第3話 集う仲間
「よい、入れ」
俺が渋い低音(自称)で扉の向こうの人物を招き入れると、無駄にデカい鉄製の扉が開かれ2人の男が入ってくる。
「おっ!どうやら一番乗りみてえだな!こりゃさい先がいいぜ!」
「あまり騒ぐと馬鹿がバレるぞヴォルクよ。無用な心配だとは思うがな」
「アァ!?ヤりてぇならそういえやエセ侍が!!」
「貴様!!その汚い口開かないようにしてくれようか!!」
最初に声を上げた青年はヴォルク・ヴィクトロヴィチ・コロリョーフ、俺はヴォルクと呼んでいる。
筋骨隆々の肉体に真っ白な歯、金モヒカンに裸ベストと非常に目立つ出で立ちをしている。
背も厚底している俺よりも高く、未だに急に会うとビビってしまい隠すのが大変だ。
「貴方達!ジーク様の御前ですよ!」
「すまねえ大将! でもこいつが悪いんです!」
「面目次第もございません殿。この駄犬にはよく言い聞かせておきます」
「アァ!?」
「お前たちいい加減にしなさい!!」
さっきからヴォルクと漫才を繰り広げているのは虎鉄だ。
和装に短く揃えた黒髪、腰には刀と一言で言ってしまえば侍みたいな見た目をしている。
ヴォルクとたいして年は変わらないはずだが眉間には彫り物の様に深い皺が刻みこまれており、少し老けてる様に見える。
苦労人気質なのであろう、少し優しく接してあげたい。
この2人は幹部達の中でも特に高い戦闘力を持ち、見た目も怖いので指示を出すのに躊躇ってしまうが、何故か忠誠心が凄い高い。引くくらいに。
「うるさいですねぇ、動物園ですかここは?」
「くくっ。可愛いものではないか、祭りにはしゃぐ幼子のようでの」
次に入ってきたのはパリッとしたスーツに身を包んだ痩身の男性シェン=レンだ。
知的さと恐ろしさを兼ねそろえている彼の見た目はインテリヤクザにしか見えない。
我が軍の参謀担当である彼は理知的な笑みを浮かべると俺に向かい大袈裟な動作でお辞儀してくる。
「偉大なる我が君の忠実なる僕。シェン=レン只今参りました」
「う、うむご苦労。お前の忠義しかと受け取った」
「ありがたき幸せ」
見るからに腹黒いのにこいつも忠誠心MAXで怖い。
いつ裏切るのかとハラハラしてるが能力が高いのでクビにするわけにもいかない。
マーレは大丈夫だろうと言ってるが本当だろうか?
うう、胃が痛い。
「わらわは無視かの?」
「おわ!」
シェンと一緒に入ってきた女性、テレサ・スカーレットがいつの間にか俺の膝上に滑り込んでいた。
10代半ばくらいの彼女は、その全身を赤を基調とした非常に露出度の高い魔女装束で包んでおり、これまた非常に股間によろしくない。
少女のあどけなさを残しながらも妖艶さも兼ね備えた彼女の容姿は、年上好きの俺でもコロッと落とされかねない魅力で溢れている。
「我が主人殿は可愛いのお。早うわらわと契らぬか?」
マーレほどでは無いが,実りのある胸がむにゅん!と押し当てられる。うう、辛い。
「テレサ。その話はまた今度にしよう。な?」
横に並び立つマーレからとてつもない負のオーラを感じ取り慌てて、テレサを降ろす。
「くくっ、女の嫉妬は見苦しいぞ」
「いい覚悟ですね、痴女が……」
「あっ、おい!最後の幹部が来たぞ!ホラ!戻って!」
破茶滅茶な文法になりながらもテレサをマーレから離す。
もうこれ俺の威厳メッキ剥がれてないか?
「お待たせしたっす!貴方のイブキ只今参上っす!双子ちゃんも連れてきたっすよ!」
「わー!ひろいひろーい!スイもおいでよー!」
「ん、今行く」
元気いっぱいに入ってきたメイド姿の人物はイブキ。
金髪のツインテールに八重歯が眩しく、人懐っこそうな顔はあらゆる人に好感をもたれるだろう。
彼女は魔王城で働く男女合わせて数百人の使用人の統括であり、戦闘力もさることながら使用人としての能力も非常に高い。
メイドモードに入った時の彼女はいつもの快活さはどこえやら、急にたおやかになり、普段の彼女を知ってる人は困惑する事必至だ。
「じーくさまー。おはようございます。」
「お早う御座います。ジーク様」
「あぁ、おはようアン、スイ。ちゃんと挨拶出来て偉いぞ」
『えへへ』
この2人は双子の姉妹アンとスイ。
まだまだ幼い5歳くらいの彼女達だが非常に高い魔力を内包しており、保護の意味も含めて幹部にしている。
ちなみにサイドテールを左にしているのがまだ舌足らずで行動力の化身であるアンで、右にしていて冷静なのがスイだ。
「これで全員揃ったか」
俺は部屋を見渡すと立ち上がる。
すると先ほどまであーだこーだやってた者達が一斉に姿勢を正し、膝をつき傅く。
「これは……」
「彼らの誠意です。受け取って下さい」
「そうか……面をあげよ」
彼らの双眸がこちらに向けられる。
いずれの瞳も強い意志と輝きに溢れている。
俺は正直尊敬されるほど大した人間ではない。
無事建国出来た今でも不安で一杯だし、夜も魔法に頼らないとロクに眠れない。
でも。
彼らが信じてついてきてくれる限りは前に進める気がした。
「お前達に下す命令はただ一つだ!」
俺は息を深く吸い込みただ一つの命令を下す。
「俺を信じてついてこい!」
『はい!!!!!!!』
今ここに魔王国ゾロ・アストは真に誕生したのだった。
◇
「あ゛―づかれだ」
「ふふ、お疲れ様です」
顔合わせが終わった後は全員でテーブルを囲み食事を楽しんだ。
幹部達はみな気のいい奴らだが情けない所を見せられないため長時間共にいると疲れてしまう。
「背伸びしてる貴方も可愛くて好きですが、もっと肩の力を抜かれてもよろしいのでは?」
「駄目だ。あいつらに受け入れられたとしても、一度妥協してしまえば人はどんどん楽な方向に逃げてしまうものだ」
「そんなものですか」
「そんなものだ」
頼りはするが甘えはしない。
「しかし……」
『ビ―――――――――――!!!』
俺たちがそんな事を話していると不意に後ろから警告音が鳴り響く。
そこにあるのはホログラムで出来た魔王国の模型『魔王国立体観測装置』通称観測者だ。
サイエンチックな見た目をしているが動力は魔力であり、操作も魔力を介さないと行えない仕組みだ。
このような魔力によって動く代物を『魔道具』といい、非常に希少価値の高いものだがワケあって俺の手元には大量の魔道具がある。
「この反応……侵入者ですね。いかがいたしますか?」
「もちろん撃退するさ。話し合いに応じる奴らでもないだろ」
観測者には魔王国に向かってくる生体反応が表示されている。数にして30ほど。
それが3つのグループに分かれてそれぞれ動いている。
「行軍速度と魔力の質から推察するに3つのグループは別勢力でしょうか」
「おおかたどこかが抜け駆けして、他の勢力も慌てて動いたんだろ」
魔人はこの世界の総人口の約1割に値する。その肉体は魔力を持たぬものからしたら迫害の対象であると同時に貴重な資源だ。
強力な魔人数名で国のエネルギーを賄っていたこともあるくらいだ。
「この程度警報を出すまでもない、幹部たちに連絡し最少人数で撃退する!」
「かしこまりました。我が君」
こうして俺の、俺たちの戦いの火蓋は切られたのだった。