2話『混沌』
『防御領域展開。平行、能力解放。【衝撃】』
黒煙と爆薬の匂いが鼻を掠める。黒い髪、黒い武装服、黒い靴。重く引き寄せるような闇に味方であれど頬が引き攣るのが分かる。黒に映えるような黄色い襟巻、黄色い瞳。と其れに隠れるヘッドフォン、普段の口調には親近感を覚える。
然し。ひらり、と黄色が舞った。小柄な体躯に合わない大ぶりの薙刀は的に当たると衝撃波を生み出す。
未だだ。切る、刻む、刈る。
「ただものじゃねェなァ、アイツ」
近くにいた長髪の男がくつくつと笑った。こんな状況で笑ってられるこいつが信じられなかった。
「何笑ってんだよ!お前ッ、これがどういうことかわかってんのかよ!」
「あ?分かってるわ、さ、俺も行きますかねェ…」
長髪男は此方を一瞥すると、先程とは打って変って真剣な目つきになる。
ぶわり、と全身から汗を出す。素人の俺でも分かったのだから間違いない。
”こいつもただ者では無い”と。
気づいた時には長髪男はもういなかった。
◇
「…………眠い」
「ゲームだな?今日テスト返ってきたみたいだケド、どうだったのかなぁんひなきちゅわ~~ん」
日が傾き始めた帰り道。卓海はにやにやと緋奈稀をつつく。
緋奈稀はとにかくうざったい、といった様子で手をひらひらさせた。
「ゲーム発売からもう二週間、やること多すぎてあきねー…!」
TBGの話をしているのかほんの少し耳を傾けるが「やること多すぎて俺死ぬかも」とか「なんでお前そんな強いんだよぉオオオ」とかしか言わないので良い情報は得られなかった。
まぁ、帰り際に「今日七時からな!」とゲームの誘いをもらったので多少嬉しくはあるのだが。
国語43点のテストを丸めてごみ箱に放り投げ、ゲームを起動させた。
◆
「それにしても、やっぱなれねー其の髪型!!」
ゲームログインをすると赤い鎧を纏った卓海が待ち合わせの広場で待機をしていた。
──それにしても髪は変だろうか?緋奈稀は肩に触れるほどに短くなった髪をさらさらと撫でる。
「…変?」
「やめろ!女っぽいから!俺新たな道に────」
「それだけはやめて」
人にどう思われようが関係ないや、と思いつつ調子の良い卓海に呆れたようにため息をついた。
「どこ行こっか?」
卓海の声にマップをスクロールしながら解放済みの第1ダンジョンのエリアを見据える。
「”月の籠城”とかかっこよくね??ここ!」
「多分…ハイレベルプレイヤーでも難しいけど…」
「遠慮しときます!!!」
ふざけたような会話をしながらあ、ここがいい、と簡単そうなエリアをタップしようとした。その時。
空気が震えた。
月がないはずの此の空間に黒い黒い三日月が浮かんでいた。
否、裂け目、と呼ぶべきか。