第39話 ゴブリン討伐 4
誰か時間を下さい……
遅くなってしまい申し訳無いです……
戦況は有利に進める事が出来ている。ゴブリン達に囲まれない様に立ち回りながら攻撃を繰り返す。
危ない攻撃はユリィが馬車上からの援護でカバーしてくれている。そう簡単には負けない、負ける訳にはいかない。
にしても数が多い。今ので20体ほど倒したのだが減っているようには見えない。ユリィに聞きたいが声を出す余裕が無い、目の前のゴブリン達で手一杯だ。
それに武器も気にしなければならない。私の使う剣はデルシオンさんや他の高ランク冒険者の様に良い素材を使用した剣では無く、父から貰った普通の鉄の剣だ。
斬れば血に濡れて切れ味が落ち、歯こぼれもする。出来るだけ最少の手数でゴブリン達を対応しなければ直ぐに使えなくなってしまうだろう。
ナイフを持ったゴブリンが私の懐に入ろうと突っ込んで来るが体を逸らして躱し、ナイフ握り突き出した腕を叩き斬る。そしてその苦痛に悶えるゴブリンの出っ張った腹に蹴りを入れて後方に飛ばす。
折れた剣を構えたゴブリンが私の背中に振り下ろそうとするが振り向きざまに剣を横に振るい腰から上を泣き別れにした。
身体が最適解の行動をする様に私の脳に状況を伝達する前に動き、対応している。何故か分からない、勇者になったからだろうか? 知らないナニカが私の身体を操っている様な感じだ。
しかし、そのナニカは私の身体を考慮していない。幾ら身体能力が上がっているからといって肉体は普通の女の身体だ。能力に身体が引っ張られしまい、身体を操られる動かす度に身体中の筋肉や骨が悲鳴をあげ、鋭い痛みが奔る。
もし今この操っているナニカから解放されてしまえばこのボロボロの身体では立つことも出来ず、抵抗も出来ずにゴブリン達に殺されてしまうだろう。
「イヤぁ!!」
ユリィの叫び声が聞こえそちらに視線を向ける。馬車の屋根の上に乗っていたユリィの足をよじ登ったのであろうゴブリンが掴み、引きずり下ろしたのだ。
「ユリィ!!」
周りのゴブリン達を振り切りユリィにのし掛かるゴブリンに剣を突き立てる。
「ゴグゴャギャ!?」
耳障りな断末魔にを出しながらゴブリンはユリィの上で息絶え、死体をユリィから引き剥がす。
「ユリィ、大丈夫ですか? 立てますか?」
「あ、あぅ……大丈夫、大丈夫よ」
ユリィに手を貸しなんとか立たせる。
「グゲゴガゲ!!」
ゴブリンが叫びながらこちらに槍を突き出す。それを剣で受け流し、剣の鞘をズボンと繋ぐ金具を瞬時に外し鞘でゴブリンを殴り付ける。そしてそのまま剣を振り下ろす──
カランッ、と何かが地面に落ちる音がし、それと同時に右腕に身を裂く痛みが襲う。
剣がゴブリンに到達する前に剣を手放した。何故? 腕に目をやると矢が突き刺さっている事に理解する。理解してしまう。
「えっ、何? 痛い、痛い痛い!」
思わず腕を抱えてしゃがみ込んでしまう。痛い痛い痛い! 痛い痛い痛い痛い痛イ痛い!!!
今まで生きてきた中で一番の痛みと共にナニカが脳に訴え掛けてくる。早く立ち上がり剣を握れと。
歯を食いしばり左手で落ちた剣を掴み、怯んだゴブリンに一撃加えようと振るう。
それによりなんとかそのゴブリンは倒す事が出来たが、また風を切り飛んできた矢が次は太腿に突き刺さる。
膝を付き剣に体重をかけてなんとか倒れるのは免れるが今の攻撃で移動手段が失われた。
このままでは囲まれてしまう、このままではやられてしまう。
焦燥感に駆られて剣を握る手に力がこもる。どうにかして立ち上がろうとするも全く持って立ち上がる事が出来無い。
「風の魔精よ、周囲の魔を切り裂く突風となれ!」
ユリィが必死に魔法を唱えて私に近付くゴブリンを倒している。でも圧倒的にゴブリンの方が多い。
視線を上に向けてゴブリンを睨みつける。醜く嗤うゴブリンがナイフを握り私に振り下ろそうとしたその時、空から炎の塊が堕ちてくるのが見えた。
一匹、また一匹とゴブリンを蹴散らす。次々に仲間が殺られるのを見てか、近付くのを躊躇っている様に見える。
俺が一歩近付くと一歩下がるといった具合に相手は俺に怯えているようだ。このまま逃げてくれるのなら助かるのだが、
「グギゴガゲゴ!!」
「ゲギガゴガギ!」
どうやらそうは問屋が卸さないようだ。何やら後方が騒がしい、じっと声のする方を見つめる。
ゴブリン達が道を開ける、そして、そこから現れたのは俺より一回りも大きいであろう、ゴブリンだった。ゴブリンと言い表しても良いものなのか、明らかに他の奴らと格が違う。
そして腰に下げた剣、きらびやかな装飾が施されており、どこかの名剣である事は間違いないだろう。どうしてゴブリンがそんな物を持っているんだ、死体でも漁ったのか?
「ゴギゲガゴガ?」
何か俺に話し掛けているようだが生憎ゴブリンの言葉は理解出来ない。俺は無言で剣を構える。
「この言葉ならわかるか?」
……っ? 今喋ったのか?
「どうやら分かるようだな。我の名はカエサル・サンドラ・アルギネス・アルフレッド・ジルコニア・サンリーチェ・ケインズだ。この名前は我が覇道の前に屈した強者たちの名だ。彼等の名は我がこうして受け継ぎ我が覇道の礎となるのだ! そして、貴公はデルシオン、聞いているぞ貴公の話。なんでも過去に魔人切りと呼ばれていたそうでは無いか。そんな貴公を倒せば我の覇道がまた一歩進むという事だ!」
「覇道、ねぇ? なんだ国でも創るのか?」
「あぁそうだ、我は全てを武力を持ってして支配する! この世の物は小石一つとしても全て我のものだ!!」
「壮大な夢をお持ちでなによりだ。で、お前は討伐された筈じゃなかったのか?」
「ふっ、我もあそこを死地と定めたのだがなぁ、コヤツが我らを逃したのだ。しかしこれもまた天命、天が我はここで死ぬべきでは無いと、我を選んだのだ」
そう言って隣にいるローブを纏い杖を持ったゴブリンの肩を叩く。
「無駄話はこれぐらいでよいだろう。さぁ、行くぞ?」
ゴブリンの親玉は腰に下げた剣を引き抜く。
その剣は眩い光を放ち周囲を照らす。ゴブリンなんぞに似つかわしくない光だ。
堂々とし、スキのない立ち姿、本当にゴブリンなのかと疑いたくなる。そしてあの光、本能が危険だ、当たってはならないと叫んでいる。
相手を見据え、どう動くか考えていたその時、遠くの空から炎の塊が堕ちて来るのが見えた。
覚えのある熱風が肌を撫でる。これは──
「感じたか? 圧倒的な力を。勝負は一先ず預けたぞ。我はその力の正体にあい、そして倒さなければならない。我が覇道の為に! 行くぞ者共!!」
ゴブリンの親玉はそう言うと俺に背を向けて炎の塊が墜ちた方へと向かっていった。
そのあとに続くようにゴブリン達は村から離れていく。
「儂ら、助かったのかの?」
村人達は拍子抜けした様にぽかんとした表情をしていた。
炎の塊、予想はつく。火葬屋、あいつしか無い。もしや目的は勇者か?
嫌な考えが頭に浮かぶ。俺は村人達に火の手が回っていない場所に避難しろと指示し、急いで勇者の下へと走り出した。




