを踏まないように間をすり抜け、適当に選んだ布団に寝転がる。
はじめて眠る布団なのに不思議と嫌な感じはしない。虫除けに焚いている花がほんのりと香り、自然と瞼が重くなる。
一定の間隔で置かれた彩り豊かな淡く光るランプが心地よく眠りを誘う。
なんだかいい夢が見られそうだ。