第48話 告白
「おい、どういう事だ?」
「そんなに凄まれても無理なもんは無理さ」
眼の前で溜息を付くギルドマスターのアルフリードを見て頭に血が上る。
「相手は隣国のイルレオーネ法国な訳だろう? 救出隊なんか出した日には国際問題さ」
「そんなのは分かってる。それを承知の上で言ってんだよ」
「あんたが分かってても意味無いんだよ。あんた達以外の人等も巻き込まれちまう」
無駄な相談だとは分かっていた。
それでもあの子を救う為にはなんとかしないといけないのだ。
「ごめんなさい……ほんとにごめんなさい……」
隣では何度も何度も謝るユリィのやつれた姿が目に入る。
別れた後、あのアトゥムスとやらに襲われ、そこで勇者の居場所を吐いたらしい。
それについてもイライラするが、それ以上に、成すすべなくやられた自分に腹が立つ。
「……クソがっ!」
苛立ちを抑えれず近くにあった椅子を蹴飛ばす。
どうする?
自問して出てきた答えは一つだけ。
自分で助けに行く。それしか道はない。
「個人としてなら問題にはならない。そういう事だな?」
「あんた何言って──」
懐からギルドカードをテーブルに叩きつける。
「助けに行く」
「本気で言ってるのかい? 今抗議文を法国のギルドに送ったんだ。様子見するべきだよ」
「その間にあの子がどんな目に遭うか分からないだろ!?」
「相手の言い分から察するに、そんな悪い待遇じゃないんだろう?」
アルフリードの言っていることは正しいのだろう。
それでも──
「それでも、俺は行く」
「ちょっとまちな!」
静止を振り切り、立てかけてあった大剣を背負い、ギルドの戸を開く。
「おっさん」
「あ?」
後ろを見ると、先程まで泣いていたユリィが俺の腕を掴んでいた。
「ねぇ、一人で行くつもり?」
「当たり前だろうが」
俺を掴む手の力が強くなり、泣き腫らした顔だが、鋭い目つきで俺を睨んでくる。
「アタシは?」
「さっきまでビビってわんわん泣いていたくせに? 足手まといだ」
「そうよね……あんだけの啖呵を切ったクセにこの体たらく。ホントに情けないったらありゃしない。でもお願い、アタシも連れてって」
「駄目だ。というか、何の役に立つってんだ?」
「冷静じゃないアンタを抑えることは出来るわ」
「……喧嘩売ってんのか?」
こいつ、自分のことを棚にあげやがって。
「ホントに一人で助けれると思ってるの?」
「何とかする、もう負けねぇ」
やめろ。
「国が相手でしょ? その異端なんちゃらって奴等も沢山いるんじゃないの?」
「俺は死なねぇから何とでもなる」
やめてくれ。
「ホントに、アセビを助けるつもりがあるの?」
「…………やめろ」
分かっているのだ。
今、自分が何を考えて、何をしようとしているのか。
「前から思ってたのよ、なんであんなにまであの子に執着してるのか、護ろうとするのか。そのくせして碌な作戦も無い」
分かってる、分かってるから。
だから──
「──あんた結局、あの子を助けようとする自分に酔ってるだけじゃない」
「やめろ!!」
掴まれた腕を振り払う。
そうだ、俺は浅ましい人間なんだ。
今までやってきた事、全て自己満足だ。
あの子を護る、それは俺の使命だ。
それに間違いないは無い。
でも本当に護りたかったのは、あの子じゃない。”あの子に罪滅ぼしをしている自分”だったんだと。
それで失敗して死んでも別に良かった。
あの子を助ける為に死ねるのだからと、罪滅ぼしをして、楽になって死ねる筈だったのだ。
でも、罪を償い続けろと、罪を忘れるなと、この身体が許してくれないのだ。
四肢が引き裂かれようとも、首を掻き斬られようとも、燃え尽き灰になろうとも、何度も何度も気が狂いそうになるほど痛い思いをしても、死ぬ事を許してくれないのだ。
「ねぇ、アタシに教えてよ。あの子と貴方の間に何があるのか」
「……」
俺の震える手を、ユリィが握る。
「アタシ達、仲間なんじゃないの?」
ユリィの顔を見る。
先程の鋭い眼つきとは打って変わり、心配するような、それでいて安心させるような優しい目をしていた。
「俺は、俺は──」
「──俺は、あの子を殺してしまったんだ」
「えっと、纏めると、前世では云うなれば馭者で、その仕事中にアセビを轢き殺したってわけね? で、罪滅ぼしの為に転生したアセビに近付いたってこと?」
ギルドの一室。
少し埃の積もったテーブルに置かれた紅茶を見つめながら、今までの経緯をユリィに語った。
その際、ユリィは黙って聞いていた。
「……自分で言っててなんだが、信じるのか?」
「にわかには信じ難いけど、アセビもそうだってんなら嘘じゃないんでしょうね」
「まぁ、そりゃそうだが……」
「ありがとね、話してくれて。喋っちゃダメな話だったんでしょ?」
「まぁ、喋るなって言われた相手は勇者だけだからな」
あの時、あの不可思議な病室にて言われた条件である、
『日野山楓に前世のことを言ってはならない』
この条件を破った訳ではないが、本当に良かったのだろうか?
屁理屈な様な気もしないではないが……
「──大変だったわね」
彼女の言葉に思わず紅茶から目を離し、顔を見る。
変わらずあの優しい顔だった。
──なんでそんな目で俺を見れるんだ?
俺はとんでもない事を、一生かけても償えない事を犯したのだ。
どうして、どうして。どうしてそんな顔が出来るんだ?
「確かにアンタはあの子を前世で殺したのかもしれない。あの子の幸せを奪ったのかもしれない。でもね……あの子がアンタの事をどー思ってるのかは全部推測な訳でしょ?」
「推測って言ったって、そんなの──」
「──だから、一緒に助けに行きましょ?」
「あの子がどう思っているのか、このままじゃ分からないからね」
分かりきっている。真実を知ったら恨むに決まっている。
彼女にバラしてはいけないのは分かっている。
なのに、どうしてこうも、期待させるような事を言うのだ。
──こうやって伸ばされた手は、掴んでも良いのではないか?
「……すまない、情けない所見せちまった」
「お互い様よ…………まぁ、一旦この話は置いといて、どうするのか策を練りましょ」
どうなるか分からない。
気持ちの整理も付いちゃいない。
結局は問題の先延ばしでしかない。
だったら一先ずは、彼女を助ける為に動くべきだ。




