第14話 馬鹿
14話目投稿しました!
明日も投稿します!
「失踪事件?」
マスターの話だと、一ヶ月前から迷いの森にて、行方不明者がわかるだけで50人以上出ているらしい。
その行方不明者の中で、イースト支部でただ一人のランク4である冒険者も含まれるらしい。
とんでもないナニカが潜んでいると思われるので、本部に話を掛け合ってみたが色良い返事は貰えないとか。
なんでも本部のあるミドリテア水上都市でも、魔王軍の動きがあったらしく、派遣する事ができないと返事が来たと。
そして様々なところに連絡した結果、サウスターから先程暴れていたあの青年、デイニスが派遣されて来たというわけだ。
まぁ、派遣というのは建前で、押し付けたというのがホントのところと予想しているとマスターは言った。
サウスターでも問題児だったらしいので仕方のない事かもしれないな。
「まぁこんな話をしてもアンタ達には関係ない事だしね、ランク1だし、くれぐれも迷いの森にはいかないように!」
「……」
「どうした?」
勇者は黙り込んで何か考えている。
「あの……私達もその調査に!」
「バカか、あのなアセビ。まぁギルドの事とか全く知らないってのもあるがな、ランク4の冒険者が行方不明になるってのは異常事態なんだ。ランク4はいわば人の枠を越えた存在なんだぞ? そんな奴が行方不明って事は、そいつより強いナニカが居るって事だ。わざわざそんな危ないとわかってる所に飛び込む必要はないだろ?」
「……でも、でも私は勇者として務めを果たさないといけないんです! 行方不明になっている人達を一刻も早く見つけないといけない! 勇者ならそうすると思うんです!!」
「アセビ、今の俺達が行ったところで無駄死にするだけだ。それにマスターもランク1の俺達には関係のない話だって言ってるだろ?」
「そうですが……」
「気持ちはわかるけどよ、他の冒険者達がこの事件の調査にいっているわけだし、今はそいつ等に任せようぜ?」
「……わかりました」
納得はしていないようだが、今はこれでいい。
「よし! なにか依頼を受けるか! マスターなんか手頃な依頼ってあるか?」
雰囲気を変えるように明るくマスターに訊ねる。
「それならこれなんかどうだい?」
マスターは掲示板から依頼書を剥がすとこちらに渡す。
なるほどな、ゴブリン討伐か、5体で10銀貨、まずまずだな。
「よしアセビ、これにしよ─」
「これにします」
勇者が手に持っているのは薬草採取の依頼。
「おい、それはやめたほうがいいぞ? 採取系の依頼は時間がかかる上に安い。そんなんだったら普通に働いた方が稼げるぞ?」
「でもこの依頼書、結構前からあるやつですよ。それだけ依頼者は待っていると思うんです」
日付は一ヶ月前、本当に困っていてこんなに期間が空いているなら、もう自分で採取に行ってるんじゃないか? と思わなくもないが彼女の言っていることにも一理ある。
「まぁ、そうかもな。よし! これにするか」
「それなら一度依頼者の家に訪ねてみて依頼の詳細を確認してきておくれ。薬草の採取としか記載されてないからその種類を教えてもらわないとね」
「わかったよ。じゃあいこうか」
俺達がギルドから出ようとした時、マスターが俺の耳元で
「勇者ってどういうことかまた説明頼むよ?」
「あぁあ、えぇと、時間があったらな」
厄介事に巻き込まれるのは面倒だし、極力バレたくなかったのだがよりにもよってマスターにバレてしまうとは。
俺ははぐらかしこの場を後にする。
「まずは剣を取りに行かなくちゃな」
「そうですね」
俺達は来た道を戻っていく。するとちょっとした広場に人だかりが出来ている。
よく見たらそこには先程ギルドから追い出された男、デイニスが周りの冒険者に、離れたここからでも聞こえるぐらいの声で語りかけていた。
「いいか! この町にいる冒険者の質は低い! この町のランク3冒険者の殆どが調査しているというにも関わらず、まだ失踪事件は解決しておらず! 行方不明者が増え続けている、そんな中、この勇者に選ばれた僕が解決してやろうと思っている。そこでだ! ランク上位の奴らを見返したくないか? お前達に頼らずとも解決できると叫んで見たくはないか!? この聖剣について行くという者たちは皆、勇者の仲間だ!!」
彼は剣を引き抜き天に掲げ、門の方へと向かっていく。
周りの冒険者達はその言葉に釣られてか、後に続いていった。
「勇者なんてバカみたい、あんなの勇者じゃない、ただの子供よ」
どこからか、少女の声が聞こえたような気がした。