第13話 誕生
第13話目投稿しました!!
今回は自分の好み全開で書いており他の話と比べると長いです。その分誤字脱字が多いかも……
どれくらいの文字数が丁度良いのかがわからず右往左往しています!
感想にてアドバイスお待ちしていますのでよければお願いします!!
14話目も明日12時頃に投稿します!
「もぉ〜ハントってば、お腹に赤ちゃんいるの忘れてない?」
「忘れてないよマイハニー! でもついついね、僕の妻は最高に可愛いからね!」
「やめてよもぉ〜! 誰かに聞かれてたら恥ずかしいでしょ〜?」
今、近頃イースト郊外にある森、通称迷いの森で噂になっている行方不明事件の調査で来ている。
ちなみに僕達はイースト支部のギルドで有名な冒険者パーティーだ。
有名といっても、夫婦で冒険者をしているというところが有名なだけ、冒険者として優れているかと言われればそうでもない。
しかしこの迷いの森は僕達夫婦の生まれ故郷、10年以上この森で生活しているから実質僕達の庭だ。
迷いの森と呼ばれる所以は木々に特徴が無く、目印になるような物がないというところだ。
土地勘がない冒険者や一般人が入っていくなら、ものの数分で迷ってしまうだろう。
「ねぇハント? なんか変なニオイしない?」
「変なニオイ?」
僕の妻、シュヴァインは嗅覚に優れた狩人だ。
僕は特にニオイを感じないが、妻が言うならするのだろう。
「マイハニー、進むのはやめておいた方がいいと思うかい?」
「うぅーん、嗅いだことあるニオイなんだけどなんだろ、他のニオイが混ざってる感じがするなぁ。人間のニオイもあるから様子を見に行って見たほうがいいかも」
「わかったよハニー! 何かあったら僕が必ず助けるからね! 心配いらないよ!」
僕達は森の奥へと進んでいく。
この先を進むと少し開けた場所に出る筈だ。
「ねぇハント」
「ん? なんだいハニー? って、んっ」
妻は僕が振り向いた瞬間、唇を重ねた。
「どうしたんだいハニー? やけに積極的だね?」
「ねぇ、お腹の子の名前、どうする?」
「急だね? そうだなぁ」
名前、こんな所で考えるより帰ってからの良い名前が思いつきそうだ、と言おうとした時、
「痛っ」
「ハニー? 大丈夫?」
「なんか虫に噛まれたみたい」
妻が足を指さす。ふくらはぎ辺りか? 見てみるが特に赤くなっていたりはしていなかった。
「腫れたりはしてないよ、気のせいじゃないかな?」
「そうかなぁ……まぁいっか!」
僕達は先に進む。
もう少しで目的の開けた場所に出る。
「わかったわ、このニオイの正体が。このニオイの正体は──」
開けた場所に出た。
そこに目にしたものは、木々の隙間から見える夜空を覆い隠すようにはられた、巨大な蜘蛛の巣だった。
「──アラクネイヤよ!」
地面には冒険者らしき人や商人や子供、様々な人が転がっていた。
腹に大きな穴をあけた状態で。
「アラ? マタニンゲン?」
声が聞こえる。
そちらの方に目線を向けると、そこには、人間の身体の3倍はあるだろう真っ白な蜘蛛の上に、美しい人間の上半身がくっついたナニカがいた。
アラクネイヤ、戦った事がある。
蜘蛛がエサを釣る為に、身体の一部を人間に似せた生物。
だが、僕達が戦ったアラクネイヤは、こんなにも大きく、美しくなかった。
僕は咄嗟に妻の腕を掴み、来た道を急いで戻る。
勝てるわけがない。
僕の能力は“相手の強さを色で判断できる“という能力。
あの色は見たことの無い、それに転がっていた人間の中にはランク4の冒険者までいた。
パーティーを組んでやっとランク3の冒険者の僕達には到底かなうわけがない。
逃げる、とにかく逃げる。
この森は僕達の庭だ! 絶対に逃げ切れる!!
どれくらい走っただろうか、体力は底をつき、僕達は木の陰で身を寄せ合い隠れていた。
「ハァ、ハァ、追っては来てないようだね。大丈夫かいハニー?」
「えぇなんとか。でももう一歩も動けないわ」
早く体力を回復して森を抜けなければ。
僕は辺りの警戒をしていた、その時、
「痛い、痛い痛い痛い痛い!!」
「!? 大丈夫か!?」
妻はお腹を押さえて苦しんでいる。
「留め具外して!! 痛い痛い! 痛いの!」
「わっわかった!」
妻の防具の留め具を外してシャツだけにする。
そして分かる、明らかに腹が膨らみ始めているという事に。
どんどん膨らんでいき、着ていたシャツがめくれ上がる。
腹の中にはナニカが蠢いており、そのたびに悲鳴をあげ、泣き叫ぶ。
分からない、何が起こっているのか、
「ヤダぁ!! ハントォ! たすけて!」
助けを求められてもどうすればいいのか見当もつかない。
「大丈夫、大丈夫だ!!」
俺はただ必死に声をかけるだけだ。大丈夫なわけがない、でもかけられずにはいられなかった。
守ると言った矢先こんなことになるなんて思いもよらなかった。
「がァ!! やめて! 内側からナニカ出てくるぅ!!!」
バシャッ、膨らんだ腹から昆虫の脚のような物が突き破る。
そして、中から大量の血液と共にナニカが流れ出てきた。
人間の赤子のような身体に、至る所から蜘蛛の脚が生えているナニカ。
それは、突き破った妻だったものを見ると、
「マ、マ」
と呟き、器用に蜘蛛の脚を使い、妻の身体を掴むと、大きな口をあけて食べ始めた。
僕はその光景を、黙って見ることしかでき無かった。
能力で見れば分かる。
色は青色、力は一般人以下の能力値、倒せる。
だが身体が動かない、さっきまで喋っていた妻がこんな姿になるなんて信じられない。
この生物はなんだ? なんなんだ? 恐怖で思考が支配されていく。
ひとしきり食べたのか、それとも飽きたのかはわからないが食べるのをやめてこちらを見て、血に塗れた口周りを長い舌で舐め取る。そしてこちらへと近付いてくる。
身体がすくみ動けない。
なんて情けない男なんだ僕は。
バキ、グキャ
目の前の生物から音が聞こえる。
骨や肉が動く音だ。
グチュ、グギャ、バギ、
赤子くらいの大きさだったソレは不快な音をたてながらどんどん体積を増やしていき、大人ぐらいの大きさにまで成長した。
「パパ、はじめまして」
まばたきをした瞬間、肉の塊のようだった身体は、シミ一つない真っ白な肌に変わっていた。
先程のアラクネイヤの様に美しい顔立ちでプラチナブロンドの髪をなびかせる少女が僕に向けて微笑みかけてくる。
しかし、その美しさとは裏腹に、腰からは蜘蛛の脚が六本生えており人間という枠組みから外れている事を理解する。
「お前は……お前はなんなんだ!? よくもシュヴァインを!!」
「? あぁ、ママのこと? ママには私を産んでくれて本当に感謝しているわ。ありがとねママ」
悪びれる素振り一つせず、妻に感謝している。
自然と腰の短剣に手が伸びる。
……こいつは絶対に殺してやる、妻を奪ったこいつは絶対に許さない!
「なんでそんな目で私をみるの? 貴方達が待ち望んでたお腹の子だよ?」
確かにそうなのかもしれない。
しかし今の僕には、怒りに飲まれてしまった僕にはその言葉が届かなかった。
僕はこいつに飛びかかり地面に押し倒す。
そして短剣を胸元に突き立てた。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も。
「ぱ……ぱ」
しぶとい、何度も心臓、肺、首、様々な部位に突き刺したというのにまだ息がある。
流石化物といったところか、だが次でこいつは死ぬだろう。
もう一度突刺そうと、振り下ろした時、短剣を握る手がなにかに包まれる。
そちらの方に目をやると妻、シュヴァインがその手を握っていた。
妻は首を横に振り駄目だと訴えかけて来る。
短剣を握る手の力が緩む、しかし、あの凄惨な光景が脳内に流れてくる。
駄目だ、こいつは許せない、妻を奪ったこいつは!
そもそも何故妻は止めようとするのか理解する事が出来なかった。
いや、理解しようとしなかった。
僕は妻の手を払い、短剣を振り落とし、そのまま胸へと──刺さることはなく物凄い衝撃と共に吹き飛ばされた。
「ガハッ!」
頭をうったのか意識が朦朧としている、立ち上がろうとしても身体に力が入らない。
「ゲホッ、やっぱり人間の身体は脆いわね。しかも再生が遅いし、危うく死ぬところだったわ」
気が付くとあの生物は、地面に転がる僕の目の前でしゃがみこんでこちらを見ていた。
「お、まえ、なにものだ?」
「貴方達の子供よ? あっ違うわね、貴方達の子供の身体を乗っ取ったってのが正解ね」
乗っ取っただと? いつ?
「でもやっぱり人間はめんどくさいわね、なんでこんな人に情を持っちゃうのかしら、やっぱり父親だから? 殺すってなると難しいわね、どうしましょう」
首を傾げながら考えている。
僕はそばに転がっている短剣に手を伸ばす。
こんな所で死ねない、死ぬわけにはいかない。
「いいコト考えたわ!」
こいつは嬉しそうに声を上げ、僕の腹に指を突き刺す。
「がァッ!」
強烈な痛みと共に何かが身体に流れ込んでくる。
「貴方は今日からパパじゃなくて私の子供達のママになるの!」
もうこいつが何を言っているのか分からない、途轍もない眠気が襲ってきている。
「最後にさっきの質問に答えるわね、私は魔王軍四天王が一人、属性は土、土葬屋のノームリア。じゃあおやすみなさい、ママ」