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第2話 タート

 ヨーロッパの片田舎にある町「タート」。


 それが僕達の住まう町だ。


 特に名産といった物は無く、腕のいい刺青職人がいるくらいしか見どころはないつまらない町だ。


 変わった所があるとすれば、この町で生まれた者はそのほとんどが魔力に目覚めることぐらいだ。

 遺伝もあるだろうが土地的な要因もあるらしい、僕は詳しくは知らないけど。


 なので僕達はみな幼少の頃より魔力の扱い方を学ぶ。

 自衛のためでもあるし、何より魔力の扱いが上手いと『成人の儀』に有利になるからだ。


魔纒まてん』はその過程で習う基礎的な技法だ。

 しかし地味なため、真剣にこれを練習する者は少ない。


 だけど僕はこれを毎日必死に鍛えぬいた。

 彼女を守る。ただそれだけの為に……



「うおおおおおぉっ!!」


 僕の放った渾身の右拳が三人組の内の一人の顔面に深々と突き刺さり、一瞬の内に意識を刈り取る。


魔纒まてん』により硬化した僕の拳は岩を砕くほどの硬度を誇る。

 生半可な『魔纒まてん』じゃ防げないぞ。


「あまり調子に乗るなよ!!」


 僕に残りの二人が激昂した様子で襲い掛かってくる。

 しかし僕の鍛え上げた魔纒まてんは肉体強化だけでなく感覚強化も可能にしている。

 その程度の攻撃であれば避けることなど造作もない。


「くらえ!」


 僕は大振りな右足の蹴りをしゃがむことで回避する。

 そして隙だらけになった横腹におかえしと蹴りを打ち込む。

 打ち込まれた相手は想定をはるかに超える痛みに白目を剥き、泡を吹きながらその場に倒れこむ。


 ……多分命に別状はない筈だ。


「クソが! 聞いてないぞこんなに強いなんて!」


 残った一人が悪態をつく。

 他の二人よりはしっかりとした魔纒まてんだが、僕の敵ではない。


「まだやるかい? 二度と僕とあの子に手を出さないなら見逃してあげるよ」

「ちっ! お前と関わるなんてこっちから願い下げだよ!」


 僕がすごむと、相手は倒れた二人を担ぎ上げスタコラ逃げ出していった。


「結構時間を食っちゃったな、急がないと!」


 僕は足に魔力を溜め、二人に追いつくべく全力で地面を蹴り空へとジャンプした。






 ◇





「あ! あんなところに!」


 探し始めてから五分。

 意外とあっさりローナは見つかった。


 辺りを見回してみたが近くにバリーの姿はない。

 上手く撒いたのだろうか?


「ローナ! 大丈夫!?」

「ウーゴ!」


 僕が彼女の近くに降り立ち声をかけると、彼女は満面の笑みで振り返り抱き着いてくる。


「ありがとうウーゴ! わたし、わたし……」


 僕に抱き着く彼女の肩は少し震えている。

 当然だ、昔から彼女は怖がりだった。


「ごめんよ……僕にもっと力があればあの場で片付けられたのに……」


「ううん。ウーゴはいつも私を守ってくれる。まるでわたしの騎士ナイトね」


「ローナ……」


 騎士ナイトか……なんて素敵な響きなのだろう。

 己の正義の為に戦う騎士。そうなれたらどんなにいいだろう。


「とりあえずもう大丈夫みたいだから帰ろうか。さすがにあいつも家までは押しかけてこないだろう」


「うん! ねえ、手つないでもいい?」


 上目づかいでそんなことを聞いてくるローナ。

 可愛すぎる……


「う、うん。ほらおばさんも待ってるだろうか早く帰ろう」


「うん!」


 僕とローナは手をつないで仲良く帰った。


 ああ、こんな日がずっと続けばいいのに……





 ◇




「ローナ! 準備できた?」


「ちょっと待って! すぐ行く!」


 翌日。

 僕とローナは朝早くから『成人の儀』を受ける為出かける準備をしていた。


 ローナは準備に手間取っているみたいで部屋から出てこない。

 まだ時間に余裕はあるからいいけど。


「ウーゴ君、気をつけて行ってくるのよ」


 僕が玄関で待っているとおばさんに声をかけられる。

 朝からおばさんは心配そうな顔をしている。早くいい結果を出して安心させてあげないと。


「任せてくださいおばさん。必ず結果を出していい暮らしを出来るようにします」


「そんなに気負わなくていいのよ? 私は二人がいてくれれば十分幸せなのだから……」


「おばさん……」


 そう言ってくれるのは素直に嬉しい。

 だけどその言葉に甘えるわけにはいかない。

 女手一つで赤の他人である僕を育ててくれた恩を返さないと僕の気が済まないからだ。


「ウーゴお待たせ!」


 準備が終わったのかローナが部屋から飛び出してくる。

 今日も揺れる金髪が眩しい。


「それじゃおばさん、行ってくるよ」


「ええ……」


 ローナと共に僕は町へ向かう。


 輝かしい未来を叶えるために……


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