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少年と魔物

 コクリ、コクリ。


 渓谷の大きな岩に腰かけながら、うたた寝をしている少年がいた。どこかの村人だろうか、簡素な布の服を着ている。しかし人間とは言い難い。人の姿ではあるが、肌の色が異質だった。全身が明るい緑色をしている。それに頭髪もなく、耳が異様に尖がっている。口は大きく、よだれが出ている半開きの口からは、鋭い歯を覗かせていた。舌は、血のように赤い。

 その少年は晴天の光に照らされていた。温かい陽が心地良く、滝の音がまどろむ意識の中で静かに聞こえる。

 少年はなんとか寝落ちしないように堪えていた。手には大きな釣り竿を持っている。糸の先にはウキが付いており、大きな滝つぼの水面で揺らめいていた。


 グンッ!!


 一瞬のことだった。ウキが水中に引きずり込まれると同時に、大きな竿が激しく弓なりに曲がる。

 少年の目が見開いた。大きな口を嬉しそうに開く。


「きたあっー!!」


 少年は勢いよく立ち上がった。両手に力を入れ、竿を強く握りしめる。両足で踏ん張り、水中を縦横無尽に走る糸の先を凝視する。掛かった獲物はでかい。きっとここの主だ。竿が折れそうなくらい、ギシギシときしむ。だが想定内だ。


「今日のために作った、俺のスペシャル竿をなめんなよ!! エレファントツリーの100年ものの太い枝を使って作ったんだ!! 絶対仕留めてやる!! うわっと!?」


 竿頭を力強く持っていかれる。深く潜り始めた証だ。奴の得意技、『エラ洗い』の第一段階。ここから一気に急浮上して、大ジャンプをするのだ。そして、激しく頭を左右に振り回し、口に掛かった頑丈なハリをへし折りにくる。

 急に、竿のしなりが解けた。滝つぼの水面がざわざわと盛り上がる。


 来る!!


 でもそれも想定内。いつまでもやられっぱなしじゃない!! 


「グリちゃんッー!!」


 少年が叫んだと同時に、滝つぼの水面が山のように盛り上がった。次の瞬間、盛大な水しぶきがほとばしる。そこから、巨大な銀色の魚が飛び出した。

 巨大魚が空高いところで体をゆすり、頭を激しく振る動作をしようとしたときだった。巨大魚に暗い影が差した。


「キュエッ!!」


 甲高い鳴き声を発したのは、巨大な怪鳥だった。鷲のような頭部を持ち、体は肉食獣のようないで立ち。鋭いかぎづめを持った4つ足。グリフォンという魔物だった。グリちゃんと呼ばれたその相棒は、かぎづめで力強く巨大魚を捕らえた。銀色の巨体に深々と爪が刺さっているのが見えた。


「いやっほおい!! ナイスキャッチ!! グリちゃん!!」

「キュエー!! キュ、キュエ!? キュエー!?」


 グリフォンが大きな羽をばたつかせる。どんどん高度を落としていく。

 少年は気付いた。重すぎるんだ!

 さらに、巨大魚が激しく暴れはじめる。このままじゃまずい!!


「グリちゃーん!! 投げろッ!! こっち、こっち!!」

「キュエ!!」


 少年が竿を手放し、上空に両手を大きく振ると、グリフォンは空中で体を盛大にひねった。力強い羽ばたきをくり出したかと思うと、派手に旋回し、巨大魚を少年のいる方向にぶん投げた。


「いいっ!? グ、グリちゃん!! 俺を正確に狙い過ぎだって!? いひゃあ!?」


 猛スピードで巨大魚がこちらに飛んできて、激しく岩肌に激突した。砲撃のような轟音とともに、周囲に粉々になった岩の粉塵が舞う。幸い岩は崩れなかったものの、周囲の被害は甚大だった。


「キュ、キュエ!? キュエ!?」


 グリフォンは自分のしでかしたことに慌てたような声を上げた。少年の安否が気になるが、もくもくと立ち込める煙のなかではわからない。

 しだいに煙が晴れていく。すると、少年の声が響いてきた。


「ぷはあっー!! けほけほ!! あ~、口のなか、岩の粉だらけ、ぺっ!ぺっ!」

「キュエ!!」


 巨大魚が横たわる側に少年を見つけ、グリフォンは嬉しそうな声を上げる。高度を落とし近寄ってきたグリフォンに、少年はニカッと笑う。グッと親指を立てた。


「ナイスピッチング! グリちゃん!」

「キュエ!」


 少年とグリフォンは互いに喜び合った。横たわっている巨大魚は10メートル以上ある。


 ぐぐぅ~。


「おっ?」


 少年はお腹を擦った。すると、また可愛らしい音がなった。空腹が突然襲ってくる。そういえば、朝飯を食べてから、何も口にしていなかった。陽は高く昇っており、もうお昼を過ぎていることを示していた。


「キュエ!」

「おっ! グリちゃんもお腹すいた? だよな! うし、じゃあ料理して食べますか!! じゃあ、グリちゃん、よろしく!」


 少年がそう言うと、グリフォンは羽に力を込めた。そして素早く仰ぐと、鋭い風の刃が巨大魚の腹に当たる。スパッと腹が裂け、内臓が出てくる。少年は手際よく、石のナイフを使い、慣れた手つきで取り出した。その後、グリフォンが風の刃で綺麗に切れ込みを次々入れていき、少年が石のナイフで分解していく。あっという間に、三枚おろしが出来上がった。


「うしっ! お次は持ってきた岩塩を振りかけまして~っと! んでお手製の巨大木の串に刺しまして~、っと! よし! 完璧! あとは焼くだけですなあ~」

「キュエ、キュエ!」

「まあまあ、そう慌てなさんな」


 少年は懐から火を付ける道具を取り出した。そこで、「あっ!」と声を上げた。重大なことに気づいた。薪がない。


「どうしよ……、まだ帰ってこないよな」


 少年がそう呟くと、背面の森奥が慌ただしい音を立てた。すると、1匹の巨大な猿が飛び出してきた。3メートル近くある巨体。ビッグフットと呼ばれる魔物の猿である。


「ウキャ! ウキャ!」


 空気が振動するような力強い声を上げ、少年に近づいてくる。両手には、大量の薪を抱えていた。


「お~! ヒヒちゃん!! グッドタイミング!!」


 少年が喜んでいるなか、ビッグフットは両手に抱えた薪をテキパキと組み並べる。そして両手をパンッ! と叩くと周囲から土が出現し、寄せ集まる。立派なピザ窯が出来上がった。少年が「おお! それいいじゃん!!」と歓喜の声を上げる。窯の上部に魚の切り身をセット。下部の薪が組んだあるところに、火をつけた。薪が盛大に燃え上がる。窯の温度がぐんぐん上がり、巨大な串で刺した魚の切り身がいい音で焼けだし、良い香りがしてくる。

 しばらくして、きつね色に焼けた魚の身を取り出した。少年と、グリフォン、ビッグフットは焼けた魚の身にかぶりついた。


「うめえッ!!」

「キュエ!!」

「ウキャ! ウキャ!」


 1人と2匹は、楽しい食事に夢中になる。ふと少年が、まだ焼いてない魚の切り身に目を向けた。にんまりと頬を緩める。


「母ちゃんに、良いお土産ができたなぁ~」


 少年は嬉しそうに笑いながら、家で待つ母の顔を思い浮かべた。

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