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第11話 美味しいキノコと奇麗な青空

「……あの、デルシオンさん? 半日くらいで着くんじゃ?」


「あれ? おかしいな、このあたりで道に出るはずなんだがな……」



 彼はあたりをキョロキョロと見渡している。


 あの後、彼に案内されイーストへと向かった。


 しかしこの通り、絶賛迷子中だ。



「日も落ちてきましたよ? このまま進むのは危険じゃないですか?」


「……そうだな、本当にすまない」



 彼は肩を落としながら謝罪する。


 

「気にしないで下さい、急がずゆっくりいきましょう」



 少し歩いていると開けた場所に出る。


 そこには淡い光を放つ何かが沢山地面から生えていた。



「なんだこりゃ?」

 


 彼は首を傾げてそれに近づく。



「デルシオンさん、それヒカリキノコっていうんですよ。こんな見た目でも結構美味しいんです」



 コレは家の近くの森にも沢山生えていた。


 見た目は光を放っていて少し毒々しいが、焼いてみれば芳醇なキノコの香りが食欲を刺激し、一口食べれば暖かい風に包まれる様な感覚がする不思議なキノコだ。


 ……父の好物だったな。



「うぇえ? マジかそれ、まぁ食べてみない事にはわからないしな。よし、ここで野宿しようか。勇者、頼むが枯れ木や落ち葉を集めてきてくれ」


「わかりました」 



 近くに落ちている枯れ木や落ち葉を集め、彼に渡すとそれに発火石で火をつけた。


 手頃な大きさのキノコを何本か取り枝に突き刺す。


 火に当てるようにキノコを向ける。


 焼け終わった姿は至って普通のキノコだ。


 彼に一本渡し、自分の分のキノコにかぶりつく。


 あの家で食べたキノコと変わらない味だ。


 前世で食べた椎茸と似ているか? そんな事を考えながら咀嚼していると、



「うっ、何だこれ! 勇者大丈夫か!? 毒だコレは!」


「え?」



 彼は持っていたキノコを投げ捨て、私に近付き心配そうに声をかける。



「別になんともありませんよ? 普通に美味しいキノコです」


「は? そんなはずは」



 彼に見せつけるようにもう一口かじる。


 うん、普通だ。


 彼は投げ捨てたキノコを拾い、まじまじと見つめている。 



「キノコ苦手なんですか?」


「いや、そんなことはないんだが」



 もしかしたら彼が食べたキノコは別の種類のものだったのかも知れない。


 私は彼の持つキノコを取り一口かじる。


 うん、変わらない。



「え、おい、まて」


「どうかしましたか?」


「……なんでもない。所で大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ。やっぱり苦手なんですね、ごめんなさい。気が付かなくて」



 人には好き嫌いがある。


 食べる前に一度聞くべきだった。



「うぅん、そうだったかもしれねぇな……なにせここ最近キノコを食べた記憶がないし忘れてたのかも」 



 彼は少し考えた後、



「すまん、今日は歩き疲れたから先に寝る。おやすみ」


「はい、おやすみなさい」



 そう言って木に身を預け、目を瞑った。


 

 私の憧れの人。

 昨日出会い、まだ約二日の付き合いだ。


 この人は悪い人じゃない。

 

 彼は少し抜けた部分があるが、一人で旅をするより断然安心感がある。


 彼のことは全然知らない、知っているのは、人を助ける事が出来る力と心があるという事だけ。


 このいつ終わるか分からない旅の中で、少しずつでも彼のことを知っていけたらいいなと思う。


 残ったキノコを平らげ、マントを地面に敷き、身体を横にする。


 明日は何が待っているのだろうか。


 そして私は発火石により起こした火の温もりを感じながら眠りについた。


 




「さぁ! 今日中にイーストに着ければ良いんだがな!」


「そうですね」



 翌朝、支度が終わった私達はイーストに向けて出発した。


 数分後、



「あれ、道に出たぞ? こんな近くにあったのか」



 昨日あれだけ探して見つからなかったイーストへと続く道がすぐ見つかった。



「まぁいいか、さぁいこう」



 道なりに進んでいくと、遠目からだが大きな城壁が見えてくる。



「見えてきたな、あれがイーストだ」


「あれが……」



 そしてイーストの門前にたどり着いた。


 マンション程の高さの城壁が私達を見下ろしている。


 こんなに大きなものは前世にも無かった。

  

 城門前には沢山の人が並んでおり、門番らしき人達に持ち物検査をされている様だ。


 私達もその列に並び自分達の番を待つ。



「イーストは隣国のイルレオーネ法国を繋ぐ要所だからな、その為こんなにも大きな城壁を構えているんだ」



 今思えば、この世界にはどのような国があるのか、歴史、その他諸々全く持って知らない。



「この大陸にはここ、ギルドガンド王国とヴァルナチア帝国、イルレオーネ法国という国の3つがある。まぁ他にも小さな国が色々とあるんだが主な国はその3つだな」



 国についての話をしていると私達の番になった。



「ん、武器の所持ですか。ギルドカードの提示をお願いします」


「ギルドカード?」



 聞き慣れない単語に私は聞き返す。



「あぁ、ギルドガンド王国にはギルドという組合があってな。簡単に説明するなら依頼を受けて金を稼ぐ所で、誰でも依頼を出す事が出来るんだ。所謂何でも屋だな」

 

「なるほど」

 

「ギルドカードはそのギルドの冒険者としての身分証明だな」



 ギルド、勇者としての務めを果たすのにピッタリな場所だ。

 


「イースト出身ではない人で、ギルドに登録していない方は武器の持ち込みは規則で禁止されているのです。その為、一度武器をこちらで預からせて貰っています。そちらの方は?」


「あ、これで」



 彼は首にかけていたチェーンを外す。そこに札のようなものがありそれを見せる。



「……これは?」


「あれ、何か問題ありますか?」


「更新をされていないようですね、武器の預かりはしませんがギルドについたら更新なさって下さい」


「あぁわかりました」


「そちらの方の武器は一度お預かりさせて頂きます」



 私は門番の方に腰に下げていた剣を渡す。



「登録なさったらそのカードを提示して貰えばお返ししますのでお早めに」



 私達は門をくぐる。


 中は中央にある大きな館に向かって大通りが続いており、人通りが多く、とても活気に満ちている。


 西洋風な建物が立ち並び、改めて日本とは別の世界に来てしまったのだと実感する。


 そしてこの美しい町並みに映えるのは雲一つない晴天の青空だ。



「……凄い」  


「そりゃあここはイルレオーネ法国やその他の国の商人が集まる所だからな、賑わいは首都にも負けてないだろう」



 この光景をみてぼぉーっとしていると、



「にしても俺が来ていない間で随分と町並みが変わったな。って? おい勇者、聞こえてるか勇者?」



 彼に肩を揺さぶられ気が付く。

 


「あっ、すみません」


「しっかりしろよ? 今からギルドで登録してそこから飯だ飯、昨日から何も食ってなくて腹がペコペコだ!」



 私は彼のあとに続く。


 これからの旅、ギルド、楽しみな事で一杯だ。



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