表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/142

第7話 四象家

礼堂院れいどういん虎徹こてつ


 どうやらそれが虎鉄のフルネームのようだ。


 それにしても礼堂院という姓。

 俺はその姓に聞き覚えが……



 全く無かった。



 陰陽師という存在について、俺は魔王国を建国する以前にマーレから色々聞いて勉強したはずだったのだが、その姓はまるでスッポリ頭から抜け落ちたかのように俺の頭には残ってなかった。


「『五行相克ごぎょうそうこく』を受け継いだお前の妹がいなくなったせいで礼堂院家は実質崩壊してしまった。何しにお前がここへ戻ってきたかは知らないが身の振り方に気をつけるんだな!」


 朱凰院という男はそう吐き捨てると足早に去ってしまった。

 虎鉄を罵倒しにきたのか心配しにきたのかよく分かんなかったな。


「拙者の妹は……優秀でした」


 朱凰院がいなくなるのを見届けた虎鉄は、昔を思い出すかのようにポツリポツリと妹のことを話し始める。


「拙者の父親は礼堂院家の血を強くするため、四象家の者を妻にしました。そして生まれたのが拙者です。しかしなんの因果か強力な血筋を二つ合わせ持ったはずの拙者には陰陽師の適性がありませんでした。当然拙者の一族は大揉めしました、両親は別れ、父親は新たに分家の者と結婚し妹を産みました」


 ということは虎鉄と妹は腹違いの兄妹なのか。

 現代社会でもお家騒動ってのはまだあったんだな。


「奇跡的に妹には陰陽師としての才能がありました。五行全てを扱える礼堂院家秘伝の贈呈物ギフト『五行相克』を受け継ぎ、なおかつ高い魔力と緻密な魔力操作技術を持っておりました」


 多少の妹贔屓は入ってそうだが、虎鉄がそこまで言うのだから実際優秀な人物だったのだろう。

 もし会うことが出来るならぜひ仲間になって欲しいものだ。


「おまけに妹は優しく、そして使命感に溢れていました。しかしそれ故に魔力大規模感染マジカル・パンデミックが起きた際、彼女は都市部で人命を守るためその力を振るったようです。最後の通信記録によると変な男と出会い、その男と共に仲間の陰陽師と合流するという連絡を残し消息を絶ちました」


「虎鉄はその時こっちにいたのか?」


「はい。京は古来より魔力が豊富な場所です。当然魔獣もたくさん出現し人々を襲いました。その時拙者は選択を迫られました、妹を探しに東京へ行くか、京に残り人々を守るか。その二つを拙者は天秤にかけ……後者を選びました。優秀な妹なら大丈夫、愚かにもそう思ったせいで拙者は妹を失い、そして我が一族も守ること叶わず拙者を除き全滅しました」


 悲痛な表情で虎鉄は当時のことを語る。

 きっとさんざん悩み抜いた末の決断だったのだろう。

 しかし正しい決断だったかどうかなんて終わってみないと分からない。俺たちに出来ることと言えば自分の下した選択を信じ、全力を尽くすのみだ。


「……つまらない話を長々と申し訳ありません。少し頭を冷やしてきます」


 虎鉄はそう言うとトボトボと一人で歩き出す。


「ちょっ、あんた……」

「よせ、一人にしてあげよう」


 引き止めようとするハコを俺は制する。


「男には一人になりたい時があるんだ。なぁにあいつなら大丈夫さ」


「……せならええんやけど」


 少しむくれるハコだが渋々言うことを聞いてくれる。


「俺たちは俺たちで芭蘭の手がかりを探そう。奴だけは見逃すわけにはいかない」





 ◇



「……」


 ジークとハコと別れた虎鉄は一人、陰陽京を歩いていた。

 生まれ育ったこの町だが魔獣の猛攻に遭いかなりの建物が立て直しとなってしまった。


 虎鉄は魔獣襲撃を撃退してすぐに妹を探しに行ったため復旧後の京に来るのは実は初めてなのだ。


 あの日から妹の事を忘れた日など一度もない。

 しかし居心地のいい今の場所に慣れ、当時ほどの熱量を持って妹を探していないのもまた変えがたい事実だった。


「拙者はいったいどうすれば……」


 今は名前も思い出せない妹の顔を思い浮かべながら虎鉄は歩く。

 当てもなく歩いていたはずだった虎鉄だが、ふと気がつくと見知った場所にたどり着いていた。


「ここに来るのも久しいな……」


 そこはかつて虎鉄が住んでいた礼堂院家の家が建っていた場所だった。

 今は建物が建っていた形跡もなく、町の中に広い土地がポツンとある状態だ。


 本来であれば空き地はすぐに他の建物が建てられるはずだが、名家である礼堂院家の跡地に建物を建てようとするものは現れず、唯一の生き残りである虎鉄は京にいなかったため長らく手つかずなのだ。


「やっぱりここにいた」


 複雑な表情で家の跡地を眺める虎鉄に、背後より声がかけられる。


「お前は……虎子か」

「誰が虎子だ」


 虎鉄が虎子と呼んだのは18、19歳くらいの若い女性だった。

 160くらいの背丈に足までかかる長く艶やかな黒髪。活発な印象を受けるボーイッシュな顔立ちながらも、出るとこは出ているため男性と間違われることはないだろう。


「私には白王院はくおういん虎虎とらとらっていう立派な名前があるの! 子ども扱いはやめてよね!」


 白王院。

 玄流院や朱凰院と同じ四大名家『四象家』の一つである。

 白虎の名前を持つ彼らは陰陽師の中でもトップクラスのスピードを持ち、更に剣技にも長けている。


「すまんな虎虎。お前も今や白王院家の家元。拙者などとは身分が違う」


「ちっ……! 真に受けんじゃないわよ……」


 自嘲気味な虎鉄に虎虎は調子を崩す。


「それよりいつまでこんなところでウジウジしてんのよ、いい加減立ち直りなさいよ」


 妹が失踪した日、虎鉄は酷く取り乱した。

 自刃しかねないほど己を責め続ける虎鉄を、興亀と虎虎は慰め続けた。

 そんな日が3日も続いたある日、虎鉄は書き置きを残し京を去ったのだ。


「妹を探すなとは言わないわ。でもあんたがいつまでもほっつき歩いてたらこっちが迷惑なの。早く戻って来なさい、私が何とかしてあげるわ」


「心配をかけてすまない。だがこれは礼堂院家の問題だ。お主たちの力を借りるつもりはない」


 虎鉄は突き放すようにそう言うとその場を去る。

 甘えぬために。


 自らの誓いを曲げぬために、


「……なによ。鉄にぃのばか」


 少女の呟きは誰にも届かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ