第8話 考えの一つ
大男の剣が地面を砕く。
彼はその場から動いていない。
「ちっ、外したか。今度はお前を開きにしてやる」
もう一度剣を持ち上げ彼に向かって叩きつける。
その攻撃を手に持つ大剣で軽々と受け止めた。
「馬鹿め! そのまま押し潰してやるわ!」
しかしピクリとも動いていない。
大男の顔には焦りが浮かんでいる。
「ど、どうしてだ!? 何故効かない!? 何をした!?」
「……強いて言えばお前が弱いんじゃないか?」
「シーフズ団の頭領である俺様が弱いだと!? 舐めるな!!」
私はというと、周りの盗賊達と一緒に、固唾をのんでこの戦いの行く末を見守っている。
「やれ!! アニキー!」
「やっちまえ!!」
盗賊達の声援と、何とかしようと必死に力を込める大男の唸り声がこの場を支配していた。
「お前は何の為にその剣を振るんだ?」
「なんのためだとぉ? それはお前を倒す為に決まってんだろぉ!」
「今の状況の事じゃない。シーフズ団、その頭領として何の為にその剣を振るうんだ?」
「それは……」
「お前の攻撃は確かに重い、だが軽い。自分の考え、欲望、意思がその剣に伝わらなければどれだけの業物を使おうともはタダの玩具だ」
「……うるせぇえ!! お前に何が分かるってんだ!!」
「分かるわけないだろ、だから聞かせろ」
彼は一歩踏み込み、相手の剣を弾き返した。
「なにぃ!!」
「じゃあな」
ガラ空きになった胴に大剣が吸い込まれていく。
「すみませんでしたぁ!!」
彼の大剣は、今この瞬間、大男の命を刈り取る筈だった。
しかし、大男が魂のこもった叫びがその攻撃を止めた。
「ゆるしてくださぃい!! 出来心だったんですぅ!!」
大男は剣を投げ捨て彼に縋りつく。
「アニキぃ!!」
子分達が大男に集まっていき大男を庇うようにして前に立つ。
「話を聞かせてくれ、何があったのか」
「それは──」
大男は涙でぐしゃぐしゃになりながら話を始める。
内容は、とある貴族の依頼で子供を攫ってこいとの話だった。
元々シーフズ団は、身寄りのない子供達や行き場の無い素行の悪い男達の集まりだったらしく、食料品や生活用品を買う為に資金がどうしても必要だったらしい。
生きる為に何でもやってきたシーフズ団。
そこに目を付けた貴族様はシーフズ団に依頼した、しかし──
「──もし依頼を受けなかったらアジトに居る子供達を貰うと言われ……それで仕方なく……」
依頼というよりかは脅迫だろう。
「なるほどな。で、老人や女子供が多く、冒険者の居ないこの村を狙った訳か」
「はい……」
「見逃してやる、そこからどうするかはお前らの自由だ」
「本当ですか!?」
「ただし、お前達の今までやって来たことは許される事ではない、忘れるなよ」
「はい! わかりました! ──行くぞ野郎ども! 貴族なんか関係ねぇ、俺達の生活を守る為に戦うぞぉ!!」
シーフズ団は頭領の掛け声と共にこの場から去る準備を始めた。
彼らの話、本当なら大変だ、見過ごすわけにはいかない。
「私も─」
「余計な事はするな」
一緒に手伝う、と言おうとした時、彼に肩を捕まれ止められた。
「で、でも」
「いいか勇者、確かにアンタが手伝ったらアイツらを助ける事は出来るかもしれない」
「だったら──」
「しかし、アイツらが今の状況になったのは自分達で選択したからだ。それが罪を犯す事と知っていても、アイツらはそれを選んだ。どんな理由があれ罪を犯したという結果は消えない、永遠にな。今アンタが手伝ったらそれはアイツらの罪の償いじゃなくなる」
彼の言っている事はわかる、わかるが……
「ありがとうございました! 今やっと目が醒めました! この件と今までおこしてしまった罪を少しづつでも返していこうと思います!! また何か、あったら俺達力になるんで!! では!」
そう言うと彼らシーフズ団はこの場を去っていった。
「所でデルシオンさん、何で私が勇者だって知ってるんですか? 誰にも言っていないんですが」
「あっ……」