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五十三.日蘭連合艦隊の滅亡

 1866年6月25日、ボスニア湾出口付近で立ち往生の日蘭連合艦隊にようやく無線が繋がった、だが喜びは束の間 向かうオーランド海の隘路には既にロシア軍が幾重にも機雷を敷設したという、これにより連合艦隊22艦はボスニア湾で袋のネズミ状態にあることがしれたのだ。


だが幸い機雷と言ってもこの時代は旧式な触発式の係維機雷で、前世の高性能な沈底式感応機雷をロシア軍が有するはこの時代より70年も後である、しかしながらこの艦隊には機雷掃海艇など1艦もなく代わりとなる駆逐艦2艦は生き残っているものの創痍酷く航行するのがやっとの状態だ。


実質的掃海とは艦隊より数キロ先に1組2隻の掃海艇を突出させ、ワイヤー(掃海索)を曳航しながら機雷の係維索を引っ掛けることで機雷を危険のない海域に移動させたり、あるいは掃海索に取り付けたカッターで係維索を切断し機雷缶体を浮上させることで無力化するのであるが…。


機雷爆発を考慮、またワイヤーを曳航する2艦の繋留分を入れるとワイヤーロープは最低700mほどは必要となる、しかし現在艦隊でストックする掃海索に使えそうな細径ワイヤーロープは200m長さの径30mmロープが3本有るのみで後は曳航用の80mm以上のものばかりであった。


急遽30mmのワイヤーロープ3本をショートスプライスに繋ぐとともに、全艦オーランド海の隘路に向け15ノットの速度で航行を始めた。


やがて氷に敷き詰められた海を脱すると海上に漂う氷は減少していった、午後4時オーランド海の隘路付近に全艦停船すると揚陸艦よりエア・クッション上陸艇2艇がワイヤーロープを積載し滑り降りた。


当初駆逐艦を掃海艇に見立てる予定であったが海面上を走るエア・クッション上陸艇の方がよほど安全との見解から急遽変更したのだ。


2艇は互いにロープを引き合いながら前方へと走り、2艇の間隔は500m近く離れると瞬く間に遠ざかっていった、後方より速度が速すぎるとの連絡があったが機雷を熟知しない操舵手は速度高低の認識は薄かった。


上陸艇が艦隊から離れること3km程に至ったとき突如2艇の間に大爆発が起こった、機雷数発が誘爆したのだ。


直ぐさま上陸艇から無線が入った。

「海中に機雷係維索が無数に走っており夥しい機雷数を認める、当方の掃海索は爆発により2ヶ所で切断、200m分が海に沈下 よってこれより掃海索接続のため揚陸艦に帰投する」


機雷掃海など経験の無いエア・クッション上陸艇の乗組員等である、機雷係維索の引き速度を誤り衝撃で機雷どうしがぶつかり爆破したものであろうと推測された。


大島准将は頭を抱えた、ワイヤーロープの予備はもう無いのだ 繋ぐと言っても200m分差し引けば400mとなる、これでは短過ぎ先と同様の誘爆を生じさせれば上陸艇にも被害が及ぶ。


直ぐさま旗艦長門に各鑑の士官等が招集された、掃海対策会議の為だ。


「掃海索のワイヤーロープが切断されたことは周知で御座ろう、これを繋いだとて400mしかない、これでは機雷掃海など全く与り知らぬ者等が再び行使するは危険に過ぎる、諸君等 何か妙案は無いものか」

大島准将は集まった士官等の顔を一人づつ見て言った。


「どうで御座ろう、敵の機雷係維索を使うという手は、それならば1000m以上はあろう、係維索より機雷さえを外せば立派な掃海索となろう」

塚崎大佐は言ってから皆の反応を窺った。


「機雷を知らぬ我々が機雷係維索から無事に機雷を外すことなど出来ようか、一つ間違えば爆発…そのような危険な任務を兵等に押し付けるは…。


それと係維索には何個の機雷が接続しているやら、10mピッチとしても1000mで100個にもなろう、これを慎重に切り離すは1日では無理というもの。


また係維索から機雷を切り離すことが出来ても再び爆発で切れればまた同様な作業を繰り返さねばならぬ。


現実問題、上陸艇の兵等の報告では見渡す限り係維索が引かれ機雷が沈んでいるのを認めたと言うではないか、そのような悠長な事をしていたら…とても今月中のバルチスキー入港は叶わぬ事」言ってから岩田大佐の顔は苦渋に曇った。


「…………」


岩田大佐の弁で皆は消沈し上を向いたり下を向いたり、それぞれ案出に耽りだした。


「こんなことを言うとお叱りを受けるやもしれませぬが…」

静寂を破り揚陸艦の士官 大野中佐が挙手し声を発した。


「現存する駆逐艦2艦は応急処置で今や浮いているのがやっとの状況であります、この2鑑を以前の姿に修復するは佐世保か呉のドックでしか不可能事、しかるにあの状態で喜望峰を回りインド洋の荒波を越えることなど出来ましょうや。


残念ながら不可に御座る、であるならば最後のご奉公としてこの2鑑を並列させ夥しい機雷海域に突っ込ませる案は如何で御座ろうか」


この意見に一同眼を剥いた、何と大胆な案であろう 陛下よりお預かりした駆逐艦2艦を戦わずしてむざむざ敵の機雷群に突っ込ませ沈没させるなど帝国軍人が考えることではないからだ。


一同目を剥いたまま座がしらけた如く再び静寂に包まれる、静寂から2分 大島准将が呟くように語り出す。


「大野中佐の意見は大胆に過ぎるが…あの2艦はドーバー港に行き着くことさえ叶わぬほど痛んでおる、むざむざバルト海に置き去りにするのなら最後のご奉公として残る20艦と三万二千の将兵を助けるべく犠牲となるはやむを得ぬ事で御座ろう、一同この案に決するが如何」


大島准将の結論に一同目を瞑ったまま静かに頷き始めた。


「ではこの案に決する、一同ご苦労に御座った 時間は現在7時で辺りは暗くなってきた、今宵は夜を徹し整備班は駆逐艦2艦の舳先に機雷係維索を引っかけるべくH形鋼を溶接せよ、吃水から海中へは10mも延ばせば良いであろう、では解散する」


8時、整備班50人が選抜され夜を徹し 機雷係維索を引っ掛けやすくするためH形鋼に幾本もの雑材を針状に溶接し2鑑の舳先に溶接していった。



 6月26日午前3時、霧に煙ったケーニヒスベルグの空軍基地では3日後に控えたロシアとの開戦を前に戦略爆撃機32機の爆弾搭載は完了し滑走路横に待機状態に駐機されていた。


その頃日蘭合同陸軍第一軍団20万は開戦を前にケーニヒスベルグ北東200kmのマジェイケイとシャウレイにそれぞれ10万の兵を侵攻させ、開戦と同時にロシア支配下のラトビアの首都リガを攻めるべく待機を着々と進めていた。


当時リガはロシアのモスクワやサンクトペテルブルクに次ぐ第3の都市と言われるほど大都市であった。


リガは1581年ポーランド・リトアニア共和国の支配を受け、1621年からはグスタフ2世アドルフのスウェーデン王国の支配を受ける、次いで18世紀に大北方戦争が起こるとロシアのピョートル1世がリガに侵攻、スウェーデン時代は終焉を迎える。


そしてニスタット条約でリガはロシアに割譲された、このようにしてラトビアの首都リガは16世紀から19世紀にわたり長く近隣強国の支配を受けてきた、しかしこの時代 ラトビアの民族主義が覚醒し 独立の機運は高まりつつあった。


ゆえに日蘭合同軍のリガ侵攻の趣旨は、ラトビアをロシアから解放する戦いであると前面に打ち出していた、それはリガ攻略時ラトビア軍との交戦を避けるためで、ここに長く釘付けされるはサンクトペテルブルグ侵攻に支障があるために他ならない。


6月26日午前5時、ケーニヒスベルグ(カリーニングラード)の第一空軍基地が突如砲撃に見舞われた、敵はロシアのバルト艦隊であった 敵艦隊は夜陰に乗じバルチースクの隘路を抜けビスワ湖に侵入、バルチスキーの港に上陸したものと観測された。


これはまさかの奇襲というより、日蘭連合艦隊を機雷でオーランド海に封じ込めた敵の作戦勝ちと言えようか。

敵は空軍基地南西5kmの位置よりの奇襲砲火を浴びせたのだ、陸に16門 海上8kmから7艦の艦載砲72門の大口径榴弾砲が火を噴いた。


爆発音に基地の総員が叩き起こされた、しかし基地を守る兵は航空兵ら僅か400と、2km離れた陸軍第一軍団の幕舎におよそ1千の残留兵を残すのみだ。


航空兵等は次々に戦略爆撃機に飛び乗りエンジンを始動するが滑走路に出るまでには時間が掛かりすぎた、砲弾の直撃で1機が爆発を起こすと満載爆弾が誘爆し周囲2~3機も吹っ飛ばされた。


急造りの空軍基地で狭いスペースに爆弾満載の32機は駐機間隙が余りにもなかった、大型戦略爆撃機32機の殆どは滑走路に出る前に大破し炎上したのだ。

6月20日予定通り日蘭連合艦隊がバルチスキーに入港さえしていれば…港からの敵の奇襲など有り得ぬ話であったものを…



 同日午前5時、第一空軍基地の全滅を知らない日蘭連合艦隊は、駆逐艦2鑑を隘路中央に舳先を向け50mの横間隔を置いて待機させた。


午前5時10分、無線で発進せよの命令が発せられる、操舵手は機関をフルスロットルに倒し舵が鎖で固く固定されているのを確認すると操舵手と機関士等は艦最後尾まで走り、後続するエアクッション上陸艇のエアマットに飛び降りた。


操舵手不在の2鑑は次第に速度を上げ昨日爆発が起こった海域へと突っ込んでいく。


その時「ドドーン」遠雷のような砲音が左斜め方向より轟いた、砲音はオーランド諸島西端の小島辺りと思われる、発進した駆逐艦廻りから激しい水柱が立ち上がり、次いで待機する20艦周辺にも同様の水柱が立ち上がった。


距離およそ8km、日本軍将兵等は一様にロシア軍が誇るペクサン砲改良型野戦砲の長射程と命中精度に舌を巻いた、この命中精度は3年前とは比較にならない精度である、やはり旋条砲出現によるものであろう。


「総員配置に付け!」艦上スピーカーが喧しく鳴り響いた。

しかし兵等は殆ど持ち場を失っており使える砲塔は3割に過ぎない、それでも定員オーバーなど与り知らぬとばかり一つの砲塔に定員の2倍の砲兵が潜り込み、後装の大口径連装砲をオーランド諸島西端の小島に回向していく。


大口径連装砲の射撃振動が艦を激しく揺らす、しかし大音響などものともせず砲兵は次から次へと砲を撃ち出していく、弾は豊富に有るのだ 故に自動装填ののろさに砲兵達は苛立った。


日蘭連合艦隊の応酬に敵もがむしゃらに撃って出た、敵の備える砲は一体どれほどあるのかと思えるほどの乱打である、敵の砲弾は次第に命中精度が上がっていく、敵は地盤の安定した陸上からの攻撃である、こちらは海上且つ船軸直角方向への射撃だ 艦のローリング揺れに着弾が遠近にばらつくのはやむを得ない。


敵の正確な着弾は次々と味方艦に直撃し破壊の度合いは数分で深刻なものになっていった、一刻も早く艦の発進を図らねばならない。

その時、前方4km沖に大爆発が起こった、それは駆逐艦の1km後方で起こったのだ。

駆逐艦が正確に機雷係維索を引っ掛け進んだため機雷同士の衝突が起こした爆発と観測された。


「全艦駆逐艦の後に続け!」艦上スピーカーが叫んだ。


全艦の機関兵は蒸気バルブをフルスロットルに叩きこんだ、艦が動き出すとともに着弾音が一瞬消えた、しかし暫くすると再び猛烈な着弾に艦が揺らいだ。


巡洋艦1艦が猛烈な爆発と共に停止した、次ぎに輸送艦3艦が同様の爆発を起こす、以降空母・揚陸艦が次々に炎に包まれていく。


艦隊は炎を吹き上げながらもオーランド海の隘路を突き抜けた、しかし前方の駆逐艦2艦がいつの間にか1艦になっているのを水柱と煙の合間より見えた、その1艦も黒煙を噴き上げ今にも後部より海に没する気配なのだ。


それは機雷によるものなのか敵の榴弾砲によるものかは分からねど、せっかく引っ掛けた機雷群は外れこの海域に漂っている証明ではないか。


先頭を進む旗艦長門で味方艦の損傷報告に忙殺されていた大島中将は、機雷を牽引する駆逐艦沈没の報に震撼する、取りこぼした機雷が浮遊する海域に今まさに突っ込もうとしているのだ。


後方で大音響が轟いた、振り返ると戦艦扶桑が大きく右に傾くのが見える、主砲の火薬に誘爆したものであろう、爆発は次々に後方へと走り抜け艦中央部が数十センチ浮き上がるほどの大爆発であった。


その時、戦艦長門が大きく跳ね上がった、立って指揮していた大島中将は床に投げ出されるほどである。

機雷数発が右底部で爆発したのだ、長門は艦体中央部の底から側部に至る20数メートルを削ぎ取られ一気に海水が浸入、艦は大きく右に倒れ機関が止まった。


停船した長門の左側胴を激しく削りながら後続の戦艦加賀が満身創痍に煙を噴き上げ突っ込んできた、重なった戦艦2鑑にロシア軍の榴弾は容赦なく直撃していく、この時 日蘭連合艦隊の応射は既に途絶えていた。



 午前6時、大本営にケーニヒスベルグ空軍基地から緊急無線が打電された。

基地所属の戦略爆撃機32機の殆どが大破炎上、現在バルチスキーに上陸したロシア軍奇襲部隊およそ二千が基地に向けて殺到中、至急ラトビアのシャウレーに侵攻中の第一軍団の一部を戻して欲しいとの要請である。


次いで6時半、日蘭連合艦隊より艦隊全滅の報が伝わった。

相次いでのロシア侵攻部隊からの悲報に大本営は揺れた、直ぐさま対策会議が開かれると共にラトビアのシャウレーに駐屯中の第一軍団から機動部隊五千を選抜しケーニヒスベルグ空軍基地へ緊急派兵させるとともに、ポーランドのワルシャワ空軍基地へ戦闘機及び爆撃機の発進を促した。


ワルシャワ空軍基地から戦闘機20機・爆撃機20機がスクランブル発進し、それぞれケーニヒスベルグとオーランド海へ飛び立っていった。


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