これが正しい現実
今回で最終回です。
キーン、コーン、カーン、コーン。
「よっしゃーー! 授業終わったーー! さっさと帰るぞー!」
普段通りだ。
いつものヒロちゃんの声を聞いて安心する。
授業はいつものように、聞いていたりいなかったり。
眠いと思って、寝てしまったりしまわなかったり。
いや、ほとんど寝ていたなぁ……。
こんな感じでまったくいつもと同じ感じになっていた。
一週間前にあんなことになっていたとは思えないほどに。
「おい! そんなとこでボーっとしてないで、さっさと帰るぞー!」
「へーい、へい」
「元気出せよー。俺が戻って来たんだからさ」
「いや。別に元気だよ。いつもこんな感じの返事だろ」
「はっはっはー。それもそうだったな」
笑い時計が下校をお知らせしている。
こいつはレス病が流行っていた時もそうだったけど、まったく変わらないなぁ。
俺は一息をついた。そしていつものようにヒロちゃんと一緒に帰ることにした。
まだ夕暮れにはなっていなかった。
だから見上げれば青空が広がっていた。
そういえば最近ずっと晴れていたなとか思いつつ、家路に向かって二人で歩いた。
ずっと晴れていたのに、これほどきれいな青空を見るのは本当に久しぶりだ。
夕方になりかけていたので、その青空も少しだけオレンジ色に染まっているところもあった。
これほど青空ってきれいだったのかな?
そんなことを思いつつ、こうした色を見るたびに、本当に元に戻ったということを実感する。
例えるならタイムスリップから戻ってきた感覚だ。もちろんしたことはないけど……。
「外の空気はやっぱりおいしいなぁ」
ヒロちゃんの表情と発言が、俺の気持ちをそのまま表している。
「こういうなんでもない日が、一番幸せだよなぁ」
そう、その通りだ。
「明日もみんなで元気に過ごしたいよなぁ」
本当に、その通りだ。
「でももう一回死んで、みんなを驚かせたいなぁ」
それは違う。俺は仮であっても断じて死にたくはない。
「な、お前もそう思うだろ」
「いや、思わないよ!」
「なーんだよ。残念」
「なにが残念なんだよ! 俺が死んだら悲しむのはお前だろ!」
「まぁ、そうだな。やっぱりいなくなるのは寂しいよな」
今回の発言については少し反省したらしい。少しは自分が死んだことで、いろいろと学んだのだろうか?
「とにかくお前は元気で居続けろよ。死んだらみんなが悲しむんだからな」
元死人が言うので、ものすごく説得力がある。
「わかってるよ。お前みたいにはならねぇから安心しろ」
「ほう。言うじゃねーか。ははは」
こういう時に笑えるやつの能天気さは、羨ましくも感じる。
「お前にはかわいい妹がいるんだから、お兄ちゃんらしくしてなくちゃな」
「えっ?」
ヒロちゃんは普通の会話のテンションで言ったのだろうが、俺はハッとした。
そうだった。俺はお兄ちゃんだった。
兄を別の言い方でお兄ちゃんと言うんだった。
ということはもしかして――。
俺はドキドキしながらヒロちゃんと一緒に帰った。
「それじゃ、また明日な」
俺はいつものように帰ろうとして、ヒロちゃんに背を向けた。
「ちょっと待てよ」
「うん?」
振り返った瞬間にはヒロちゃんが目の前に迫って来ていた。
その距離と勢いからして、とても避けられる状況ではなかった。
ギューーー!
朝と同じくらいの強さで抱きしめてくる。
だから苦しいんだってば!
「ありがとう。我が友よ。これからもよろしくな」
「な、何さ。改まっちゃって」
「やっぱり持つべきものは友だということを再確認したんだよ」
「なんだそりゃ」
そう思いながら俺も笑っている。
「じゃあな。我が友よ。また希望のある明日に会おうぞ」
「何キャラだよ、それ」
「じゃ、またな」
「フッ、またな」
俺はヒロちゃんと別れた。
まだ抱きしめられていた所は、しわがついたままだった。
ヒロちゃんと別れてから五分ほどして、俺は家に着いた。
それにしても家の外観をちゃんと見るのも、久しぶりだ。
ああいうことがあると、確認できることも多いのかな。
ガチャッ。
「ただいまぁ」
「あら、おかえり~」
ばあちゃんがいつものように出迎えてくれる。
「まよは? まよはどうした?」
「うん? 元気だけど、それがどうしたんだい?」
「えっ……? あっ!」
そうだった。もう摩夕はいつもどおりに戻ったんだった。
ただもう出迎えてはもらえなくなるのか。
「とりあえず二階に行ってるわ」
「うん。わかったよぉ」
ばあちゃんはこの一週間、ほとんどいつも通りで一番変わってなかった気がするなぁ。
こういう微動だにしないところも、またすごいと実感する。
ただ摩夕がレス病にかかった直後、大声を出したのは驚いたけど。
「またお茶を入れてあげるから、暇だったら下りておいでぇ」
「うん。ありがとう」
俺はそう言いながら、そそくさと二階へと上がっていった。
二階に着いた。ここには俺と摩夕の部屋がある。
俺が二階に行ったのは、自分の部屋に入りたかったからではない。
摩夕にいろいろと確認をしたかったのだ。
昨日俺に言った「ほひいひゃん」の意味って……。
正直それが俺の予想通りであるなら、ぜひとも真っすぐに言われてみたい。
もちろん歯がある状態で、はっきりと聞きたい。
そう思った俺は、摩夕の部屋の前で立っていた。
やっぱり直接聞くのは恥ずかしくも感じるし、それだけ聞くのは何かおかしい感じがする。
せめて体調を聞いてから、その流れで持って行く形で行こうかな。
そうすれば一番自然体で……。
ガチャッ!
「うわ!」
いきなりドアが開いて、目の前に摩夕が現れた。完全に不意打ちだ。
「あっ、えっ、えっ、えっと、ま、まよ」
「……何?」
摩夕は不審者を見るような目で見ている。えっ、昨日と全然違うじゃん。
「た、た、体調は大丈夫?」
「別に。平気だけど」
さらに不審者とみなしているようである。
「あ、あの、昨日さ、なんて……」
「とにかく邪魔だからどいてくんない?」
摩夕はそう言い残すと、さっさと一階に下りて行ってしまった。
あれ? えっ? どうして?
俺はしばらく立ち尽くすことしか出来なかった。
こうして完全に元の世界に戻ったのだった。
失われた景色は、すべて取り戻せた。
失われた友は、見事に生き返って元気な姿を見せてくれた。
失われた妹の歯は、元に戻って再びコミュニケーションがとれるようになった。
しかし……。
俺は妹とのほのぼのした癒しの日々を、再び失ったのだった。
皆さま、今までご覧いただきありがとうございました。
感想や誤字脱字の報告もお待ちしております。
今後も作品をどんどん作っていこうと思いますので、よろしくお願いします。
これからもよろしくお願いします。
p.s.
再修正いたしました。よろしくお願いします。




