第10話 実感と仲間
その後、私達は子供達を引き連れ村へと帰った。
デルシオンさんは村には入らず、一応村近辺の見回りをすると言っていた。
手柄はやると言われたがどうしたのものか。
今は村長が営む宿の食堂にいる。
「……本当に、本当にありがとうございました! 少ないですが村の皆で出し合った報酬です。どうか受け取って下さい」
目の前の村長は、机の上に手のひらサイズの革袋を置く。
「そのお気持ちだけで結構です。それで子供達に美味しいものでも食べさせてあげてください」
私が助けたわけではない。彼が、デルシオンさんが全てやった事だ。
本来なら彼が受け取る筈の報酬、でも手柄はいらないと言っていたからそれをどう使うのも私の自由。
それなら、勇者ならこの報酬は受け取らない筈だ。
「なら今夜は是非ともここで泊まっていってください!」
「それは有り難いです」
村長は部屋へと案内してくれた。
「それではごゆっくり」
私は汗や土で汚れた身体を拭く為、装備を脱ぎ、部屋に常備された水桶に入った布で身体を拭く。
窓の外を見ると夕焼けに染まっていた。
いつの間にかこんなにも時間が経っていたとは……
身体を拭いている最中、ふと思ってしまう。
もしデルシオンさんに出会わなかったらどうなっていたのか、子供達を助けれたのか。
多分無理だっただろう。
あの地下にあった空間を見つける事も出来ず、あの盗賊達に勝つ事も出来ず。
彼らの戦いを見てどれだけ私が弱いのか実感した。
これでは勇者としての務めを果たす事が出来ない……
身体を拭き終わるとそのままベッドに身を預ける。
急に疲れが吹き出てそのまま意識が追いやられ、眠りについた。
翌朝、荷物をまとめて宿をあとにする。
「ありがとうございました!! またいらしてください!!」
外にはここの村人のほとんどが迎えており、私を送り出してくれた。
村の外に出ると、デルシオンさんが退屈そうに待っていた。
「どうだった? どれくらいの報酬を受け取った? 人攫いの依頼なら経験上最低でも5万Gくらいか?」
「受け取ってませんよ、子供たちに渡しました」
「へ? あぁー。まぁいっか」
「じゃあいきましょう」
「そうだな」
彼は釈然としていない様子だったが、私が出発を促すと直ぐに顔付きを変える。
「所でどこに行くかって決めてるのか?」
「いえ、決めていないです。それに近辺に何があるのかも知らないです。この村に辿り着いたのも運です」
「無計画過ぎるだろ……」
よく考えればなんて危ない橋を渡っていたのだろうか、もしかしたら野垂れ死んでいたかも知れないのに。
「んー、ここから近くだと都市のイーストだな。半日くらいでつく筈だ」
「あの、いいですか?」
「どうした?」
私は考えていた事を彼に伝える。
「私に戦い方を教えてくれませんか?」
「良いけど、何かあったのか?」
「私は剣を振った事がほとんどありません。戦った事も一度もありません。昨日、貴方が戦っている姿を見て、私がもしあの男と戦っていたらと考えると確実に負けていたと思います。このままでは勇者としての使命を果たす事が出来ないんです、それに私は──」
「わかった! わかったから落ち着いてくれ! 一旦離れてくれ!」
気が付くと彼の顔が目の前にあり、いつの間にか彼に体を目一杯押し付け、詰め寄っている事に気が付く。
「あっ、すみません」
私は慌てて彼から離れる。
気持ちがはやりすぎてしまった。
彼は一つ溜息を吐くと答える。
「強くなりたい、か。わかった、俺の経験してきた事、技、全て教えよう」
「ありがとうございます!! これからよろしくお願いしますね!」
私は強くなるんだ、勇者としての務めを果たす為に。