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第44話 火葬屋 5

「私、分かったんです。勇者とは何か。何故勇者をするのか」


 ……違う、違うんだ。


「私は、皆の笑顔を守りたいんです。この世に生まれた全ての生き物の笑顔を」


 違う、違う違う違う違う!!


「アセビ!! なんでもどってきたんだ!!」


 俺は勇者に向かって叫ぶ。


 今お前が戻ってきたら、ここまで稼いだ時間が無駄になってしまう。


「デルシオンさん。大丈夫、私に任せて下さい」


 勇者は俺の横を通り過ぎていき、火葬屋へと近付く。


 俺は手を伸ばし、腕を掴もうとするが、掴む事が出来なかった。


 何故か。それは、彼女の背中が自信に満ち溢れ、堂々としていたからだ。


 何かあるのか? 目の前にそびえ立つ大きな障害を跳ね除ける事のできる何かが。


 勇者は鞘から剣を引き抜く。


 ──あの装飾、あれはゴブリンの持っていた?


『勇者か!! 丁度良い、二人まとめて消し炭にしてやる!!』


 火葬屋の声が脳に響くと、腹の光が一気に光量を増す。



「聖剣よ、私が願うのは、確定してしまった最悪の結末の改変。都合の良い結末への改変。もしそれが叶うなら、私はどのような代償でも支払う!! だから……私に力を貸して下さい!!」


 聖剣は光を放ち始める。


 その光は、火葬屋が放つ、肌を焦がすような激しい光ではなく、優しい光。まるで聖母に抱かれているのかの様な、安心する光だ。


 聖剣は音をたてて砕ける。


 そして、光の粒子が天へと登っていく。


『剣は砕けたぞ? もしやこれで終わりか? ならここで終わりだ!!』


 火葬屋の口から、全てを飲み込む光が放たれる、その時、


 ポツ


 身体に水滴が当たるのが分かる。


 空を見上げると、先程までは雲一つない晴天だったのにも関わらず、分厚い雲が太陽を隠していた。


 そして、雨が降ってきたのだ。


 心地の良い水温が、疲労で熱を帯びた身体を冷やす。


 足に何か当たる感覚がして、目線を向けると、


 ──地面から、花が生えて来ている。


 火葬屋によって燃やし尽くされ、何も生えることの無い、不毛な大地になったこの土地に、緑が生えてきているのだ。

 

『な、なんだこれは!! 魔力が、魔力が溶ける!?』


 雨に濡れてか、火葬屋の巨体を包む鱗が溶けてきており、肉体が崩れ始めている。


 猛々しく広げられた翼の皮膜には穴が空き始め、空を飛ぶ為の機能を失わせる。




 最終的にこの場に残ったのは、一瞬にして生い茂った緑に、その場で呆然と立ちすくむ、真紅の髪を持った男だけだった。


 

「勇者、これは?」


 俺は勇者に近付き、尋ねる。


「これが勇者の力みたいなんです。聖剣を触媒に、どんな願いでも叶える事のできる力」


 これが、勇者の力?


 

「ま、まだだぁ!! お前らを殺すのに魔力なんて必要ない!!」


 火葬屋は地面を蹴りこちらに向かって飛んでくる。


 しかし、


「風の魔精よ!! 刃となりて敵を切り裂け!!」


 空気を切りながら、見えない刃が火葬屋の両足を切断し、そのままの勢いで地面へと飛び込む。


「ユリィ!」


 飛んできた方を見ると、服の機能を失った布切れを身体に巻きつけるユリィの姿があった。


「クソがぁ!!」


 火葬屋は地面に手を付け、立ち上がろうとするも脚を失った事に気付いていないのか、無駄な行為を続けている。


「はぁ……死んだと思ったら叩き起こされて、本当に勘弁して欲しいわ。村人達も無事よ、全員生きてるわ。正確には生き返ったわ、この雨のおかげでね」


「良かった……良かった……!!」


「ちょっ、ちょっと!」


 何だよ、さっきまでやって来たことは別の意味で無駄になったって事かよ?


「ははっ……冗談だろ?」


 彼女達が嬉しそうに抱き合う姿を見て、先程の緊張感が雨と一緒に流されたのか、身体の力が抜けて地面にヘタり込んでしまう。


 まぁ、なんだ。良かった、本当に良かった。



 これが勇者の力。


 魔を溶かす力。そして、人の死すらも改変出来る、神にも勝る力。


 思わず笑ってしまう。


 どれだけ自分が無力なのか、どれだけ自分の行動が傲慢だったのか思い知らされる。


 俺なんかより何百倍も強いじゃないか。


「デルシオンさん、ありがとうございました。私の為に時間を稼いでくれて。もしあそこで貴方が来てくれなければ、何も出来ずに、勇者とは何かと気付く事もなく死んでいました」


 勇者は俺に近付き微笑みかける。


 今、天に広がる曇り空とは真逆の、曇り無き美しい笑顔。 


「まぁ、なんだ、良かったよ」


 そんな笑顔を見てしまえば、今まで悩んで来たことが吹き飛んでしまった。


 俺は上手く笑えていないだろうが、何とか笑顔を作り勇者を見つめ返す。


 勇者はそんな俺を見て、


「デルシオンさん……デルシオンさん……ごめんなさい、ごめんなさい……! 痛かったですよね? 辛かったですよね? ごめんなさい……私のせいで……」


 俺を抱き締めた。


 涙を流す。俺の為に、俺なんかの為に。


 何故? 分からない。何故そんな事をするのか。


 辛かった? 当たり前だ。勇者に、日野山楓をこんな世界に送ってしまった張本人が、辛い思いをしないでどうする?


 痛かった? 当たり前だ。日野山楓に勇者なんて物を背負わす原因を作った俺が、誰よりも痛い思いをするのは当たり前だろう?


 分からない、なんでお前はそんなに優しいんだ? 勇者だから?


 違う。知らないからだ。何もかも、俺がお前を殺した事を。


 もしそれを知って、お前は今と同じ様に泣けるか?


 泣ける訳が無い。俺の事を罵り、俺の事を憎み、その償いをさせるだろう。


 だから、俺は彼女の優しさに甘えてはいけない。──違う、だからこそ俺は彼女の優しさに甘えているのだろう。


 知られていない事を良い事に、彼女に近付き、騙し、彼女の信頼を勝ち取って。


 それでも……償いをしなければ。神との約束を破ってはいけないから。だから打ち明ける事は出来ない。


「心配かけたな。気にするな、大丈夫だ」


 俺は勇者を優しく引き剥がす。  


「デルシオンさん……」


「大丈夫だから、これからの事をまず考えよう。例えば、あそこに倒れているあいつの事だ」


 火葬屋に向けて指を指す。


「──帰りましょう、ギルドへ」


「は?」


 思わず変な声が出てしまう。


 今なんて言った?


「アセビ? 逃がすって事?」


 ユリィが少し焦った様に勇者に尋ねる。


「はい、そうです」 


 勇者は当たり前かの様に答え、俺達の手を引き、


「大丈夫ですよ。帰りましょう」


 といい、笑顔を崩さない。


「あんた正気!? あんなに弱ってるのよ? 止めを刺すなら今しか無いわ!!」


 ユリィは足を止めて勇者に向かって叫ぶ。


 ユリィの言っている事は正しい。


 今後の事を考えても絶対にここで殺すべきだ。


 今回勝てたのは聖剣の力のおかげなのは明白だ。しかし、その聖剣は砕けてしまった。


 聖剣が無い状態で火葬屋に勝てるかと言われたら、これもまた答えは明白であり、不可能だ。


 だったらここしかない。


 にもかかわらず勇者は逃がそうとしているのだ。ユリィが糾弾するのも仕方のない事。


「俺もユリィと同意見だ。ここで倒さなければ今度こそ皆殺しだ」


 俺もユリィに同調する。


「本当に申し訳無いと思っています。分かってはいるんです。この選択によって、二人にまた危険が及んでしまう事も」


 勇者は一息置き、続ける。


「それでも、私は勇者なんです。他者の笑顔を守る勇者。その笑顔は私達人間だけの笑顔じゃない。ゴブリンも、そこに倒れているあの人も、いきとしいけるもの全てに、生活する中で生まれる笑顔がある。もし私がここで彼を殺してしまったら、彼が生きている事で生まれる笑顔を壊してしまう事になるんです」


「その選択であんたが死ぬ事になるかも知れないのよ!? それじゃあ意味が無いじゃない!!」


「分かっています! それでも私は曲げたく無い! この考えがどれだけ独善的であり愚かなのか。人間は結局、自分本位な生き物。生きるもの全てそう。だから争いは続く、自分の為に、自分の家族の為に戦うから。自分の目線でしか物事を見る事が出来ないから! だからこそ私は勇者なんです! どれだけ独善的であっても、信念の為に剣を振るう! 勇者としてどちらの立場にも立たず、勇者として力を振り下ろす。どちらの笑顔も守る為に!!」


 全ての笑顔を守る為に勇者として力を使う。


 そんな事は無理だ。水と油が混ざらない様に、人間と他の種族もそうだ。


 種族によって主義主張が違い、勇者が言う様に自分の目線でしか物事を語れない。


 勇者は、アセビは、水と油を混ぜる為の界面活性剤になるつもりなのか?


 口で言うのは簡単だ。だがしかし、成し遂げようとなると話は別だ。


 どちらの肩を持つことなく、裁定者の様に振る舞う。


 一人の少女がその道を歩むのに、どれだけ傷付くというのか。


 どれだけ危険な道なのか、想像するに容易い。


 俺は、到底認める事が出来ない。


 その道を歩ます原因を作ってしまった自分が憎い、憎くて憎くて堪らない。


 ──何も、言う事が出来なくなってしまった。


 沈黙の時間が続く中、


「──勇者、アタシも手伝うわ」


 ユリィが破った。


「あんた一人だけなら大変でしょ? アタシも協力すれば二人、おっさんもすれば三人よ! だから何でもかんでも一人で抱え込まないでよね? おっさんも協力するわよね!?」


「あ、あぁ……! 勇者、俺はお前の剣だ。頼りない剣かも知れないが、協力するぜ」


 さっきまで固まっていた舌がユリィにつられて勝手に動く。



 まぁ、協力する事で償いになるのなら幾らでもしてやる。


「デルシオンさん……! ありがとうございます! 一緒に頑張って行きましょう!」


 勇者はニコリと笑う。


 その笑顔は先程までの思い詰めた、いや、覚悟の決まった顔とは打って変わり、年相応の少女の笑顔だった。


 俺は、この笑顔を守らなければならない。


 一度は奪ってしまったこの笑顔、今度は絶対に失わせない。


「さっ! 帰りましょ。お腹ペコペコよ!」


「そうですね、行きましょうか」


 俺達は勇者に引かれながらこの場を後にする。


「まてぇ!! 逃げるつもりかぁ!!」


 背後で火葬屋が喚き散らしているが、今の俺達が振り返る事は無かった。



面白い! 続きが読みたい! と思った方は是非ブックマークと評価をお願いします!


次も早めに投稿したいと思ってます!

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