二十の質問
「それじゃあ、お留守番よろしくね」
そう言って、朝からジャンヌは出て行った。
なにやら貴族達が集まるパーティーの様なものの護衛を、一日中しないといけないらしい。
ドールは面白くなかった。一日中ジャンヌを取られるなんて、顔も知らない貴族達に心底腹が立った。
「つまんない…」
思わず心の声が漏れる。
「仕方ねぇだろ、忘れ形見だって遊びに行ってるわけじゃねぇんだから、子犬かお前は」
爪の手入れをしながら、エルヴィラが言う。
「つーまーんーなーい」
ジャンヌだけではなく、部下の騎士達もほぼ全員が各護衛に当たっている為、現在この場には、魔女三人しか居ない。
『不可視の魔女』ドール。
『縄張りの魔女』エルヴィラ。
そして最近仲間になった、『凍結の魔女』ゲルダ。
ドールは、このゲルダという魔女の事をよく知らない。しかし、刺された自分を治してくれたという事はジャンヌやエルヴィラから聞いた。
恩がある、だが、実はドールは、ゲルダの事が苦手だった。
理由はドールが人見知りだから、と言うわけではなく。
「また家事手伝いしてる…」
ゲルダが予想以上に働き者だからである。
ここに来てからというもの、ゲルダは事あるごとにジャンヌの仕事を手伝っては、お礼を言われている。
「ジャンヌちゃん、この書類ここで良いの?」
「ジャンヌちゃん、洗濯物畳んでおいたんだけど、この服はどの棚に入れれば良いの?」
「ジャンヌちゃん、みんなの防具を手入れしておいたよ、いくつか脆くなってたから、ついでに魔法で治しておいた」
「ジャンヌちゃん、ご飯作ったから食べて、たまには休まないとダメだよ」
こんな風に、細い事から雑用まで、何か仕事を見つけては率先して片付けてジャンヌをサポートしている。勿論その分ジャンヌが楽になるのはとても良い事なのだが、問題はそこでは無い。
「ゲルダばっかり褒められてる…」
ドールは、実に子供っぽい嫉妬をしていたのだ。
今もせっせと掃除をしているゲルダを見て、ドールは口を尖らせる。
「私の方が先なのに」
「何言ってんだお前?」
怪訝な顔をするエルヴィラに、ドールは口を尖らせたまま言う。
「ゲルダはジャンヌに気に入られようと必死になってる」
「…普通に家事手伝いしてるだけだろ、つか、そう思うならお前もやれよ」
「やってるもん、でもいつもお昼過ぎからやるから…先にやられちゃうだけだもん」
「お前の生活リズムを変えようとはしないのか…」
「ゲルダは私からジャンヌを取ろうとしてる!」
「別に忘れ形見は誰のものでもねぇだろ…つかなぁ」
子供みたいに不貞腐れてるドールに苛立ったエルヴィラが、まさかのお説教モードに入った。
「お前アイツの事何にも知らないだろうが、ちゃんと話してみればゲルダは普通に良いやつだぞ。向き合おうともしてない癖に嫉妬するのはおかしいだろ。つーか、そんな理不尽な理由で一方的に嫌って、場の空気を悪くしてたら、本当に忘れ形見に嫌われるぞ」
「うう…エルヴィラに正論言われた」
でも確かにそうだ、まだちゃんと話しもしていないし、相手は自分を治してくれた恩人だ。
一方的に嫌うのは間違いだろう。
でもジャンヌを取られるかも、という不安のせいで、どうしても素直に向き合って話せない。
「どうすればいいかな?」
「知らねえよ…ん、いや、良い方法があったな」
エルヴィラは、ふと、昔の事を思い出す。
ペリーヌに教えてもらった、すぐに仲良くなれるゲームがあったはずだ。
「確かな…」
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「お掃除終わり…って、どしたの二人とも」
一通りの仕事が終わって、部屋に戻ったゲルダを出迎えたのは、丸いテーブルを囲むエルヴィラとドールだった。
気だるそうなエルヴィラと違って、ドールの目はキリッと真剣だった。
「お疲れ様、とりあえず座ってよ、ゲルダ」
「あ、はい」
言われるがままにゲルダは席に着く。
何が起こるのかと視線をあちこちに移すが、特に変わった事は起こらない。
しばらく沈黙が続く。その間、ドールはジッとこちらを見ていた。
「ん、えっと」
「こうやって、ちゃんとお話しするのは初めてだね…ゲルダ」
真剣な声色で、ドールは言う。
「キャラ変わってんじゃねぇかお前」
エルヴィラの茶々入れも無視して、ドールは続ける。
「貴女は最近ここに入ったばかりだから、まだ分からない事の方が多いと思う、うん、それは仕方ない事だよ…だから、私がちゃんと教えてあげる」
「ああ、うん、ありがと、じゃあ早速なんだけど、馬の餌の配合をまだ教えてもらってないんだよね、教えてくれない?」
「ええ? えっと…う、馬、馬の餌…? あっと…ええっと…」
真面目な質問に、しどろもどろするドールを見かねて、エルヴィラが答える。
「乾草を五か六キロ、配合飼料を三か四キロ、を、一日五回に分けて与える」
「あ、そうなんだ、ありがと…ちなみに乾草ってどこにあるの」
「馬小屋の中に倉庫があったはずだ、配合飼料もそこにある」
「サンキュ」
………。
「え、違うよ、違う違う、会話が終わっちゃった、ダメだよ、やめてよエルヴィラ、私が言いたかったのはそんな事じゃ無いよ」
ドールは危うく終わりそうになった会話の空気を無理矢理戻す。
「話が逸れたけど、馬の餌とかそんな事よりも大事な事があるの、ゲルダ、やっぱりね、先輩後輩の関係って大事だと思う」
「うん、そうだね、懐かしいなぁ…カイも職場の先輩の愚痴とかよく言ってたっけ…話せるのは姉ちゃんだけだ、なんて言ってくれてさー、嬉しかったなー」
「話を逸らさないでぇ…? もう私何を話そうとしてたのか忘れつつあるから」
「ヤベェだろお前、認知症にでもなってんじゃねぇの? ゲルダに頭治して貰えよ」
エルヴィラの茶々はやはりスルーして、忘れない内にドールは言う。
「確かに、魔女としては貴女の方が上だし、私は貴女に恩がある…でも、騎士団の中では私の方が先輩で、ゲルダが後輩なの、後輩は先輩を敬わなきゃいけないの!」
「そっか、そうだね、じゃあドール先輩だ」
「ドール…先輩…えへへ、ゲルダ、いい子だね、物分かりの良い子はいい子だ」
「チョロいな、果てしなくチョロいな、お菓子くれるってやつに付いて行ったらダメだぞ?」
ていうか、当の本人であるゲルダが意にも介していない事に、ドールは全く気付いていない。完全に子供があしらわれているだけだ。
「じゃあ、ゲルダ、もう一つ教えてあげるね、ジャンヌは、私の事が一番好きなんだよ、一番ね、私もジャンヌが好き、だからジャンヌの事ならなんでも知ってるんだから」
「そうなんだ、すごいね、流石先輩。私も仲良くなりたいな」
「ダメなの! 先輩を差し置いてジャンヌと仲良くなるのはダメなの! ゲルダは入ってきたばかりなのに、ジャンヌと仲良くし過ぎ、だから、ジャンヌと仲良くなりたかったら、まず先輩の私と仲良くなってから!」
「そっか、それもそうだ、じゃあドール先輩、私と仲良くなろう? 友達だね」
「え、友達…えへぇ…友達」
「お前今日キャラ崩れまくってるの自覚してるか? そんなアホの子じゃなかったろ、ゲルダの治癒魔法ってまさか副作用でバカになるとかあるのか?」
「無きにしも非ず」
「怖い事言うなや」
友達が出来た事に浮かれ始めていたドールは、自分の本来の目的をやっと思い出し、再びキリッと表情を強張らせて、ゲルダに向く。
「友達になってあげてもいいけど、その前に一つ試練だよ、私とゲームをして、勝ったら友達になってあげるし、ジャンヌとも仲良くして良いよ…でも、もし私が勝ったら…私の友達止まりだからね」
「お前にデメリットねぇじゃん、つーかゲルダにとってもプラマイゼロだし」
エルヴィラはスルーする。話を円滑に進める為のドール流のコツである。
「…ゲーム…あー」
ここでゲルダはやっと彼女の目的を理解する。
遊んで欲しいだけなのだ。大好きなジャンヌがいなくて暇だから、親睦会も兼ねて、遊びたいのだろう。
可愛いな、この子。
「いいよ、なんのゲーム? トランプとか、チェスとか?」
「ふっふっふ、そんなんじゃないよ、もっと簡単に、仲良くなれるゲームがあるらしいんだ、エルヴィラから教えてもらった」
そんな事するんだ、と言いたそうな目で、ゲルダはエルヴィラを見つめる。
それに対して、うるせぇとでも言いたそうな目で、エルヴィラは返す。
「楽しみだなぁ、どんなゲーム?」
ただの子供の戯れだ、快く遊んであげよう。
「簡単に仲良くなれるゲーム」
ドールは胸を張って自信満々に言う。
「質問ゲームだよっ!」
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二十の質問、と言うゲームがある。
ルールは、まず出題者と回答者の二人に分かれる。
回答者は、出題者に対し、二十回だけ質問が出来る。それに対して、出題者は、イエスかノーのどちらかで答えなければならない。この際、嘘を吐いてはならない、答えは全て正直に、イエスかノーのどちらかである。
回答者も、イエス、ノーで答えられないような質問はしない事、もしした場合は、質問権を一つ失い、次の質問をしなければならない。
回答者は、質問の答えから、出題者が思い浮かべている物や、人物を特定し、そして二十の質問が終わった後、答える。これが当たっているのか、間違っているのかで勝敗を決めるゲームである。
「勿論答えが完全に分かった時点で、質問が二十個に満たなくても答えていい、ただし、外れた場合は、即座に出題者の勝利になる…って感じなんだが…理解できたか?」
「うん、大丈夫…めっちゃ長々と解説してもらったけど、これカイとやった事あるわ」
ゲルダが再び思い出に浸る前に、ドールが手を上げながら言う。
「はい、じゃあ、私が出題者! 私が考えている事を、当ててね」
「うん、いいよ、当てられるかなー」
完全にドールの方が楽しんでいるが、これはこれで良いのだろう。
ここに自分が必要なのか、かなり疑問に思ってきたが、エルヴィラは一応、この勝負を見届ける事にした。
…見届ける必要もあるのか? これ。つーか勝負なのか? これ。
まぁとりあえず。
出題者、ドール。回答者、ゲルダで。
ゲームスタート。
「それは生き物?」
「うん、あ、イエス」
「それは人?」
「え…うん、イエス」
「女の人?」
「…イエス」
「今ここにいる?」
「ノー」
「えっと…回答いいかな」
ドールは黙って頷く。
「え、ジャンヌちゃんだよね」
「えー…正解、なんで分かったの」
「ざっ…! ん゛っん゛ぅっ!」
危なく、エルヴィラは「雑っ魚!」と言いかけたが、無理矢理咳き込む事で何とか抑える。
瞬殺じゃねぇか。四回で特定されるって。
というか、これはゲルダもゲルダである程度的を絞っていただろ。いや、そりゃあんだけジャンヌジャンヌ言われてたら、嫌でも意識するだろうけど。
「くっ…中々やるね…」
お前が弱いだけだよ。
なるほど、ランスロットが最初にドールを狙った理由が何となく分かった気がする。
「じゃあ次はゲルダが出題者ね、私が質問するから、正直に答えてね」
「いいよ、頑張ってね」
これ、特に勝敗についてのルールは決めてなかったけど、もし質問回数が勝敗に繋がるってルールを決めてたら、この時点で既にドールは負けてたんだろうな、とエルヴィラは思う。
正直もう帰りたい。いや、今現在のマイホームはここなんだけど…。
せめて見てて面白い勝負をしてくれよ、なんて思いながら。
出題者、ゲルダ。回答者、ドールで。
ゲームスタート。
「それは生き物?」
「ううん、違うよ。ノー」
「え、なんで?」
はいストップ。
「待て待て、お前、なんでってなんだ」
エルヴィラが、顔を引きつらせながら言うと、ドールはキョトンとした表情のまま答える。
「だってジャンヌは生きてるし…」
「お前こえぇよぉ…」
ここまでくると異常者の領域だ。この魔女の行く末が恐ろしい。
「ごめんねぇ、答えはジャンヌじゃないよ」
「え…そうなんだ…あ、まだ! 私まだ回答してないからね! ノーカン! ノーカン!」
往生際が悪すぎる…。アレはもうほとんど回答と同じだったろうに。
「そう言えばそうだったね、続けよっか」
コイツ良い奴かよ。
いつまで続くんだこの茶番。マジで私この場にいらねぇだろ。
エルヴィラは初めて自分から動かなかった事を後悔した。
しかし、それでも構わずゲームは再開される。
「それは…武器?」
「ノー、無限銃のイメージついちゃってたかな」
「ええっと…それはゲルダの好きなもの?」
「イエス、大好きだよ」
「うーんと…それは…硬い?」
「ノー」
「今ここにある?」
「ノー」
「それは良い匂いがする?」
「イエス」
「それは食べ物?」
「お、イエス」
「え、あ、それは…えっと…熱い?」
「ノーアンサー、答えられないなー」
「ええ…熱いか冷たいを答えられないの…?」
え、マジか、答えられないのか。熱くも冷たくもない食い物なんてあるのか? いや、待てよ、これはかなり有力な情報なんじゃないのか?
熱いか冷たいか答えられない。つまり、常温が基本という事か、もしくは、熱いものも冷たいものも存在する食べ物という可能性もあるのか。
現在ドールの質問数は八。残り十二回。
ゲームに参加してすらいないエルヴィラに質問権は無い。情報源は、ドールの質問内容にかかっている。
「おいドール、残り十二回、慎重に質問しろよ。さっきのノーアンサーは無駄撃ちじゃねぇぞ」
「え、うん」
なんでエルヴィラの方が熱くなってるんだろ、と、少し余計な事を考えそうになったが、意識をゲームに戻す。
ドールはしばらく考えてから、質問を再開する。
「それは…家庭で作れる?」
「イエス」
「そもそもそれは料理?」
「イエス」
ナイスだ、とエルヴィラは密かにガッツポーズをする。
今のでかなり限られてくる。家庭で作れる料理。
こうなると、かなり料理名は絞られてくるはずだ。
残り十回、大事にしろよ。
「それは…どこかで売ってる?」
「イエス」
「お店で食べると高級?」
「ノー」
「いろんな種類がある?」
「イエス」
「それは焼いてある?」
「ノー」
「じゃあ生?」
「ノー」
生でもなく、焼いてもいない料理だと?
てっきりエルヴィラは、ケーキか何か、お菓子類だと踏んでいたのだが、分からなくなってしまった。
焼いていないお菓子などあるわけない。クッキーもケーキも、家庭でも作れるが、必ず焼く。
つまり、お菓子というよりも、普通の食卓に並ぶもの、か。
(頼むぞドール、後五回だ、ここで決め手になる質問を期待してるぞ)
エルヴィラの刺さるような視線を感じながら、ドールはラスト五回の質問を慎重に選ぶ。
「えっと…そ、それは…丸い?」
「ノーアン…いや、うん、イエス」
「それは…揚げ物?」
「おー、イエス」
「あ、あ、分かってきたかも!」
「落ち着けぃ! まだ油断すんな!」
場外から凄まじい怒号が飛んでくる。
「えー…なんでエルヴィラがそんなにノリノリなの」
「うるせぇ、ここまできたら当てないとダメだろうが…私も大体分かってきたが…二択だ、私の中で二択ある…お前の質問に全部かかってんだ、決めになる質問があるだろうが…考えろ、ドール! お前ならやれる!」
ほんと、なんでコイツこんな熱いの。と、出題者と回答者の考えがシンクロした。
「それは…甘い?」
「ノーアンサー、いろんな種類があるんだって」
「それは…基本お肉を使ってる?」
「んー、まぁサービスでイエス、でも色んな種類あるって」
ラスト一回。ここが一番重要だ。
決め手となる質問に、ドールが選んだのは。
「美味しい?」
「イエス」
「最後雑すぎるだろお前っ!」
エルヴィラが、外野のエルヴィラがついにキレた。
「なんでエルヴィラにキレられなきゃならないの!」
「うるせぇこの野郎! ゲルダが好きな食いもんなんだから美味しいって答えるに決まってるだろうが!」
「回答者は私なんだから、エルヴィラは関係ないでしょ!」
「教えたの私だろうが!」
回答そっちのけで喧嘩を始めた二人を、遠い目で眺めながら、ゲルダは思う。
これ結局何がしたかったんだっけ?
「あの…質問終わったよね? 回答を…」
「お前じゃダメだ、任せてられない、私が答えてやる」
「意味わかんないよ! 回答者は私なんだから私が答えるの!」
「どうせ外すだろお前!」
「エルヴィラにだって保証ないでしょ⁉︎」
最早収集が付かなくなってきた。
「分かった、分かったよ…じゃあ、二人ともに聞くから、一応参加してたのはドール先輩から、その後エルヴィラの答えを聞く、二人の答えを聞いてから、正解を言うよ、どっちが当たったら、私の負け、二人の勝ち、おっけ?」
しばらく睨み合った二人だが、渋々頷いた。
回答、ドールから。
「天ぷら!」
続いてエルヴィラ。
「唐揚げ!」
さて、肝心のゲルダの答えは。
「え、ごめん、コロッケ」
この後エルヴィラとドールの大喧嘩が始まったのは言うまでもない。
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「ただいまー…あれ、ゲルダ、わざわざ起きてたの?」
ジャンヌが帰宅したのは、深夜だった。
「あれ、今からが本番だと思ってたけど、割と早かったね」
うっすらと明るいランタンの灯りで読書をしていたゲルダは、「お疲れ様」と言いながら、ジャンヌの装備を外す手伝いをする。
「ありがとう…エルヴィラとドールのちゃんは?」
「二人とも寝てるよ、遊び疲れたっぽい」
「珍しい…エルヴィラが遊んでたんだ…」
まぁ、正確には遊ばれてた、だが。
「お風呂沸いてるよ」
「えー、本当? 何から何までありがとう、ゲルダ」
早速浴場へと向かうジャンヌは、ピタリと足を止めて、ゲルダの方を向く。
「良かったら、一緒に入る?」
「あ、いいね、女同士の友情を深めようか」
暗い廊下を進んで、浴場へと向かう。団長の部屋からかなり近いところにあるので、すぐに辿り着いた。
「なんの遊びしてたの?」
服を脱ぎながら、ジャンヌは言う。
「えーっと…二十の質問って知ってる?」
「あー…あの、考え当てるやつ」
「それそれ」
お湯で身体を流して、一通り洗ってから、ゆっくりと湯船に浸かる。
「ふぅ…落ち着く」
「あっっっつ、これあっつ、エルヴィラに教えてもらった通りに沸かし直したけど、マジでこれであってたんだ…てっきり嫌がらせか何かだと思って、氷で冷ます準備してたんだけど…あっっっつ!」
「みんな言うんだ、それ、エルヴィラなんか、私が下ろして湯船に入れなかったら、足だけしか浸かろうとしなかったんだよ?」
「あれ、魔女狩りの拷問ってまだやってたんだ、エルヴィラも大変だね」
ゲルダは自分の周りだけ、氷を浮かべて温度を調節してから、ゆったりと浸かる。
「ドール先輩がね、どうも、私の事苦手に思ってたみたいで」
「え、そうなの…というか、先輩って?」
「なんでもない、気にしないで…まぁでも、心配しなくていいかな…近付こうとしてくれて、私をゲームに誘ってくれたんだ」
「…そっか、一安心」
ジャンヌはそう呟いて、ゆっくりと目を閉じる。
「魔女も成長するんだよ…心はね」
ゲルダが言うと、ジャンヌはクスッと笑った。
「そういう意味じゃ、エルヴィラが一番子供だったかもね…」
「びっくりしたよ…エルヴィラ、三年前とまるで違う人だったんだもん」
「三年前…」
そこで、ジャンヌはやっと気付いた。
「ゲルダ…貴女も…『最後の魔女狩り』に参加してたんだよね…」
「変な期待される前に言うけど、貴女の先生が死ぬ前に、私は一回死んだ…だから、『鎧の魔女』の最期は見てないよ…力になれなくてごめんね」
「あ、あはは…お見通しか…やっぱり変なのかな…自分の先生がどんな風に…その、死んじゃったのか知りたいなんて…おかしいよね」
静かに揺れる湯船を見つめながらジャンヌは言う。
「…どうだろ…確かに、私なら、自分の大好きな人の死に際なんて見たくないけど…でも、それでも知りたいって思うのは、ジャンヌちゃんにとって、先代がそれだけ特別な存在だったからじゃないかな…だから、その気持ちは、否定せずに、大切にした方が良いと思う…上手く言えないけど」
言い終わると、なぜか恥ずかしくなって、ゲルダは湯船に顔を半分沈める。
そんな彼女を見て、ジャンヌに少し笑顔が戻った。
「ありがと、ゲルダは良い人なんだね」
「どうだろ? 自分ではろくでなしだと思ってるけど…」
「そこまで言わなくても…あ、じゃあさ」
チャプンッと、ジャンヌはゲルダに近寄る。
「私達もしよっか、二十の質問」
「なんで?」
「自分がどんな人なのか、お互いで確かめ合お?」
やっぱり二十の質問にそんな効果は無いように思うけれど、ジャンヌの優しい笑顔を見ていたら、まぁ、付き合ってもいいかな、と、ゲルダは思った。
「良いよ、じゃあ…私が回答者で良い?」
「いいよ、なんでも聞いてね」
「じゃあ…まずは」
ここのところ激闘ばかりが続いたお互いにとって、久しぶりに、平和で、静かで、穏やかな夜になった。
ゲームが終わって、部屋に戻る。
ジャンヌも、ゲルダも、やっと眠れた。
たまにはこんな日があっても良いじゃないか。
色々あった、あり過ぎた。
みんな少し疲れてる。
だから、もう休もう。
夜は眠る事を、許してくれるから。




