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第6話 暴力と救い



 昔の記憶、私がまだ赤子の時の記憶。


 父は泣きながら何かに謝っており、隣には血塗れで倒れる母の姿。


 勇者として産まれたからと言って、赤子の私では何も出来なかった。


 出来る事は父の服を掴むことだけ。


 そして、父の願い叶わずその禍々しい剣が私達に振り下ろされそうになった時、それは起こった。


 その剣が私達に向かう事は無く、目の前を見ると、ボロボロの外套を身にまとい、泥塗れの鎧を装備し、鏡のように私達の姿を映す大きな剣を持った男が立っていた。


 男は振り返る事は無く、そのまま一言、



「逃げろ」 



 そう言った。


 男は大きな剣を自由自在に振り回し、目の前の何かと戦い始めたのだ。

 

 その後、父は私を抱えてその場から逃げ出し、私達は生き残る事が出来た。


 彼とあったのはその一瞬だけ。でもその一瞬がとても美しく、鮮明に心に刻まれた。


 父はギルドガンド王国、都市サウスター郊外のアベント村出身で、逃げた後は、そこで住むことになった。


 私はあの日の事が忘れられずに5歳の時、父が仕事で外に出払っているの確認してから、壁に立て掛けられた父の冒険者時代、使っていたらしい剣を外で振り回していた。


 普通の子供ならまず重くて無理だろう。


 しかし、勇者として転生したらしい私の身体は、その剣を軽々と振り回す事が出来た。


 それがいけなかった。その姿を誰かに見られていたらしく、父は魔族の子供を匿っているという濡れ衣を着せられてしまう。


 父は必死に私を勇者として選ばれた子だと話したが、信じる者は誰もいなく、父は魔族の子供を育てているペテン師として村から認定されてしまった。


 父の家は比較的村から離れており、その事件をきっかけに父は村と関わらず生活するようになっていった。


 そこから父は、私にその不満、妻を殺された憎しみ、あらゆる負の感情全て暴力という形で与えてきた。


 しかし勇者として転生した私の身体は人よりも丈夫らしく、暴力では傷付かず、その姿を見て化物だと呟いた。


 暴力を振るったあとは、私に抱き付き、すまなかったと何度も何度も謝罪してきた。


 これで父の気がすむなら良い、勇者として人の心を救えるのなら。  


 これが私が勇者としての初めての仕事だった。


 そのような生活が続き、この世界の成人である16歳になり、私は勇者として旅に出る事にした。


 父はそんな私に、暴力と共に母のお下りだが胸当てと父の冒険者時代に使っていた剣をくれた。


 果たして私は、父を救う事はできたのだろうか?





 ──隣村のサエバル村に到着した。


 まる1日歩き続けており、流石に勇者の身体でも体力の限界が近い。


 どこか宿を取らないといけないと思いながら少し歩くと、宿屋の看板が出た建物に辿り着く。



「も、もしかして冒険者様ですか!?」



 建物に入ると直ぐに店主らしき人が話しかけてきた。



「はい、一応が付きますが」 


「お願いします!!子どもたちをお救いください!」


「ちょ、落ち着いて」


「お願いします! 報酬はいくらでも払いますなのでどうか──」


 




 彼をなんとか落ち着かせ、話を聞くとどうやら、つい最近村の近くに盗賊が住み着いたらしく、度々子供が攫われているとの事だった。



「む、村には戦えるような人は殆どおらず助けに行く事が出来ずにいます! 盗賊が森の中から出た形跡はないので攫われた子供達はまだ森の中に居るはずなんですっ! 無理は承知でいいます……どうか子どもたちを、どうか、どうかっ……!」



 彼は地に頭を擦りつけながら頼み込んできた。

 

 頼みというのであれば断る理由が無い。



「どうか頭を上げてください、大丈夫です、今から助けに向かいます」


「本当ですか!? どうか子供達をよろしくお願いしますっ…!」


 私は荷物を最低限の物にし、父から貰った剣を握り締める。


 実戦は今回が始めてだ。

 なんの技術も無く、ただ剣を振ることしか出来ない私はどれだけ戦えるのか。


 不安だ。でも、私は勇者だ。


 困っている人を助けなければならない、そう考えると段々勇気が湧いてきた。


 私は森へと歩き始める。


 この勇気が蛮勇にならぬ事を願いながら。

 

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