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ゴブリンの勇者  作者: おみくじ


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7/8

襲来

 アモルの誕生日から2週間後。


「ひゃっほーい!」

「ウキャ! ウキャ!」


 北の森に、アモルとビッグフッドのヒヒちゃんの楽しげな声が響く。

 巨木のたくましい枝から枝へ、綱渡りみたいにヒヒちゃんは飛び移る。ヒヒちゃんの背中に乗っているアモルの体が、重力から解き放たれる。どこまでも行けるような疾走感が羽ばたく鳥のようで、アモルの心を踊らせる。だが、


「あっ!! ヒヒちゃん!! ストップストップ!!」

「ウキャ!?」


 ヒヒちゃんが両腕に力を込め、飛び移った太い枝を強く握った。太い枝は大きくしなり、元に戻ろうと激しく反動する。

 

「あわわわわっ!?」

「キャッ!? ウキャ!?」


 大木が突風に見舞われたかのように激しく揺れる。緑の葉が盛大に振り落とされるなか、アモルとヒヒちゃんは必死に耐えた。しばらく太い枝のしなりにもてあそばれる。


 やがて枝の揺れもおさまり、一安心したアモルとヒヒちゃん。


「あはははっ、ごめんヒヒちゃん」

「ウキャ、キャ」


 ヒヒちゃんの文句に、アモルは苦笑しながらも、


「ここから先は行っちゃダメだからさ」


 アモルはそう言って前を見つめる。


 北の深林。


 母親エルフから禁足地として教えられている場所。


 今いる北の森よりも木々が生い茂り、わずかに差し込む陽の光が、不気味に深林の奥を点々と照らしている。


 妙な緊張感で、アモルの喉がなった。


 今更ながら北の深林に入ったことに怖さを感じる。


 自分の誕生日で浮かれていたときは、わくわくしながら入ってしまった。巨大魚を釣って母を喜ばせたくて。でもこれからは、


「絶対に入らない」


 母であるエルフを怒らせたり、悲しませたくないから。巨大魚のパイ包み焼きをもう食べれないのは、少し残念ではあるけども。


「キュエ! キュエ!」


 アモルとヒヒちゃんの頭上から甲高い鳴き声と大きな羽音が響く。


 アモルとヒヒちゃんの側に、グリフォンのグリちゃんが空から降りてきた。


「キュエ、キュエ」


 グリフォンのグリちゃんは得意げな鳴き声をかなでる。競争は自分の勝ちと言っている。


「ウキャ! キャ!」

「キュエ! キュエ!」


 ビッグフットのヒヒちゃんの、まだ勝負は途中だ、の訴えに、グリフォンのグリちゃんは激しく抗議する。


「あははっ、ごめんごめん。俺が途中で止めちゃったから」


 競争に夢中になって、北の深林近くまできたのに気づくのが遅れた。アモルは申し訳なさを感じ、


「今からさ、果物が取れる場所行こうよ。ちょっとお腹空いたし」


 睨み合っていたヒヒちゃんとグリちゃんの剣幕が穏やかになっていく。


「ウキャ」

「キュエ」


 2匹の魔物はとても嬉しそうな声音を奏でた。


「へへっ、じゃあ決まり! なにを食べよっかな♪」


「ウキャ!」

「キュエ!」


 バナナ! そして、リンゴ!


 と、2匹の魔物は同時に提案する。そして、


「ウギャ!」

「ギュエ!」


 また睨見合いの小競り合いが始まった。こっちが1番美味しい、と。


 アモルは苦笑しながらも、楽しそうに2匹をなだめる。


「まあまあ。どっちも上手いからさ〜、両方とも取って食べよーーー、ん?」


 アモルは視界の端で、何か煌めくものを一瞬見た。その刹那、


 ヒュン!


 風切り音。そして、


「ウギャ!?!?」

「ヒヒちゃん!?」


 ビッグフットのヒヒちゃんの太い右腕に、矢が刺さっていた。鋭い急な痛みに、右腕がだらんと下がる。枝にぶら下がっていた体勢が不安定になり、「うわっ!?」っと、アモルの慌てる声が森に響く。


 どうして!? いったい何が!?


 ヒュン! 


 考える暇もなかった。2つ目の矢が、ヒヒちゃんの左腕に刺さった。


「ウギャ!? ウギャーーー!?」

「ヒヒちゃん!? わ、わあっーーー!?」

「キュエ!? キュエーーー!!」


 両腕を負傷したヒヒちゃんが、高い木々の間をすり抜け、勢いよく落ちていく。


 グリフォンのグリちゃんは急いで追いかける。


「キュエ!!」


 地面に叩きつけられる数秒前に、グリちゃんはヒヒちゃんの負傷した両腕を捕まえた。そのまま、大きく羽ばたいて減速。ゆっくりと地上に降り立つ。


 アモルは額の冷や汗を腕で拭った。


「あ、ありがと! グリちゃん!!」

「キュエ!! キュエ!!」

「あっ、うん! ヒヒちゃん! 腕は!!」

「ウ、ウギャ」


 矢が刺さっている箇所から、鮮血が滴っていた。アモルは痛そうに顔をしかめる。だが、直ぐに考えを巡らし、


「矢を抜く! 痛いけど我慢して! それで俺の回復魔法ヒールで治すから!」

「ウ、ウキャ」


 ヒヒちゃんの同意を得て、アモルは刺さっている矢を両手で握った、そのときだった。


「ギャ、ギャ」


 え!?


 不気味な恐ろしさのある声音が、アモルの鼓膜を揺さぶった。


 「ギャ、ギャ」


 再度聞こえた嫌な声に、アモルは思わず目を向ける。


「な、なっ………!?」


 アモルは、声にならない声をあげるしかなかった。初めてだったから。こんなにも、自分に似た者と出会ったのは、それも3体。

 ビッグフットのヒヒちゃんや、グリフォンのグリちゃんも、同じ思いだった。


 皆、突然のことに動けずにいた。


 目の前に現れた、アモルと似た容姿の3匹。


 全身がくすんだ緑色をしている。頭髪もなく、耳が異様に尖がっており、口は大きく、半開きの隙間から鋭い歯を覗かせていた。舌は、血のように赤い。


 ゴブリン。


「「「ギャ、ギャ」」」


 嫌な声音を上げ、弓を構えられた。


 アモル、ヒヒちゃん、グリちゃんに、緊張が走る。


 その様子を、3匹のゴブリンは鋭い目つきで見ながら、楽しそうに、口を歪ませた。

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