第20話 本心
「わざと負けた。だって? いったい何でコイツがそんな事を!?」
もう一人の俺の発言に俺は戸惑う。
だってコイツは本気で俺を殺そうとしていたんだぞ? そんな奴がわざと負けようとするなんてとても考えられない。
いくらもう一人の俺の言う事とは言え流石に信じられない。
「俺はコイツと長い間一緒にいたから何となくコイツの感情が分かる……。確かにお前と戦っている時は本気でお前を倒そうとしていたが、俺が救出されてからのコイツから殺意は感じられなかったんだ」
そう言ってもう一人の俺は満身創痍のラースを見る。
たしかにラースにもう反撃の意思はなさそうだ。
一体なぜ?
そういえばそもそもコイツはなんで俺を敵視しているんだ?
体が欲しいだけならいつでも俺の肉体を抜け出して元の体に戻れたはずだ。
それなのになぜ?
「……オレ様の目的だあ……? そんな事どうでもイイだろ!! オレ様はお前の敵だ! 殺すのに躊躇いなんかいらねえハズだ!」
そう叫びラースは立ち上がり、もう一人の俺めがけ拳を握る。
「あ、危ない!」
そう叫び助けに入ろうとする俺。
しかしもう一人の俺はそんな俺に手を向けて制する。
「大丈夫」
「……え?」
そのせいで俺は一瞬対応が遅れてしまう。
しかしラースの拳は無慈悲にももう一人の俺めがけ振るわれ……当たる直前で止まった。
「な、言っただろ」
「あ、ああ」
信じられない。
俺を倒す絶好のチャンスだというのに、なぜ?
「俺はラースに体を乗っ取られていた時、外出何が起きているかはよく分からなかった。だけどこいつの気持ちは感じとる事が出来たんだ」
「ラースの、気持ち……?」
「ああ、こいつは俺達の部下と接する時。いやそれだけじゃなくこの魔王国にいる時、こいつは『愛』を持って接していた」
「愛……だって……?」
まさかコイツから『愛』なんて単語が出てくるとは。
憤怒とは似ても似つかぬ感情だ。
「お前は俺達と同じようにこの国を愛していた。それなのに何故こんな真似をした?]
「……」
ラースはその言葉に黙り込み、ただ俺たちを真剣な目で見つめる。
そして数秒の沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「……お前は甘過ぎる。このままではヤツらには絶対に勝てない。だから俺はお前を試す事にした」
試す、だって?
じゃあこいつはこの国のために俺と戦っていたというのか?
いや、それよりもう一つ気になることがある。
「ヤツら。というのは……」
「お前は会ったはずだぜ。芭蘭の事だ」
「な……!?」
「奴は俺と同類。俺様に苦戦しているようじゃヤツらには勝てねえぞ」




