第12話 ギルド
「よし、ついたぞ。ここがギルドだ」
目の前には大きな建物があった。
中からは男達の怒声や、笑い声が聞こえている。
彼は気にせず中へと入っていくのでそれに私も続く。
中に入るとツーンとアルコールの匂いや、汗の匂いがして思わず眉をしかめる。
奥には受付があり、そこまでいこうとした時、横から ドゴン! という何かが叩きつけられる音が聞こえた。
そちらの方を見ると、大きな人だかりがあり、一人の大柄な男の人が腕を押さえて呻きながらうずくまっている。
「ハッ! なんだなんだ、ランク3って言ってもその程度か?」
机に足を組みながら座り、大きなジョッキを片手に顔を赤く染めた金髪の青年がいた。
「デイニス様、そろそろお酒は控えたほうが」
「うるさいなぁ!? 勇者の僕に指図するな!!」
隣にいた私と同い年くらいの白髪の少女が青年に蹴られて倒れる。
私は反射的に彼女を床に倒れる前に受け止めていた。
彼はなんと言った? 勇者?
「なんだ? お前、お前も僕に指図するのか? えぇ? なんとか言えよ!」
青年は机から降りて手に持っていたジョッキを地面に叩きつけ、私に近付いてくる。
「いやぁ、すまないね、ウチの連れが失礼した」
デルシオンさんは私の肩に手を置き、後ろに引かせる。
「どけ、邪魔だよ、そいつも一発殴らないと気がすまねぇんだよ」
「と言われてもなぁ」
一触即発、デイニスと呼ばれた青年はデルシオンを睨みつけながら近付いている。
「あんたら!! いい加減にしな!! ここは酒屋じゃないんだよ!? 喧嘩なら他所でやりな! こんな朝から酒飲んで! 一つぐらい依頼でもこなしたらどうだい!」
カウンターから大柄の女性が出てきて注意する。
「ぎ、ギルドマスターだ! 散れ散れ!」
喧嘩を見ていた野次馬達は、ギルドマスターと呼ばれた女性から逃げるように一斉にギルドから出ていった。
「チッ、覚えておけよ、勇者である僕に逆らった事を後悔させてやる。おい、エスカトス!」
私が受け止めた少女は私の方に向き、一礼すると青年の元へと向かい、そのままギルドから出ていった。
「はぁ、最近の若いもんは……」
ギルドマスターはため息をつく。
「久しぶりだな、マスター」
「って、アンタ! デルシオンじゃない! 死んだはずじゃ!?」
「死んでねぇよ」
二人は知り合いなのか? 仲が良さそうだ。
「あの、この人は?」
「この人はギルド、イースト支部のマスターである」
「アルフリードさ! よろしくねお嬢ちゃん」
彼に被せる様にマスターは答える。
「ところでアンタら二人ってどういう関係なんだい?」
「色々あって一緒に旅をしていてな」
「ふぅーん、そうかい」
アルフリードさんは私の方をジロジロと見てきて、
「デルシオンに何かされたらいつでも相談して頂戴ね? とっちめてやるからね!」
そう言ってニッコリ微笑んだあと、デルシオンさんの方をみて睨みつける。
「そういう事だから、よろしく」
「何もしねぇよ」
何をするというのだろうか?
少し考えてみたが思い浮かぶものは特に無かった。
「で、今日はその子の冒険者登録をしに来たってところかい?」
「そうだ、頼めるか?」
「よし、お嬢ちゃんこちらにおいで」
「よろしくお願いします」
私はアルフリードさんについて行く。
受付前まで行くと、
「ちょいと待ってておくれ」
と言い、アルフリードさんはカウンター下をゴソゴソと探り、彼の持っていた札と一本の針を取り出した。
「こいつにお嬢ちゃんの血を一滴落としてくれたら出来るよ。まぁ後は名前と出身の登録は別だけどね」
「わかりました」
私は人差し指を針で刺し、血を札に落とす。
札に血が染み込んでいき、少し光を放った後、何かのマークが刻まれていた。
「ん、出来たよ。今日からお嬢ちゃんも冒険者さ」
札を受け取り、見てみると、私の情報が記されていた。
「ありがとうございます」
「ギルドにはランクがあってね、依頼をこなす毎に上がっていくわけさ。お嬢ちゃんは登録したてだからランクは1、頑張っておくれ。ランクに応じて高給の依頼が受けられるからね」
「なるほど、わかりました」
「後無くしたら再発行は出来てもランクは引き継げないからね、くれぐれも無くさないようにね」
私は札を革袋の中にしまう。
無くさないようにしなければ。
デルシオンさんは思い出したかのように、
「そうだ、カードの更新頼めるか?」
「わかったよ、ほら、カード貸しな」
彼はギルドカードを渡す。
「……あんた、いつから更新してないんだい?」
「ざっと10年以上ぐらいだ」
「バカなのかい!? そんだけ更新してないから死亡したって記録されてるよ!? 一年に一回は更新しなきゃいけないのに……初めて見たよ、更新しなくて死亡と記録される奴は」
「すまんすまん、修行しててな」
「はぁ……カード作り直しだからランクは1からだよ」
「は? 嘘だろ? 今までの苦労は?」
「アンタの浅はかな考えのおかげでおじゃんだよ」
「そんな……」
そう言って彼は受付に顔を伏せてしまった。
「デルシオンさんの元々のランクはいくつだったんですか?」
私は聞く。
「ランク4、最高ランクの一歩手前さ。大抵の冒険者は3までしかいかないんだけどね、凄いよこいつ。なんたって魔王軍四天王の一人に一太刀あびせた男だからね」
「まぐれだよまぐれ、運が良かっただけだ。」
「運も実力の内さ」
デルシオンさんは顔を上げると、
「まぁいいか、心機一転、勇者とランクあげますか」
「切り替え早いねぇ、普通はもっと落ち込むよ?」
「落ち込んでランクが戻ってくるなら良いんだがな」
彼は私がやった手順でカードを発行した。
「にしても人が少ないな」
彼は辺りを見渡しながら言った。
言われてみれば受付にも一人二人しかおらず、冒険者に至っては私達だけだ。
「さっき追い出された奴らを合わせても20人いかないぞ? 何かあったのか?」
「それがねぇ……いま厄介な事が起きててね」
彼女はその厄介事の内容を語り始める。
この一件が今後の冒険に大きく関わる事を、今の私達は知る由もなかった。