↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/142

第9話 魔王降臨

「隊長!潜入工作員の信号も消失しました!」

「そうか……突入隊と合わせて10人、得られた情報の対価としてはいささか釣り合わんな」


 魔王城から離れること30kmの地点に彼らはいた。総勢10数名の彼らは皆一様に軍服をまとっており、時おり通信機の様なものを操作しながら魔王城を監視していた。


「いかがいたしますか隊長。いったん国に戻りますか?」

「そうだな、これ以上ここに居を構えていても収穫は無さそうだな」


 若手の隊員の疑問に隊長と呼ばれている男はそう返すと隊全体に撤収命令を出す。

 何度もこの手の任務をこなしていたのだろう。無駄のない動作で撤収作業が行われる光景はそれを感じさせる。


 


 しかし


 


 まだ


 


『帰ってもらうには早いんじゃないかな?』


「何者!!」


 一瞬で彼らは臨戦態勢になり銃口を俺に向ける。


「実にいい反応だ。さぞかし名のある兵士なのだろう、参考になるよ」


 俺はわざとらしくパチパチと手を叩き彼らの前に進み出る。


「初めまして、魔王国ゾロ・アスト頭首クリーク・O・ジークだ。よろしく頼むよ」

「……何が目的だ」

「なに、部下が頑張っていてな。上に立つものとして私も一肌脱ごうと思ってな」


 彼らは会話しながら円形に俺を取り囲む。まだ攻撃する様子はない。


「どうした?わざわざ一人で来てやったんだ。それとも弱い者いじめのやり方しか教わってないのかな?」

「貴様……!!」

「落ち着け、冷静さを欠くと精神魔法にかかりやすくなる。いつも通りやるぞ」

 

 隊長は挑発に乗った隊員を諫めると手を振り上げる。それを皮切りに全員が銃を構えなおした。


「行動開始!!」


 銃弾の雨が俺に降り注ぐ。

 しかもただの銃弾ではなく弾そのものが魔兵器となっており、着弾と同時に爆発する仕組みになっているようだ。

 弾丸を浴びた俺は爆発の嵐に巻き込まれる。


「発想は悪くない」

「!?」

「銃だけでなく弾丸も工夫するのは戦闘の幅が大きく広がる。しかし作りこみが甘い」

「防がれたか!?」


 こんなものは防ぐまでもない。


 俺の身にまとっている品は兜から指輪に至るまで超一級の品々だ。

 特にこの鎧『神々の戦鎧《アーマー・オブ・アスガルド》』は魔法防御だけでなく物理防御も大幅に上げ、毒やウイルスなどにも完全耐性を持つ、正に神の名を冠すにふさわしい逸品だ。

 当然、小さな爆発程度では何百発くらってもかすり傷一つつかない。


「ウオオォォオオ!!」


 銃撃が効かないと見るや隊員の中でも一際体格のいい者が銃を投げ捨て距離を詰めてくる。

 両腕に手甲型の魔兵器を装備しておりそれを、俺に叩きつける。


「接近戦は苦手だと思ったか?」


 俺はその一撃を受け流すと腹部に一撃拳を打ち込む。


 手甲型の魔道具によって強化されている拳は彼らが身に着けている衝撃緩衝効果のあるジャケットなど意に介さず、男の内臓に甚大なダメージを与える。


「あが、あがが」


 男は陸にあげられた魚のように口をパクパクさせると口から泡を吐き、意識を手放す。


「まず一人」


「ひぃっ」と情けない声を上げ3人ほど背を向け逃げ出すものが現れる。隊長が呼び止めるが耳に入ってない様だ。


「やれやれ。同情するよ」


 俺はそう嘆息すると手に魔力を込め始める。

 別に逃がしてしまっても害は無いだろうが、人々に知らしめる必要がある。


 我らに敵対する愚かさを。


「いけ、灼熱魔刃《バーンエッジ》」

「がぁっ!!」

 

 空気が揺らめくほどの熱を帯びた三日月形の刃が3つ放たれ、逃げ出した者たちの膝から下を切り落とす。


「いでぇ……いでぇよぉ……」


 切り落ちた断面は熱で焼かれたため出血多量で死ぬ可能性は低いだろう。ショック死してしまう可能性もあるがそこまでは面倒見切れない。


 情報を吐かせる為に数人生け捕れれば十分。残りは死んでもらって構わない。


「貴様ぁ!!」


 今度は隊長を除く全員が距離を詰めてくる。

 近距離も遠距離も得策でないと理解したのだろう、銃を捨て槍や剣などの武器に持ち替え中距離で戦うみたいだ。

 それら武器全てに魔力を感じることから全てが魔兵器なのだろう。よくこんなにたくさん作ったものだと感心する。


「死ね!化け物が!!」

「そう昂るな。怖いじゃないか」


 激昂する彼らをよそに俺は冷静だった。

 この世界で戦った日々を思い返せばこの程度、児戯に等しい。


「少し頭を冷やせ。圧空槌砲《エアハンマー》」


 俺が拳を突き出すと同時に圧縮されたサッカーボールほどの空気の塊が射出され、今にも槍を突き刺そうとしていた隊員の頭に命中し、昏倒する。


 この魔法は範囲が狭いが空気ゆえ視認しづらく、軌道の自由がきくためお気に入りの魔法だ。


「ぐっ」「ぶっ」「がっ」


 腕を一振りする度に1人、また1人と地に伏せていく。


 そして、ものの1分もしないうちに立っているのは俺と隊長の2人だけになっていた。


「後は貴様だけだ。降伏したらどうだ?」

「心遣いは無用だ」

 

 彼はそうつぶやくと小型の通信端末の様なものを取り出し、耳に当てる。


「やれ」


 その言葉が発せられた直後、俺の視界は白く染まった。


 


 


 


 


 


 ◇


 


 


 


 辺り一面に広がる閃光と爆音。

 未だ土煙舞う大地に声が響いた。


「味わっていただけたかな。我らのとっておきを」


 隊長は得意げな声で何かが着弾した場所に向かって喋りかける。


「超大型魔兵器、通称『天罰』。超高速度で放たれるエネルギー弾は指定した時間が経ち爆発するまで万物を透過し、迎撃も防御も出来ない正に神の御業だ」


「神とは大きく出たものだな」

「!?」

 

 俺は旋風を起こし土煙を払い姿を現す。

 我ながらかっこいい登場の仕方だ。


「馬鹿な!防御する暇など無かったはずだ!」

「ああ、その点は見事。我ながら慢心していたようだ、いい勉強になったよ」


「ならば何故傷一つなく立っている!!」

「君たちの私の評価は知らんが、私にとってはその銃も今の光弾も受けるダメージは変わらんのだよ」


 そう。


 文字通り彼らと俺では強さの次元が違う。


 彼らの銃撃は魔法で言うと最初級程度の威力しかない。光弾は大きく見積もっても上級くらいだろうか。

 いずれにしても俺の鎧を突破してダメージを与える事は不可能だ。

 最低でも準伝説級の威力はないと話にならない。


「早く次弾を打て撃て!最高出力だ!転がってる奴らがどうなっても構わん!!」


 隊長は錯乱した様子で通信機に叫ぶ。

 別に今のを何発食らってもどうということも無いのだが、これ以上服が汚れると使用人たちに申し訳がないので抵抗するとしよう。

 

「感覚強化《ハイセンス》、超速動作《ハイスピード》」


 魔法の効果により全身の感覚が鋭敏化され、周りの動きがスローに感じられるようになる。


「発射!!」

 

 感覚強化《ハイセンス》のおかげで、今度は右前方より発光する物体が飛んでくるのが見える。

 俺はそれに向けて重ねた両手をかかげる。

 物体が切断されるのをイメージし、それに魔力を練り合わせ両手に送る。


 行使するのは切断魔法の最上位。

 切るのではなく切った結果を押し付ける概念魔法。

 重ねた両手を擦るように叩き、呪文を唱える。


「現界《げんかい》に非《あら》ざりし刃よ、姿を現したまえ!! 現界断つ乖刃(リアライズ・エッジ)!!」


 パリン、とガラス細工を床に落としたような甲高い音が鳴り響く。


 それは空が、大地が、空間が分かれ、ズレる音だった。


 二つに分かれた光弾は行く先を見失い俺の遥か後方に着弾した。


「俺は何を見ているんだ……」


 彼が放心するのも無理はない。

 写真を縦に裂きズラしたような風景はあまりにも現実離れしている。


 今の魔法の見どころは透過する光弾を切ったところなのだが……まあいいだろう。


「さっきまでの威勢はどうした」


 俺は気を取り直して彼の目の前に立つと、彼は装備を投げ捨て膝立ちになる。


「わ、分かった、降伏しよう。だからもう止めてくれ」

「好き勝手に暴れた癖に随分な物言いだな」

「ま、待ってくれこれにはワケが……」


 今までの冷静な態度はどこへやら、あたふたと会話を続けようとする。


「時間稼ぎなら無駄だぞ、ご自慢の砲台なら先ほどの魔法でお釈迦になってるはずだ」

「そんな……」


 空間がズレたことによって生じる余波を光弾が飛んできた方向に撃ち出したので間違いないだろう。


「さて、まだやるかい?」

「こ、今度こそ大人しく捕虜になる!母国に引き渡してくれればいい取引材料になるはずだ!」

「なるほど、それは悪くないな……」

「そうだろ!俺はこう見えて偉いんだ!!だから頼む!!」


 俺が考え込むそぶりを見せるとこいつはここぞとばかりに自分の価値を主張し始める。


「な?いいだろ?」


 手ごたえを感じたのだろうかこちらに手を伸ばしてくる。


「ああ、わかったよ……」


 

 俺は観念したように肩をすくめるとその右手を取り

、

 


 


 肩から先を力任せに引きちぎってやった。


 


 


「う、うがああぁ!!!」

 

 無理やり引きちぎられた為、傷口はズタズタになっており壊れた蛇口のごとく血が噴き出す。


「なぜ!なぜだぁ!」

「なぜ貴様を人間扱いしなければならない?我々を人と思っていないくせに都合のいい」

 

 この世界の人間はみんなそうだ。

 他者を欲の為に平気で傷つけるくせに、自らに危害が及ぶと平気な顔して権利を主張する。


 俺から見ればこいつらの方がよほど化け物だ。


「安心しろ、すぐに殺しはしない。ちゃんと有効活用したのち、使い物にならなくなってから始末してやる」

「た、頼むよ、何でもするから助けてくれ……」


「では貴様の国に捕らわれている魔人を全て解放しろ」


「え……」


 男の顔が絶望に染まる。


 当然だ、国にとって魔人は貴重な資源。国家間の力のバランスはどれだけ魔人を有してるかで決まるほどだ。

 この男1人では交渉材料には遠く及ばないだろう。


「もう貴様と喋るのも飽きたな。眠ってもらおう」


「ば、化け物……」


 


「なんだ」


 


「よく知ってるじゃないか」


 


 彼が母国の土を踏むことは二度となかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。