第3章 7-5 代々木大火
それらがまたも住宅街へつっこみ、火柱を上げる。
「なにやってんだああ、あいつらああ!!」
山桜桃子の感情が爆発する。
同時多発的に発生したドモヴォーイの被害へ対処していた千哉や協会の狩り蜂たちも、ようやくその気配を感じ、中学校の方角を観た。だが、ドモヴォーイは異様に凶暴化しており、凄腕の免許たちでも対処に手こずっていた。まるでロケットランチャーめいて白煙をあげながら突進してき、爆発するのだ。手に負えぬ。
「自衛隊呼んで、自衛隊!!」
最初のタンクローリー事故現場で、複数の凶悪化したドモヴォ-イを相手にしていた千哉と警視庁の特現課刑事であったが、遠目に見えた火神本体とゾンと思わしき「怪獣」に、そう叫んだ。戦いに集中し気づかなかったが、すさまじい数の黒煙が代々木界隈に立ち上って空を覆っている。サイレンやヘリの音、逃げ惑う人々の悲鳴や怒号で、既に収拾がつかぬ。後に「代々木大火」と呼ばれる、激甚土蜘蛛災害だった。
「都庁へ連絡しろ!」
「渋谷区が先だ!」
「都庁のほうが近い!」
面倒なことに、自衛隊の出動要請は都知事から出る。区でも都でも誰でもいいので、まず都の職員がこの現場を確認しないといけない。
「都庁からもこの光景が見えてるはず!」
だが、普通の防災対策部署では土蜘蛛の発生現場へ人を出せない。狩り蜂が必要だ。職員を出すにも、土蜘蛛を排除しなくてはならない。
(だから都庁にも土蜘蛛の専門部署を置けと進言してるのに!)
心中で悪態をつきつつ、千哉が、マサへ一気にケリをつけるよう命ずる。とにかく、この土蜘蛛に相当するロシアの小悪魔どもを全排除しなくてはどうにもならぬ。
「よろしいので?」
マサが、長袖を口元へあてて流し目をたれるいつものポーズで千哉を見つめる。
「とっとと片づけて、山桜桃子の加勢に行くよ!」
「……応!」
バサッと両袖を広げるようにして両手を構え、マサの……本庄正宗の全身が青白い曜変の光を放つ。
スヴァロギッチは組み伏せられてから異様な底力を発揮し、灼熱を発しながら、またもゾンを押し戻し始めた。ゾンは、この姿では火も冷気もほぼ無敵というか無効に近い耐性をもっているため、熱攻撃がどうではない。とにかく凄まじい力なのだ。純粋にパワー勝負だった。
「……このジジイ、どっからこんな力を出しやがる!」
片や、天限解除が行えたとしても、ゾンはどうしても代替魔力だった。具体的に云うと持久力が無い。時間を稼がれると、第二天限まで戻ってしまう。
ドオッ…! ゾンの分厚い腹部装甲鎧へ太い炎の足をこじ入れ、一気に蹴りつけたので、ゾンが蹴り飛ばされて宙を舞い、仰向けに住宅地へひっくり返ってしまった。そこへ起き上がる間もなく今度は逆にスヴァロギッチが跳びかかり、馬乗りとなって剣の柄で遮二無二ゾンの顔を殴りつけた。牙が、一本とれて飛んだ。
「ゾン!!」
フェンスを叩き、踵を返して山桜桃子が走り出す! スヴェータが驚いてそれを止めた。
「……放せ!」
「狩り蜂、行っても意味ナイ! わかるでしょ!」
「んんッ……!」
確かに。山桜桃子が近づいたからとて、ゾンのパワーが上がるわけではない。
「ゴステトラを信じて……! 自分のゴステトラを。戦うのはゾンだけど、ゾンを遣うのはアナタでしょ!?」
山桜桃子がまたフェンス際まで戻る。「遣う」といっても、どうすればよいのかまるで分からない。今まで、ただわめくだけだった。わめけば、ゾンが勝手に動いた。動いてくれた。いま、自分は何をすれば!?




