act9 気前がいい奴
「あ、えーっと服何着か揃えたいです。少し見て回って決めますね。」
「一応オーダーメイドも受けてるから気軽に相談してね。」
店主さんはそう言うと手をこっちにヒラヒラと振りながら店の奥に戻っていった。
ナッツは値札を見て驚愕の表情を浮かべている。
「人族の物価は高すぎるな、このままだと金策を考えなければならないね」
ナッツが耳元で囁いてきた。
まじかよ、金に余裕あるとか言ってたのに…。
元に戻るまでずっとヒモになろうと考えていた俺はカスであると認めよう。
だがこうなると稼がないと流石にマズいな。
「とりあえずスカート脱却できればそれでいいです。この先私も稼がないとヤバいですね…。」
「買うだけ買って、帰ってから何か案を考えようか。」
「そうだ、ミズキさん説教回避できたからお礼に一着買ってあげるよ!」
アルガがイケメンスマイルで言ってきた。歯を光らせるんじゃないよ!
若干面倒くさい目にあったけどこれならヨシとしよう。
(これなら私が払わなくてもいいかな。)
(そうっすね、ラッキーです。)
「これがいいです。」
俺が持ってきたのは黒いデニムっぽい奴だ。
「それよりこっちの方がいいんじゃないかな?」
アルガが手にとっているのは青と白のロングドレスだった。
「あ、じゃあそれでいいです。」
もう考えるのも面倒だ、裾長いしこれでいいだろ。
「おし、決まりだな。フルムさんこれにするわー!」
「はーい!」
パタパタと店の奥から店主が出てきた。
「とりあえず試着してから調整してもらってくれなー」
アルガが服を店主に渡すと店をうろうろし始めた。
「そこに試着室あるから一回試着してみてね。」
「わかりました。」
服を持って試着室に入る。
こんな服着た事無いんだがな…
悪戦苦闘し、何とか着た。袖がだぼだぼだけどな。
「どうですか?」
「あら!似合ってるじゃない!アルガ君センスが良いわね!」
「中々良いじゃないか、ねぇ、お嬢様?」
店主はいいが、ナッツがニヤニヤしながら言って来るのは若干腹立つ。
「ナッツも着てみない?」
「いや、遠慮しておこう。」
即断かよ。俺だって着たくて着てる訳じゃ無いんだがな。早いとこ金稼いで自分で服を買おう。
「袖が長いわね、今調整するね」
【草よ花と共に止まり動きよ 草花の操動詩】
フルムさんが袖に触れるとぴったりのサイズになった。
普通に縫って調整すると思ったんだが、こんなことまで魔法でできるのか。
「よし、これでいいわね。お代はアルガ君でよかったのよね?」
「お、できたか、いくらだっけこれ?」
「上下セットで2万コルねー」
「ほい2万コル」
アルガが革袋から金貨を二枚取り出して店主に渡した。予想以上に高いのなこれ。
ライダースーツ以外に服に高い金を出して買った事ないから少し驚いた。
せっかくなので買った服を着て帰ろうと思ったらアルガに止められる。
今日ずっとこの服着てないとダメだったのを忘れていた。
「まいどー!また来てねー!」
買った服をアルガに持ってもらい店を出た。
「さて、このあとはどうしようか?」
ナッツが聞いてくるが、特に考えてはないんだよな。
「帰っていいですか?」
「ぬ、せっかく来たんだ。昼くらいまでは見て回って損はないだろう?」
「この服で外歩くのただの屈辱でしかないんですけど…」
「うーん、そうだな。二人とも旅してるなら道具とかどうだろう?帝都は品揃えがいいよ。」
キャンプ道具一式揃ってるが欲しいのは雨具くらいだな。本当何で忘れたんだろう。普通にツーリングするにも必須だろう。
「私らは確かに旅をしているが、何せ予想以上に人族の物価が高くてね。正直心元がないのだよ。」
「金かー、俺は冒険者だからそこそこ稼いでるけどなぁ…。ここで話すものあれだし、奢るから少し早いけど飯にしないか?」
「ごちになりますー!」
「ミズキ君奢られるとなると笑顔になるのは…、本当そこに関しては律儀と言うとか食いつきが早いというか…」
ナッツが若干呆れ顔だが、金無いのは確かだ。くれるなら貰っておかないとな。
「お、おう。じゃあそこの店に入ろうか」
アルガは俺を見て若干照れながら言った。
店の向かいにあったカフェっぽい所に入ることにした。