1話『ようこそ、』
『ようこそ、”Transparent box garden”へ。この世界は無数のダンジョン、街、自然等々様々な要素で構成されています。ここではギルドを組んでダンジョンを攻略したり、街でのんびり暮らしたり、playの仕方はあなた次第。さぁ、未だ空っぽのこの世界を思う存分楽しんでください』
◇
「再充填ッ!再充填を早くしろ!!」
「わかってらあ!こっちも忙しいんだわ!」
戦場に響く男の怒号。否、聞こえるのは其れだけではない。
剣の擦れ合う音、爆弾と思しき物が爆発する音。其れに悲鳴、咆哮が重なって奏でられるのは絶叫の狂騒曲。
「第一部隊やられました!」
「第三も同じく!」
「…!!な、何故だッ!相手はたったの一人なはずだろう!?くそ、あともう一押し…」
そう、戦況は此方の有利にある。たとえ相手が圧倒的力を持っているとしても圧倒的数の力で押せば問題はあるまい。───今は。
「魔力砲充填完了しました!」
「発射!」
濃密な魔力が標的に向かって注がれる。男は「殺った」とほくそ笑んだ。
相手のHPはもうそんなに残っていなかった、これですべてが終わ────────。
「副隊長!砲撃が、砲撃がッ!」
「砲撃がどうしたというんだ…!!」
嫌な予感はしていた。旗を立てたと言い換えるべきか。
報告をしに来た男の声は焦燥を帯びている。
「すべて防がれました…!!」
防がれた?ありえない…彼奴にそんな余力は残っているはずは……
「そ、それが────────────」
そう告げた兵士の声を片耳に、土煙の向こうで揺らめく人影を睨んだ。
◆
朝五時。登校にはまだだいぶ時間があるというのにも関わらず、一人の生徒が家を発った。
そして────────。
◆
「色白、黒髪、長髪、おとなしい、中性的………………女と間違えられる筈だわ」
「五月蠅い、髪切るから。あ、言っとくけどお前みたいなプリン頭には絶対ならない死んでもなりたくないでーす」
”女”と言われた男子は前髪で隠れていない方の眼で隣のプリン天然パーマ男子を睨む。
するとプリン男子はむっ、とした様子で反論する。
「プリンを馬鹿にすんなよ!?プリンは世界一イケてる髪型なんだよっ!」
「知らねー。今俺忙しいから」
「ヤダ塩対応!」
黒髪男子、畠中緋奈稀は、冷たくあしらい、手元のオンラインゲームに意識を集中させる。むぅ、と唇を尖らせていた男子は「あ」と声を漏らすと続けた。
「そーいえば、例のゲーム今日発売しただろ?買うか?買うよなっ!」
「甘い、俺はもう買ってある。朝五時に起きて買いに行った。」
当たり前のように話す緋奈稀に髙城 卓海は呆れたように「流石」と笑った。
◆
「準備完了っと」
真新しい箱からヘッドセットとソフトを取り出し素早くソフトを端末に挿入。端末を起動。ブォオオオオオオンという低い駆動音を鳴らしながら光が暗い部屋を照らす。
───三秒だっけ?数えるの。
VRゲームを開始するための条件。深く息を吸って目を閉じる。息を吐きながら三秒。
1、2、3。
「────さぁ、始めよう」