表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レス(失われるということ)  作者: サ野 アさよ
1/21

これが今の普通

新規投稿です。よろしくお願いします。

6月18日、本日修正しました。

 キーン、コーン、カーン、コーン。




「よっしゃーー! 授業終わったーー! さっさと帰るぞー!」


 相変わらずの元気な声で俺のことを誘うのは、高校の同級生のヒロちゃん。

 ヒロちゃんというあだ名は、寛茂ひろしげという名前から取ったものだ。


「はいはい。そんなに言わなくても一緒に帰りますよ」


 そんなヒロちゃんに向かって、俺は適当に返事をする。


「おいおい。そんな言い方するなよー。元気出そうぜー」

「お前みたいにいつも元気でいるやつは、他にいねーよ」

「でもとっても大切なことだろ。元気があれば何でも出来る。ってな!」

「お前はそればっかりだな。っていうか似てねーよ」

「そんな~。結構しゃくれてたと思うぜー」

「ガスマスク付けてるんだから、わかるわけないだろ」

「それもそうだな。ははははは」


 ヒロちゃんの大笑いは毎日のように見ているので、日課のようにも感じる。

 とりわけ授業が終わった時にこういう顔をよくしてくれる。

 これじゃ笑い時計だな。

 これで今日の授業が終わったのがわかるからね。


「さぁさぁさぁ、早く帰ろうぜー」

「そうだな」


 俺は苦笑いのような不細工な笑顔を見せて、学校を出た。



 帰り道。外はよく晴れているようだ。

 おそらく今は、午後三時頃だろうか。

 外の夕焼けがとてもきれいそうで、夕日も眩しく輝いている感じがする。

 外の空気も久しぶりに吸ってみたいなぁ。


「外の空気を久しぶりに吸ってみたいなぁ」


 ヒロちゃん。それは今、俺が言おうとした。


「な、お前もそう思うだろ。最近はこればっかりつけてるから変な感じがするよ」


 ヒロちゃんはそう言って、自分の頭を軽く叩く。

 その手も自分の髪には触ることが出来ず、ガスマスクの革の音だけがかすかに聞こえる。


「そんなこと言ってもしょうがないだろ。決まりになってるんだから」

「そうは言ってもよー」


 最近はこんな会話しかしていない気がする。

 よく話すやつとの話は、マンネリ化しやすいのだろうなぁ。



 そんなことをしゃべっているうちに、いつものT字路についた。


「じゃあな。明日もまた元気に会おうぜー」

「へーい、へい。じゃあな、ヒロちゃん」


 こうして俺はヒロちゃんと別れた。

 毎日のことではあるが、この日はいつもよりも少し強めに絡まれた。

 すっげー、疲れた……。

 ここから俺の家までは五分ほど。歩く道は畑や田園で、ただただ真っすぐ進んでいけば家に着く。

 ただやっぱり変な感じがする。

 ガスマスクのせいで視界が狭まり、それに着いているゴーグルのせいで、黄昏色に見えるからというのが理由だろう。

 実ってきた稲穂の色も、俺から見れば枯れているように見える。

 もちろんそんなことはないのだが。

 ビニールハウスの中で熟したトマトも、少し腐っているように見える。

 もちろんそんなことはないのだが。



 そんな不思議な風景を見ながら歩いていると、自分の家に着いた。


「ただいまぁ」


 いつものテンションで玄関のドアを開ける。


「あ~らぁ。おかえりなさい」


 ゆっくりとした口調で話してきたのは、ばあちゃんだ。

 この笑顔を見ると、少しだけ癒された気分にもなる。


「ばあちゃん、ただいま」


 俺はいつもの挨拶をした後で、最近定番になっているあのことを聞いてみる。


「まよは? まよはどうした?」


 摩夕まよとは妹のことだ。


「今日も元気だよ。呼んで来てあげようか」


 そこまでしなくてもいいけどと思ったが、それを言う前にばあちゃんは摩夕を呼びに行った。


「まよー。まぁよー。お兄ちゃんが帰ってきたわよ」


 その声を聞いた直後、二階の方からこちらに向かって駆けてくる音が聞こえた。


「があーー」


 ものすごい声とスピードである。

 そしてそれに負けないほどの勢いのある声である。


「ほふぁふぇひー(おかえりー)」


 摩夕が俺を元気よく迎えてくれた。変な感じがする。


「ただいま。どうだ、体調は?」


 俺は一昨日からこのことをずっと聞いている。


「ふぁいほおふはふぉ。へぇんひぃ、へぇんひぃ(大丈夫だよ。元気、元気)」


 摩夕はピョンピョン飛び跳ねながら、元気よく答えている。


「なら、良かった。とりあえずこれ以上体調を崩さないようにしろよ」

「はぁーい(はーい)」


 摩夕は右手を元気よく上げて、返事をした。

 俺は安どの表情を浮かべる。元気そうで良かったなぁ。

 それを見て摩夕はさらににっこりとする。すごくほっこりとする。

 こういう感覚になるのも、本当に久しぶりだ。

 よくラノベとかで、かわいい妹に癒される兄という場面を見たことがあるけれど、そんなの架空の話だとばかり思っていた。

 しかし結論はそうではなかったのだ。

 現状、俺は妹に好かれている。

 すごく嬉しい。とても嬉しいのだ。


 そう。彼女が普通であれば――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ