第2章 2-3 表裏一体、紙一重
オレのすぐ隣にいるんだけどな。あたりまえだけど。
こいつはやばいよ。オレと同類だ。いや、ゾンビって意味じゃねえ。あんまり変わんねえかもだが……こいつは悪霊……いや、怨霊だぜ。入院してる、あのとっぽいあんちゃんはこの国の古いバケモノがゴステトラだし、こっちのメガネは怨霊だ。何を考えてやがるんだ、ばあさんは。そんな、いつ土蜘蛛に堕ちるかもわかんねえ連中をユスラのお目付というか、側近にするなんてよ……。
「…………」
それにしても暗いヤツだねえ。この国の、昔の戦士の鎧を着ているが、ボロボロだ。戦に負けて、討ち取られたんだろう。首はあるようだが、兜の下の顔が見えねえ。真っ暗だ。だけど、オレにゃ見えるぜ。魔力でな。こいつ……首をとられねえで、顔の皮を剥がされてやがる。拷問の一種だろう。処刑されたんだ。しかも、斬首でひとおもいに殺されねえで、こんな仕打ちでなぶり殺しでよう。そりゃ、怨霊にもなるぜ、ハハッ。
「おい、おめえ、名前はなんつうんだ?」
「…………」
「オレはゾンだ」
「…………」
「お互い、主持ちはつれえな。ゴステトラなんぞにされちまってよう」
「…………」
「いつ、死んだんだ?」
「…………」
「もしもーし」
「…………」
話になんねーな、こりゃ。
だが、そんなのは問題じゃねえ。
こいつは、ちょっと間違ったらあのメガネを乗っ取るぜ。メガネの秀才君も、その意味じゃあ、危うい。こんなのが憑くんだからな。ばあさんはそれをわかって、自分でスカウトしてきたんだろう。手元に置いて、監視するためにな。それに、うまく遣えば強力な狩り蜂よ。怨霊で土蜘蛛退治なんてなあ、矛盾してるようだが、なんつうの、聖邪の相剋中和が無いから、純粋に強けりゃそれだけ逆に効果あるのよ。むしろ土蜘蛛の攻撃に耐性があるっつうか。不思議なもんでよ。
つまり、聖だの邪だのってえのは、狩り蜂にとっちゃ、あんまり関係ないってことよ。表裏一体、紙一重。
いまんとこは、大人しく従ってるようだがな……。
「おい、おめえ」
「…………」
「ユスラに手ぇ出しやがったら、ツラの皮ぁ剥がされるだけじゃすまされねえからな、それだけは覚えておけ」
ゾンビになったって、オレの力が衰えたわけじゃあねえ。むしろ、ある種の力は増してんだ。そいつ、いきなり兜をとって、ザンバラ髪の、どす赤黒く腐って骨も見えてるウジだらけの顔で、丁寧に礼をしたよ。
ハハハ、なんだ、こいつ、話が分かるじゃねーか。いいやつだな。
ウジがぽろぽろ落ちてるぜ。もういい、ツラぁ上げろ。
なんだ、よく見ると、舌も切られてんだな。それで物が云えねえのか。よしよし。
「おい、オレも少しゃあよ、ユスラの読んでるこの国の歴史の本を横から見て知ってんだ。おめえ、ムロマチ時代の鎧だな? 何の戦いで死んだんだ? 有名なやつか?」
「…………」
もういいや。
オレは茶店から少し離れて、クルマの走ってる道路の近くまで出て、ずっと行き来するクルマを眺めた。おもしれえなあ。自分で走る馬車なんて。いつまで見てても飽きねえぜ。
やがて、暗くなって、灯りがともる。
これがまたすげえ。
デンキってやつで、光ってるんだと。これが魔法じゃなくて、なんなんだろうねしかし。
こりゃ、違う体系の魔法だと思うぜ。デンキってのは、この世界の魔力だよ。このびっしりと埋め尽くされてる建物っちゅう建物が軒並み光ってやがる。見ろよ、光って道を照らすだけの木まであるぜ。
この巨大な街中がぜんぶこれよ。宝石箱だぜ。オレたちドラゴンは光るものが好きだから、この夜景は本当に眺めるのが気持ちいい。この夜景をみるだけで、こっちに来たかいがあるよ。




