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魔女伝  作者: 倉トリック
魔導兵器編
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殺戮と製造

 いきなりの事で、少々驚きはしたものの、別に大してまずい状態では無い。ジュリアにとって、この程度の危機など日常茶飯事だったからだ。それに、頭を潰されようと、体をぐちゃぐちゃに潰されようと、その後燃やされたり呪いをかけられたり、そもそも攻撃に魔力がこもっていない限りは死ぬ事は無いからだ。


 本当なら死ぬ苦しみを、生きながら味わう事にはなるが、それも慣れている。


 だから、割と冷静に、ジュリアは彼らの事について考えていた。


「よくもまぁ、全身石で塗り固められてる癖にそんなに素早く動けるよねぇ」


 格闘の達人の如く、その一撃は素早く、そして重い。


 そんな彼らの行動原理。


「魔女の殲滅ねぇ…」


 ジュリアはチラリと型を焼いている竃を見る。


 死にはしないが、致命傷を受けると行動不能にはなる。その際は魔法だってろくに使えない無防備状態だ(本来は死んでいるのだから当たり前だが)。


 そんな動けなくなった体を運ばれて、竃に放り込まれて焼かれれば、それは確実に死ぬ。絶対に死ぬ。グローア、いや、今の持ち主はゲルダだったか、彼女の治癒魔法でも無い限り、まず間違い無く死ぬ。


「お伽話の魔女みたいな死に方はごめんだね、それにボクは『鏡の魔女』であって、『お菓子の魔女』は別にいるっての」


 とどのつまり、死なないからと言って、彼らの攻撃に素直に当たってやるわけにはいかない。


 だからジュリアは、慣れない動きで回避しながら、彼らの攻撃をなんとか無効化出来ないか考える。


 手っ取り早いのは、鏡の世界に飛ばして閉じ込めてやる事だが、今は訳あってそれが出来ない。


「予備の鏡が二枚しか無い、しまったなぁ、異端狩りなんかに一枚使ったのが痛かったね」


 一枚は連絡用に置いておきたい、となると、攻撃に使えるのはどう頑張っても残り一枚になる。


『どうかしましたか?』


 あれこれ悩んでいると、手鏡から再びペリーヌの声がした。


「やっほーペリーヌ、突然で悪いんだけど、予備の鏡ってそっちからボクへ送る事って可能?」


『…何事か分かりませんけど、貴女が道を作っていれば可能なのでは? 私の方から勝手にそちらへ干渉することは不可能でしょう』


「わーいボクのバカー、たまには運動しようかなって徒歩でこんな所まで来るんじゃなかったー!」


『…貴女本当思い付きで行動して、痛い思いしかしませんね…襲われてるんですか?』


 ジュリアは手鏡をゴーレム達の方へ向ける。


『これは…』


「とりあえず、現状報告ね。兵器の製造工場は地下にあったよ、というか、この通り兵器も実在した、もちろん魔力で動いてるけど、魔法を使ってくる気配は無し、ちなみに材料は人間の死体から、肝試しから帰ってこなかった人間は、こうなってると思う」


『…今も製造を続けているという事ですか? 現場の主人はマリさんでしょう? 三年前に彼女は死んだというのに、今も…ということは』


 ペリーヌは鏡の向こうで呆れたようにため息を吐く。ジュリアも同じ気持ちだったが、彼女が漏らしたのはため息では無く、不敵な笑みだった。


「彼女の意志を継いでいる何者かが存在してるという事になるね、魔女か、魔具使いか、それは分からないけど、一連の事件の真相がちょっと見え始めたね」


『にわかには信じられません、ですが、仮にそうだとしたら、異端狩りが狙うかもしれませんね、新たな戦力として』


 そうなれば、ジャンヌ達の新たな脅威になってしまう。魔法の回収に失敗するどころか、敵を増やすなんて事になったら、死んでも詫びきれない事態になる。


「とりあえず、コイツらを作ってるやつを見つけ出して魔具を取り上げるか、行動不能にとけばいいんだよね」


『そういう事ですね、私達に魔法を回収する能力はありませんからね、貴女が取っても意味ありませんし、後はオーバードーズを刺すだけ、ぐらいの状態にしておけば問題ないでしょう』


 とは言ったものの、何気に難易度が高い。


 今も攻撃を避けながら話しているが、もうそろそろ限界だ。腕がつりそうだ。


「おっけ、分かった、とりあえず報告終了ね、また後で連絡するよ」


 そう言って、ジュリアは手鏡から魔法を解く。


「さて、どうしたものかな」


 再びゴーレム達に向き合うジュリアだが、気が付くと、彼らの猛攻撃は止んでおり、各々が自分達の仕事を再開しようとしていた。


「…おー」


『出口ヘゴ案内シマス』


 何事も無かったかのように、ゴーレムはジュリアを連れて歩き出す。


 まさかコイツら…。


 ジュリアは、答え合わせでもするように、小さく魔力を放出してみる。


 その瞬間。


『魔力ヲ探知、魔女ヲ排除シマス』


 再び目の前のゴーレムが拳を振り上げた。


「おっと」


 振り下ろされる前に、ジュリアは魔力を抑える。すると、ゴーレムは振り上げた拳をゆっくりと下ろし、再び出口への誘導を始めた。


「…随分と、分かりやすい仕組みしてるんだなぁ」


 魔力を感知して、襲う。ただそれだけ、しかもかなり極端だ。魔力の放出を止めただけで、ついさっきまで魔女と認識していたジュリアへの攻撃を簡単に止める程に、純粋に魔力だけを追っている。


 これが、兵器?


「まぁ随分と…完成度が高いようで…」


 確かに、常に微量の魔力を体から放出している魔女もいるが、それは生まれたてホヤホヤの未熟な魔女か、もしくはよっぽど変わった特異魔法を持っているかのどちらかだろう。


 普通の魔女は、常に魔力は抑え込んで隠しておくものだ。感じ取られない為でもあるし、必要以上の魔力の消費を抑える為でもある。


 魔女であるなら、その程度の魔力コントロールは基本中の基本であり、出来ない魔女を探す方が難しいだろう。


 だから、魔女用の兵器を作るというなら、相手は魔力を感じさせないという事を前提で作らなければならないわけであって、わざわざ魔力を探知してから攻撃に移り、魔力が消えれば対象が生きていても攻撃を中断する、こんなものは兵器として何の役にも立たないはずだ。


 マリ・ド・サンスは本気で魔女を憎んでいた。だったらこんな不完全な兵器で満足するはずが無い。まさか、ここのゴーレム達にはまだ隠された秘密があるというのだろうか。


「いやいや、もっとシンプルに考えた方がいいか…深い裏とか最初から考えてたら行き詰まる原因だよね…ここにあるのは、見るからに不完成品、まぁプロトタイプって感じか…そんなプロトが何でこんなに量産されてるのかは…分からない」


 量産されているという事は、何かしら需要があったのだろうか。しかし、兵器として全くと言っていいほど役に立たない彼らに、何を求めていたのだろう。


 そもそも対魔女兵器なら、魔法攻撃の一つや二つ使えるようにすべきだ。いくらプロトとはいえ、そこが出来ていないなんて、それはまるで。


「…ああ、いや、待てよ、そういう事か」


 せっせと働く彼らを見て、ジュリアは納得したように呟いた。


 魔女を殺す為に必要不可欠とも言える魔法攻撃、そんな初歩的なものが使えないなんて、兵器じゃない。


 そう、これはそのままの意味、ここにいる彼らは()()()()()()()()()()()()()


 兵器としてでは無く、別の目的の為に作られたからこそ、そもそも兵器としての武器を付ける必要が無かったのかもしれない。


「それぞれに役割を持たせているのか…魔力を探知して攻撃するっていうのは、あくまでもそういう仕様ってだけかな」


 ここにいるのは、差し詰め労働用のゴーレムだろうか。


 となると、それはそれで、つまり、兵器として戦闘に特化したゴーレムも存在している事になる。


「役割別に大量のゴーレムを作り上げるなんて、膨大な魔力が必要なはず…そんなもん魔具で補えるはずが無い…じゃあ、今回の魔法の持ち主は…やっぱり魔女なのかな?」


 マリ・ド・サンスの味方をする魔女。随分イカレた魔女もいたものだと、ジュリアは呆れたように笑う。


 もしくはマヌケだ、彼女の機嫌をとって媚を売っていれば、自分は助けて貰えるとでも思っていたのだろうか。


 彼女が死んだ今でも作り続け、尚且つ謎の魔法を手に入れてもそれをゴーレム開発に注ぎ込む。


 思考停止した本物の愚か者だ。


「問題は、いつゴーレム達を動かせるように魔力を送ってるかって事なんだけど…」


 型から抜かれた時点ではまだ動いてなかったはずだ、動ける状態じゃなかったからなのか、それともあの後に動けるように魔力を込められるのか、まだまだ観察が必要だ。


 しかし、少なくとも、製造途中のゴーレムを追えば、もしくは元を辿ればこの施設の主、つまりは魔法所有者に会える可能性が高い。


 だが残念ながら、今自分は強制送還されている途中だった。ゴーレムの力はかなり強く、振りほどく事が出来ない。


 かと言って魔法で抵抗すればまた面倒な事になる。


 どうすればいいだろう、こうしている間にも、順調に正解から遠ざかっているのは間違いないのだ。


「…あ、そういえば」


 彼らは割と小さなお願いなら聞いてくれる事を思い出した。穴の空いた屋根の修復や、出口まで案内してほしい、明かりをつけてほしいなど、ごくごく簡単な事なら不法侵入した者のお願いでも聞いてくれたのだ。


 上手く利用すれば、あるいは。


「ねぇちょっと、お願いがあるんだけど」


 ジュリアは、物は試しだとゴーレムに要求してみる。


「トイレに行きたいな、案内してくれない?」


『了解シマシタ、ゴ案内シマス』


 そう言ってゴーレムは来た道を引き返し、別の場所に向かって歩き出した。


 どうやら成功したようである。


「流石ボク、ナイスひらめき」


 このまま上手くいけば、色々探索が出来そうだ。


 そう思っていた矢先、ジュリアは図らずも自由の身となった。


 角を曲がった先にトイレのマークが見える、まさにその目前で、自分の前を歩いていたゴーレムが、粉々に砕けてしまったからである。


「うわっは、何何何何?」


 ゴーレムが崩れた土煙の奥に、二つの赤い光が見えた。


『魔女ヲ発見、抹殺シマス』


 これまでのゴーレムとは明らかに違う、凄まじい殺気とおぞましい魔力を感じた。


「なるほど、さっきの僕の魔力に反応したのは、あの場にいたゴーレム君達だけじゃ無かったわけだ」


 どこにいたのかは分からないが、コイツも反応して、ずっと自分を探していたのだろう。魔力を消しているというのに、ジュリアを魔女と判断し、攻撃してきた。


 つまり、目の前にいるゴーレムこそ、本物の兵器用。


「容赦無く味方まで砕くあたり、徹底して兵器だね、しかし礼を言うよ、おかげで枷が無くなった」


 自由になった両手をブラブラしながら、ジュリアはニヤリと笑う。


「これで自由に動ける」


 そう言って、ジュリアは手鏡を一枚足元に置いてから、一気に走り出し、トイレへと向かった。


『抹殺シマス』


 兵器ゴーレムは勢い良く腕を振る。すると手首の辺りから、ジャラジャラと鎖が現れた。


 最早説明は不要だろうが、勿論その鎖も魔具である。


 ジグザグとうねる蛇のように動きながら、鎖は走るジュリアを追う。


「あっぶな」


 鎖が触れる直前でジュリアは曲がり、トイレへと駆け込む。


 直後、背後で壁が砕ける音がしたが気にしない。


 それだけ漏れそうだったから、と言うわけではない。


「わざわざ自分で用意しなくても、あるよねー、お手洗いなんだから、勿論鏡ぐらいちゃーんと」


 瞬時に魔法を発動させ、鏡の中へと飛び込む。


 追ってきたゴーレムは、水面のように揺れる鏡に、己の拳を叩き込んだ。


 しかし、ジュリアのようにその世界へ飛び込む事は出来ず、結果はただ鏡を叩き割っただけに終わった。


『魔力ヲ追跡、発見シマシタ』


 ゴーレムが急いでトイレから出ると、奥の廊下を走り去るジュリアが見えた。


 魔法の応用、短距離なら、一瞬で鏡から鏡へと移動できるジュリアの得意技である。トイレの鏡を通じて床に置いた鏡から飛び出したジュリアは、一目散に駆け出していた。


「相手している場合じゃないんだー、もう追ってこないでねー」


『対象ガ逃亡、追跡シマス、発見次第速殺』


 ゴーレムは重い足音を立てながら、ジュリアの後を追う。


「さてさてどうしたものかな」


 更衣室のような場所に逃げ込んだジュリアは、ひとまず安全を確保すべく思考錯誤していた。


 この期に及んで自分は運が良いと思えた。何故なら、更衣室にだってあるのだ、姿鏡という大きな鏡が。


 鏡さえあれば逃げ道は豊富だ、だからこそ、その後のことを考える。


「完全にバレてたもんなぁ…ちょっとでも魔力が残っていれば追跡可能なわけか…あのストーカー君め…今朝の異端狩りの方がまだ可愛げがあったよ」


 足音とは思えない重低音が聞こえる。もう直ぐ近くまで来ている。


「悩む時間も与えてはくれないか」


 ジュリアはとにかく姿鏡へと飛び込んだ。


 そして、すぐにどこかに通じている鏡は無いかと探す。


 不安だったが、意外にもそれはすぐ近くにあった。


 世界を構築はしていないので、真っ暗闇の中だが、鏡だけは明るく輝く。


「いいねぇ、男女で更衣室が分かれてるから、これは別室の鏡かな」


 そっとその鏡から外を覗く。


 どうやら、室内では無い、廊下のような場所だった。


「おや、おかしいな…一体どこの鏡」


 考えがまとまる前に、ジュリアは顔を掴まれた。


 顔を、掴まれた。


 どこから? 無論、鏡の向こうから。


『魔女ヲ発見、速殺シマス』


「……!!!!!!!」


 誘き出された。


 廊下の壁に掛けてある鏡かと思ったが、そんな都合の良いものがそうそうあるわけがない。


 わざわざゴーレムが、逃げ道になるように持ってきたのだ。


 マヌケにも、自分から敵の射程に飛び込んでしまった。


(ボクの魔法を理解して…尚且つ利用された…!)


 ああ、もう。


 流石にこれは避けられない。


 うんざりしながら、再生を待つことにしよう。


 せめて引き摺り出されないよう精一杯抵抗しながら。


 ジュリアは頭を握りつぶされた。

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