第3章 7-8 根源を支配するもの
スヴァロギッチはそれでも、激しいゾンの攻撃の隙をついてなんとか最後の一撃で炎の正拳をゾンの顔めがけてお見舞いしたが、ゾンは意にも介さなかった。さらに、何度もゾンの顔面を殴りつけるも、何の効果もない。やがていい加減にしろと云わんばかりに、ゾンが巨大な口を瞬時に開けてその拳をガッシと咬んだ。そのまま、バギバキィ! と咬み砕いてしまう。
スヴァロギッチが凄まじい悲鳴をあげ、吼える。ゾンが暗黒の炎を吐いて火の魔神の最後の抵抗も拘束し、その拳をかみ砕いた右腕を二本の腕で掴むや、豪快にひねって肘より引きちぎってしまった。さらに、豪快に蹴りを入れ、ぶっ飛ばす。スヴァロギッチがグラウンドのフェンスを突き破ってまた住宅街へつっこむかと思いきや、瞬間移動したゾンがその後ろでそれを天空へ向かって回し蹴りをお見舞いし、さらに四枚翼を広げて瞬間的にその火の魔神のさらに上空へ出現すると一回転して得意の膝落としで魔神をグラウンドへ叩きつけた。
ズガアアッ!! 爆風と炎の竜巻がおき、スヴァロギッチもその勢いを削がれる。ゾンは再び恐ろしい地獄の雄叫びをあげ、横たわる火神へ容赦も呵責も無い攻撃を加えた。毟り取り、咬みちぎり、抉り、引き裂き、切断した。たちまち火の魔神は全身をズダズダに引き裂かれ、実体も幽体も削り取られて消失していった。
「ギャアーッハハッハアアア!! やろう、思い知ったか、このジジイ!!」
ゾンが白く濁った眼をどす黒い赤へ輝かせて、スヴァロギッチを屠ってゆく。
「やろう、これでもか、これでもか!! このオレに楯突こうなんざ、三万年はええ!!」
「ゾン、センパイを助けて!!」
山桜桃子の声がしたが、ゾンは無視した。魔神の憑いた人間など、助けたところでどうせすぐ死ぬ。
「ゾン!!」
それでも……それでも、死んでしまうとしても、死ぬまで、家族と過ごすことができる。
山桜桃子は懸命に叫んだ。
ゾンの攻撃は止まらない。山桜桃子の眼が再び藍翠に光った。
「このドアホゾンビ!! あの根源をぶっ壊すぞ!!」
山桜桃子がフェンスを蹴りつけ、叫んだ。ゾンの動きが、ビタリと止まった。
そして、ゆっくりと山桜桃子を向いた。常人であればその殺気と障気で、それこそ即死か寿命を縮めかねないほどだ。
「……て……めええぇええ……!!」
「やんのか、この役立たずのウスノロ!!」
山桜桃子がもう一度、フェンスを蹴りつける。
山桜桃子とゾンの視線が、真正面からぶつかり合った。スヴェータは、本当に火花が散ったように見えた。金縛りにあったかのように全身に悪寒が走るほどの恐怖で凍りつく。なんという緊張感か。
「……ケッ……!!」
ゾンは最後に、息も絶え絶えのスヴァロギッチの胸当ての中央……雄牛の頭骨のレリーフめがけて上の右手を手刀のようにして突き刺し、心臓を抉るような動きで何かを取り出した。そして、そっとその掌を開くと、気絶した中川胡桃がいた。
少しずつ、火の魔神が消えてゆく。
ゾンは天へ向かって轟々と吼えだした。その声の届く限りの、火災が消えた。
校舎の中ではその声を聴いた生徒や教諭たちが何人も恐怖の余り失神し、あるいは気分が悪くなって倒れた。
だが、似衣奈だけが、校舎の外に出て壁へ手を着け、グラウンドの中央で延々と吼え続けるゾンをジッと見つめていた。
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「代々木大火」は、十日後の時点で判明しただけでも死者三十二名、行方不明者十二名、負傷者二百三十七名という土蜘蛛事件としては前例のない未曾有の大被害を出し、国内はもちろん世界中でいろいろ報道され、臨時国会でもさっそく大問題として取り上げられ始めた。場合によっては、各省庁にまたがって設置されている土蜘蛛対策の部署が、どこかへ統一される可能性もあった。




