act8 冒険者の存在と戦争
「ではミズキ君早速帝都を見て回るとしよう。」
「嫌ですけど」
速攻で答えた。
絶対にこんな格好で外には出たくない、羞恥心で死ぬ恐れがあるからな。
「そうか、残念だ。君の服を都合しなければならないと思っていたのだがね」
それは少し困るな。いつまでもスカート姿はゴメンだし、借りっぱなしになってしまっているのも頂けないな。
「欲しいですけど、この格好だと恥ずかしくて無理です。」
「なんですと!?凄いお似合いですよ!恥ずかしがる必要など一切ございません!」
店主が声を上げつつ近づいて来た。
「あの、近いです…。」
そう言うと少し下がってくれた。
「美人は男を幸せな気分にさせてくれるんです。もっとご自分に自信を持って下さい!街を歩くのが不安と言うならば護衛を付けましょう!」
「親父準備出来たぜー」
後ろを見るとアルガが執事服に着替えてた。
いつ着替えたんだよ。
「息子に護衛を頼みました。こう見えて息子はランク4もある冒険者なので荒事はご安心下さい」
「ごめんなミズキちゃん、一応家の宣伝も兼ねてるから頼む!」
あー、これはもうこのまま無理矢理引きこもれないオチですかね。
「はぁ、わかりました。お昼過ぎには戻りますからね。」
「ありがとうございます!夕飯までには戻って頂ければ大丈夫ですのでね。息子よ、頼んだぞ」
「おう、任せとけ!」
あんたの息子仕事サボって来たらしいけど、まずはそっち優先しろよ…。
「では参りましょうか。お嬢様。」
ニヤニヤしながらナッツがこっちを見て笑ってくる。ここぞとばかりに俺の精神をえぐってくるな、覚えておけよ。
「はいはい、行きますよ。」
「いってらっしゃいませ。」
いつの間にかメイドさんが宿の前で待機していた。忍者かよ、この二人。
店主の親父もこっちを見て笑顔で手を振っていた。
三人で宿から出て服屋に向かおうと道を聞こうとしたらアルガが依頼を投げ出してきたので仲間が待ってる冒険者ギルドに寄って欲しいとの事だったので仕方なく一緒に行く事になった。
服屋がある所も冒険者ギルドのある中心街だったので仕方なくだ。
アルガに付いて行く俺とナッツだが、すれ違う人にチラ見どころかガン見される。
男に至っては鼻の下を伸ばしながら胸をガチ見してくるのだ。全員がそうとは言わないが。
自分が男だとわからないが女性ってすげー視線の先がわかるんだな。
元に戻ったら気をつけよう。
尚ナッツは俺従者だと思われているのか、また露出がそこまで多くないのか、あまり見られてない気がする。
男共の欲望にまみれた視線を耐えつつ冒険者ギルドにたどり着いくと、一人の男がアルガを見て近寄ってきた。
「おい!アルガお前またやりやがったな!」
かなりお怒りのようだ。そりゃそうだろう。
「いやー、すまんすまん。こんな美人を二人見つけたら我慢出来なくてな」
「またその言い訳で…」
怒っていた男がこっちを見るといきなり俺に近づいて来た。
「失礼、お嬢さん。お名前は?」
「ミズキと申します。そちらの事情も知らずにこの度はすみません。」
完全に俺のせいでは無いが、日本人の癖なのでつい口から出てしまった。
「いえいえ、私も言い過ぎましたね。レディーの前で失礼をした事をお許しください。」
「バトロ、お前本当女性の前で口調変わるのやめろよなー」
「フン、紳士の嗜みだぞ。いつもあの宿に誘導し、失敗して依頼を放り出すお前よりマシだ」
「血の繋がりが無いとはいえ俺の大事な親父だからな。願いは叶えてあげたいさ。」
「それは立派な心掛けだが、相棒も大事にして欲しいね」
俺とナッツ蚊帳の外で話してるな。
何でもいいからとりあえず服屋案内してくれよ。
(めんどくせぇ、ナッツさん楽しんでるだろ)
(非常に面白い。ずっと笑いを堪えてるよ。腹がねじ切れそうだがね)
ずっと口に手当ててこっち見てないからな。この人。
「まぁ良い、依頼主に謝りに行かなければならないな。」
「後で良いか?」
「馬鹿野郎!今からに決まってるだろ!」
「いやー、俺今からこの二人の護衛と道案内があるから無理だわ。バトロ任せたぜ!」
バトロが大きな溜息をついた。
「わかった。今日はそちらのお嬢さんに免じて許してやろう。次は無いからな。」
「やっさしー、流石俺の相棒だ!」
「俺は今から依頼主のとこに行ってくるからちゃんと案内してやれよ。終わったら今後の予定決めるのにお前の家寄るからな!」
相棒さんはそう言い残してスタスタと歩いて行った。
「いやー助かったぜ。いつもならあのまま一時間くらい説教食らったからな。ミズキさん達に感謝だわー。」
誘導どころか俺らダシに使ってやがる。
こうなる事想定してここに連れて来たな、なんてクソ野郎だ。
ナッツはずっと下向いて笑い堪えてるし、早いところ服屋行きたいわ。
「すまんすまん、服屋だよね。この先だからついて来てくれー」
「わかりました。案内お願いします。」
◆
「ここだよ、俺の行き着けの店。ラベールフルムってんだ。オーダーメイドも出来て結構評判もいいんだぜー。」
見た感じ古着屋みたいな所だ。
まずはスカートじゃないのが欲しいな。
「あら、アルガ君じゃない。いらっしゃい。」
店の中から女の人が出てきた。
「おいっす、フルムさん。今日は客じゃないけどな。」
「あらあら、お客さんかしら?珍しいわね。いつも怪しまれたり、店主さんのせいで客引き失敗してるのにねー」
「それは言わないでくれよ、親父もいつまでここにいれるかわかんねーからな。」
「隣国との紛争よね、困ったものだわ。大事になれば貴族のお父さんは戦場に赴かなければならないし。」
「戦争なんて起きなきゃいいんだけどな…。」
アルガがボソっと言っているのが聞こえた。
おいおい、いきなり戦争おっ始めようってとこに来ちゃったのか。
しかもあのおっさん貴族かよ。貴族の癖に胡散臭い商売してるけど、あんなので儲かってるのか?
とりあえず、戦争の事が気になるので聞いてみる。
「あの、帝国って戦争間際なんですか?」
「あら、ごめんなさいね。お客様相手しないといけないのに」
「いえ、お構いなく。それで戦争っていつ起きるんですか?」
「小さいぶつかり合いくらいは、ここ一年の間に2回くらい起きてるかしら?ただいつ大事になるかはわからないわね。」
「そうなんですか、色々と大変なんですね。」
「最悪起きた所でこの帝都が落ちるとは思わないけど、用心はしておいた方がいいかもしれないわねぇ。辛気臭い話はここまで!何をお探しかしら?」
服買いに来たのに戦争の話になっていたな。こんな服装とはさっさとお別れしたいし、買う物買って帰ろう。