第2章 3-4 オレのせい
廃屋が内側から音を立てて崩れる。竜化したオレは崩れた屋根の下からのっそりと出現した。ちょっと、でかすぎたかな……。
まあいいや。
そのまま瓦礫を振りまきながら、ゆっくりとユスラたちのいる広場へ足を踏み出した。オレは瓦礫と埃の中で顔饅頭の顎をおっさんごとがっしと片手で掴み、空中でこじ開けるようにして捻ってやった。ボギィ! と豪快な音がして顎が外れ、顔饅頭のよだれでベトベトのおっさんが転がり落ちる。ケガはしてねえようだ。ほら、とっととどけろや、おっさん。
「あわ……わ……わ、わ……」
動けねえのか、しちめんどくせー。
「ゾン、いま、眞のゴステトラが出るから!」
なにぃ!? 余計な事してんじゃねーよ。……と、思ったが、怨霊君がのっそりと現れて、おっさんの襟首を掴んで引きずって離れてくれたぜ。
あとはもう、饅頭なんざ敵でもねえ。
バグシャア!
そのまま片手で地面へ押し付け、押しつぶしてやった。あーあ、きたねえな。手が汚れたぜ。すぐ蒸発するけどよ。
オレはすぐさま消えてこっち側へ戻った。怨霊君もすぐに戻ったようだ。手を貸したのがバレると、ユスラの星に影響を与えるからな。ま、これくらいならいいだろ。巻きこまれた一般人の救出だからな。
「おう、わりーな。助けてもらってよう」
「…………」
なんか、うれしそうだな。顔はねえけど。
それはそうと、これで十五匹目め、と。メモメモ。次の出世はトータルで二十三匹だっけ? 意外と数があるぜ。だからって、数体分とかやるとユスラの負担もでけえし、考えどころだな。地道にやってくのが一番いいんだろうけど、ばあさんも歳だしな……早く安心してえだろう。どこの世界も王位継承は面倒だ。
んじゃ、帰るとしますかね……。あれっ、帰らねえのか。なにやってんだ。
メガネがデンワしてやがるぜ。
しばらくして、赤い光が屋根の上でクルクル回る白黒の自動馬車が何台も来て、あの衛兵の禁煙ねえちゃんが配下を引き連れて馬車から降りた。衛兵どもが現場を調べ、人質だったおっさんから話を聞き、やがて同じく赤い光の回る白い大きな自動馬車がやって来ておっさんを乗せ、おっさんは運ばれていった。
こいつら、何をチンタラやってんだか、まるでわからねー。あんな顔饅頭退治で、衛兵が出張るようなことなのか?
ユスラも疲れてしゃがみこんでるぜ。さすがに、そろそろ顕著に影響が出始めてるのかもしれねえ。やっぱ、竜化はマズったかな……。
メガネと禁煙のねえちゃんが、少し離れたところで話をしている。
「……避難はどうなってたの?」
「通常通りであれば、出動命令が出た時点で完了しているはずなんですが……」
「避難漏れ? それとも、野次馬?」
「分かりません」
「今回の避難指示は誰が?」
「家持先生かと」
「あのおっさんか……」
禁煙ねえちゃんの、ガムっつう無くならねえ妙な菓子をかむ口が速くなる。ガムじゃなく苦虫をかんでるみてえだが。
「まさかね」
「家持先生が、故意に? 犯罪です」
「そこまでして、山桜桃子を排除する?」
なにィ!? おいおい、ちょっと待て。聞き捨てならねえぞ。
「でも、家持先生は……その……」
「反籠目派の筆頭……つまり、あたしが大先生の養子に入って宗家を継ぐ案を、強硬に反対してた」
「むしろ、お嬢が来て、これで正統だと最初は喜んでいたはずですが」
「その正統のゴステトラが、アレだから気が変わったのかなあ?」
……オレのせいだってか。まじかよ。あのおっさん、最低だな。殺すか。




