第3章 4-3 火柱の正体
「えっ、なに? お手伝いさんがあんなにいるのお!?」
その日は四人が出迎えたので、似衣奈はどぎまぎして頬をあからめた。
「バ……ひいばあちゃんの介護も兼ねてるの! 看護士さんだっているんだから」
「ひいおばあちゃんて、要介護者なの?」
「難しい言葉しってんのね」
「うちのおじいちゃんもそうだから……要介護いくつ?」
めちゃくちゃ元気である。
「いやその……なんかあったときのために、ほら。あと、家事をしてもらうのに」
「ああ……そっか、ゆすらは、おうちが調布かどっかだっけ?」
「うん……まあ、まあ、うん……」
あまり触れられたくないのがよく分かったので、似衣奈はそれ以上追及しなかった。ふだんあれだけ空気を読まないのに、どういうことかと山桜桃子は不思議だった、実は、ふだんは読まないふりをしているとか……。
そうだとしたら、似衣奈の見方を変えなくてはならない。が、つき合い方を変えるつもりはなかった。そういう人間は好きだったから。
二人は帰宅途上と同じくしょうもない話やスマホのゲームで盛り上がり、やがて午後五時半ころ、
「お友達は、そろそろ帰ったほうがよいのでは? 中一があまり遅くまで出歩かないほうがいいですよ」
ドアをノックして誰が入ってくるかと思ったら、眞が顔をのぞかせてそう云った。
「来てたの!?」
「道場に所用がありまして」
似衣奈もスマホを見て、
「たしかに、そろそろ帰らなきゃあ。ねえ、また送ってくれますよねえ?」
デレデレしながら眞を見つめてそう云った。
「いいですよ。自分も、もう帰りますから」
「じゃあね、ゆすら、またあした」
似衣奈がさっさと眞と共に帰ってしまい、山桜桃子は呆れて門前までそれを見送った。
(ああいうのが好みなのかな……)
よくわからんと思って戻ろうとすると、
「おい」
ゾンが幽体で出現し、ぶっきらぼうに声をかけてくる。
「なに、役立たず」
「おめえよお……」
「あんたがちゃんと仕事しないから、ロシア人なんかに出し抜かれるんでしょ!?」
「なに云ってやがる」
「千哉さんのマサちゃんがいなかったら、逃げられてたんだから」
ゾンは大きなため息と共に頭をかき、こいつ、ゴステトラ同士では「ホンジョーサン」と呼ばれているあのすかした刀野郎の実力を、これっっっぽっちも分かってねえんだろうなあ、と思いつつ、
「そんなことよりよお」
「だから、なに」
「あの、でっけえ火の柱、観たんだろ?」
山桜桃子が息をのむ。
「やっぱり、見間違いじゃないよね!?」
「ガムのねえちゃんがデンワしてくるんだから、そらそうだろ」
「大丈夫なの!? アレ!」
「わかんねえ」
山桜桃子がもう踵を返す。
「待てって……だからよ」
ゾンは幽体のまま大股でガクガク歩き、山桜桃子へ並ぶと、
「ありゃ、土蜘蛛じゃあねえ。かと云って、あのチンケな小っせえ火のおっさんでもねえぞ。もっとでけえやつが、ここいらに潜んでやがる。それが、何を考えてあんな、いまさら正体をばらすっちゅうか……わざわざ力を誇示するようなことをしでかしやがったのか……それが分からねえ」
山桜桃子が足を止めた。
「ロシアの精霊の関係ってこと?」
「ああ。だがよお、精霊っていう程度のチンケな存在じゃあねえぞ。あくまで、オレの常識の範囲内での話だけどよ」
「じゃ、なんなのよ。あんな超スゴイ霊火を出すなんて……」
「神……だろうな」




