第37話 ゴブリン討伐 2
その後、馬車の揺れに体力と三半規管を擦り減らしながら何とかサエバル村へと辿り着いた。
限界だ、馬車から降りて地面に足をつけた瞬間立ちくらみが俺を襲う。
ゴブリンとの戦闘の方が100倍楽だろう。
勇者が村長と話をしているのが見える。
話の内容は良く聞こえないがえらく信頼されているのだろう。
話はポンポンと進み村人達は準備を始めた。
「おっさん、何ボーッと突っ立ってんの! 荷物の積み込み手伝うわよ」
ユリィに手を引かれて村人達の元へと向かう。
「ちょっとお爺さん! その荷物重そうね、代わりに持つわ。このおっさんが!」
「……俺かよ」
「おおっ、すまないねぇ、助かるよ」
俺はお爺さんが担いでいた風呂敷をひょいと持ち上げ、馬車にその荷物を積み込む。
「おいユリィ。俺が運ばなくともお前があのボロ小屋で見せた魔法を使えばすぐ運べたんじゃないのか?」
「嫌よ、私の使う魔精術は自分自身の魔力を使うのよ? 回復するのにも時間がかかるし燃費がすこぶる悪いの。有事の時に使えないってことが無いようになるべく温存しておきたいってわけ。わかった? お馬鹿さん」
そう言われればぐうの根も出ない。彼女の魔法は大事な戦力だ。
「……すまん」
「フンッ、わかったらさっさと運ぶのよ」
だとしても少しは手伝って欲しいのだが……
何度も往復し荷物を運ぶ。
結構な時間が立った後、子供達がユリィに近付き、
「お姉ちゃんもしかして魔法使いさん!?」
「そ、そうよ? どうしたの?」
「うわぁ! 魔法見せて!」
「ちょ、ちょっと!」
マントや手を引っ張られて魔法の催促を受けている。
「おっさん!! 見てないで助けてよ!!」
「すまん、荷物を運ばなきゃならんから。じゃ」
俺は彼女に背を向けて馬車に向かう。
「早く早く!」
「わ、わかったから引っ張らないで! 痛い!! それ帽子じゃなくて髪の毛だから!」
すまん、ユリィ。
手伝わないならせめて子供達の面倒を見ていてくれ。
ユリィの悲鳴を聞き流し荷物運びに専念する。
足元が覚束ない、頭痛がする。
馬車のおかげで体調は最悪、いつぶっ倒れるか分からない今の状況、そろそろ休みたいな。
このままだとイーストに帰還するまで保たないぞ……
「デルシオンさん、そろそろ休憩にしましょう。村長さんがスープを作ってくれたみたいですよ」
「そうか……有り難いな」
俺は勇者に連れられて村長宅に入る。
中には既に髪の毛がボサボサになりマントもシワだらけになってしまったユリィがいた。
「手伝って頂きありがとうございました。おかげでいつでも出発できるようになりました。お礼と言ってはなんですが、昼食を作ったので腹ごしらえをして行ってください」
目の前には体調不良のこの身体でも食欲を誘う匂いを放つスープが置かれている。
俺はスプーンを握り一口飲む。
「これは──」
口の中がピリピリする。
前にもこんな経験があった気が……
「ねぇ、これヒカリキノコよね? とても美味しいわ」
「……デルシオンさん、大丈夫ですか?」
やばい、視界がぐるぐると回っている。
少し食べたぐらいで普通こうはならないだろう。
しかし、今この体調でこれは……
「だ、だいじょう……」
駄目だ。
視界が暗転し、そのまま意識を失った。
「ちょ、ちょっと!? おっさんしっかりしなさいよ!!」
ユリィは心配そうにデルシオンさんを揺さぶる。
「馬車の時から体調が悪かったみたいですし今はゆっくり休ませてあげましょう。村長さん、すみませんがベッドを一つ貸してはくれませんか?」
「えっえぇ、構いませんよ」
私はデルシオンさんを背中に背負うとベッドまで運ぶ。
「そろそろ出発しないとゴブリン達に遭遇するかもしれないわ。アセビ、おっさんはここにおいて行きましょ」
ユリィは私がデルシオンさんをベッドに降ろしたあとに言う。
「ですが……」
「大丈夫よ、私達二人で何とかなるわ」
「……そうですね。デルシオンさん、ここで安静にしておいて下さい」
私はデルシオンさんの頭をさっと撫でて立ち上がる。
任せてください、私達が貴方の力が無くとも任務を無事に成功させます。
「さぁ出発しましょうか」
「……どういう事だ?」
俺達ランク3の主力チームはゴブリンの襲撃地点と予想される村で防備を整えていた。
しかし、状況が変わった。
「それが……ゴブリンの群れを見失いまして……」
「何百とも居るゴブリンの群れを見失うだと? 何をしていた!?」
「ちっ違うんです!! ある地点から不自然に足跡が無くなってるんです!!」
「は?」
足跡が無くなった?
「考えられないのです……一変にあの大群が消えるというのが」
「……周辺の警備を怠るな。嫌な予感がする」
不可解だ、何故消えた? もしや何か特別な能力を持ったゴブリンでもいるのか?
言い寄れぬ不安を胸に、俺は馬へ飛び乗った。




