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魔女伝  作者: 倉トリック
墓標の剣編
92/136

不死身の怪物

 大量の銃弾で撃ち抜かれたランスロットは、まるで泥の様な赤黒い半固形状のモノをボトボトと垂らしながらぐしゃりと崩れていく。


 しかし、やはりというか、当然の如く、その動きがピタリと止まり、すんなりと上体を起こす。完全に起き上がる頃には、傷などどこにも無く、綺麗な状態に戻っていた。


「うへー…気持ち悪いもの見た…今腸とか見えたし…しばらくソーセージとか食べれないかも…」


 吐き気を抑える様に、口に手を当てながら言うゲルダを、ランスロットは見下す様に睨みつける。


「心配するなよ魔女、もうソーセージなんか食う機会無いだろうからな」


 それから、ランスロットは舌打ちをした後、ゼノヴィアを睨みつけて剣を突きつける。


「やってくれたな、お前…見逃してやろうって言ったそばから撃ちやがったな、騎士道精神とか無いのか、この恥知らずが」


「い、いや、恥知らずとか、今のアンタに言われたないわ」


 負けじと銃口を向け、冷や汗を垂らしながらもゼノヴィアは抗議する。


 しかし、彼女は今、正直言って死ぬほど後悔している。本当にあのまま逃げていれば良かったと、心の底から思っている。


(何を考えてカッコつけながら、もう逃げへんよ、なんて言うたや⁉︎ ウチはバカか!)


 完全に今ので自分が標的になった。もう逃げ道は無い。


 生き残りたければ、勝ち残るしか無い。


 最強の騎士、ランスロット相手に、自分が勝つしかない。


(うわぁ…なんかその…もう帰りたいわぁ)


 確かに射撃は得意だが、だからと言って勝てるとは言ってない。さっきは隙を突いた上に、相手が油断してくれていたからこそ、大量のダメージを与える事が出来たが、二度はないだろう。


「ありがと、変な訛りのお姉さん」


 内心ビビりまくっているゼノヴィアの肩に、ゲルダがポンっと手を置きながら言う。


「お姉さんが隙を作ってくれたおかげで、全員の治癒に成功したよ」


「うぇ? マジで?」


 見ると、全員かすり傷一つ無く立っていた。ウルも無傷になっている。


 まるで戦闘そのものがリセットされたようだった。


「す、すごいんやな、その魔法…この無限弾の銃もそうやけど…アンタ何者やの」


「その話は絶対今じゃないかなー、それより、集中して、また始まるよ」


 ゲルダの言う通り、ランスロットが再び動き出した。


 予想通り、一直線にゼノヴィアへと向かって来る。


「ちょっ、速いって!」


 必死に迎え撃つが、魔剣でガードされ、一気に間合いを詰められてしまう。


「接近戦じゃ剣の方が有利だ…とは俺は思わんな、逆にこの距離なら、素人にでも当てられる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。銃なら俺に勝てるとでも思ったか? どんな武器を使おうとな、最終的には使い手の実力がモノを言うんだよゼノヴィア」


 そのままランスロットの剣がゼノヴィアに向かう。


 しかし、その動きが鈍い音と共にピタリと止まった。


 突如巨大な氷壁が現れ、ゼノヴィアを攻撃から守ったのだ。


 もちろん、ゲルダの魔法である。


「…お前の氷、ここにいる奴等の中でダントツで鬱陶しいな…俺が砕けない程の氷壁だと…」


「それ褒め言葉と取っても大丈夫系? じゃあお兄さん、もうちょっと驚いてもらおうかな?」


 そう言って、ゲルダが更に氷に魔力を送る。


 その瞬間、剣を防いだ氷壁が、まるで意思を持ったように形を変え、魔剣を握りしめるように覆っていく。


「固体である氷を、更に自在に操れるのか…チッ、剣と一体化しているし、やむを得ないな」


 斬り落とされた腕の代わりに、肉体と一体化していた魔剣。みるみるうちに氷に覆われてゆく、その冷気が、生身へと届いた瞬間、ランスロットは躊躇無くその部分をへし折った。


「やりぃ、チャンス到来」


 即座にゲルダはランスロットへ接近し、今度は本人を直接氷漬けにしようと手を伸ばす。


「直に触れれば凍らせる速度も速くなるのか、なら、触れられるわけにはいかないな」


 自分へと伸びるゲルダの手を蹴り上げ、ランスロットは後方へ下がり距離を置く。


 しかし、下がった先には、ジャンヌが剣を構えて待ち構えていた。


「っ!」


 寸前で気付き、手のひらで剣を弾き、ジャンヌの顔面へ頭突きを食らわせる。


「ぐふっ!」


「ギリギリまで気配を消していたつもりか、生きてる限り気配なんて消せるわけ無いだろうが…それにしても、やっぱりお前、顔から血を吹き出してる姿の方が似合うな」


「クズが」


 鼻を抑えて涙目になるジャンヌを、嘲笑いながら見下すランスロットへ、エルヴィラとウルが攻撃を仕掛ける。


 再び闇で視界を覆い、ウルが即座にランスロットを斬り刻む。


 いくらか手応えがあったが、しかし、どうやら(ランスロットにとっての)致命傷にはなっていないらしい。

 その証拠に、ウルは腕を掴まれ、あろう事か、剣を奪われてしまった。


「甘いな、いや、筋は悪くない…お前はこの中で、一番俺への殺気が強い、ちゃんと勝とうという気が感じられる、いいぞ、だが、甘い、既に俺を殺しても意味が無いと分かっておきながら、何故一々急所を狙うんだ? そのせいで動きが丸わかりだ、見えなくても、な」


「…」


 一瞬眉間にしわを寄せ、不機嫌そうになったウルだが、すぐにランスロットの腕を掴み上げ、剣を取り戻そうと捻る。


「冷静に、そして迅速に対応する、なるほど、こんな女には勿体無い、優秀な騎士だ」


「お褒めにあずかり光栄ですが、ジャンヌ様への侮辱は聞き捨てなりません、というか、貴方のジャンヌ様への非礼の数々は、最早一回や二回の死では償えない程のものです、覚悟してください」


 そう言ってウルは、力一杯にランスロットの腕を捻り上げる。


 何かが砕けるような鈍い音がして、ランスロットの左腕から力が抜けてダラリと垂れる。


「…肩の骨を…」


 すかさずウルはランスロットを突き飛ばす。その先には、二つの銃口が待っていた。


「みんなで頑張る、これが不死身への攻略法や!」


 無限射撃が再びランスロットをズタズタに撃ち抜く。


 更に、エルヴィラが大量のナイフを投げ付け、ジャンヌの乱れ斬りが炸裂する。


 そして、トドメと言わんばかりに、ゲルダが氷で巨大な槌をつくりあげ、勢いよく振り下ろした。


 透明な氷槌に、真っ赤な雫が飛び散った。


 最早原型をとどめていないランスロットの肉塊が、再生する気配は無い。


「…ど、どうなんや…? やったんか…これ」


「結構苦労したし、それがフラグにならない事を」


 ゲルダが全て言い終わる前に、ランスロットの肉塊がモゾモゾと動き出し、その形を整えていく。


「フラグがなんやって?」


「私のせいみたいに言われてもさ」


 骨や内臓がそれぞれ別の生き物のように蠢きながら、出来上がった姿は、さっきまでの男とはかなり異なった容姿になっていた。


 まず、失ったはずの右腕がある。


 しかし、それは普通の右腕では無く、骨と肉で固められた、筒状になっている。大砲、のように見えなくも無い。


 そして左腕、これは右腕に比べればかなり人の物と形が似ているが、異常に巨大化している。そして鋭い爪が前後に二重に生えており、まるで右腕だけが魔獣化しているようだった。


「あ、あれだけ攻撃したのに…」


 驚愕するジャンヌへ、更に追い討ちをかけるようにランスロットは言う。


「お前らぁ…なぁんか勘違いしてねぇかぁ?」


 再生したばかりで舌が回らないのか、妙な口調だった。


「殺しきって、再生するまでが…一回分の死だ…死体の状態の俺に対してオーバーキルかましたところで…何回も殺した事にはならねぇよ…一回分しかカウントされてねぇ…つまり、みんなで頑張った不死身の攻略法は、無駄撃ちに終わったわけだ」


「あ、あれだけやって…たった一回分…」


「忘れ形見、それだけじゃねぇ、多分…西支部の最初の連射、アレも一回分なんじゃねぇか?」


 戦慄が走る。そんな空気を感じ取ったのか、ランスロットは楽しげに頬を緩ませる。


「まぁ、だが、評価はしてやる…ナイスコンビネーションだった…だから、特別に、俺の蘇生可能回数を減らしてやった」


 ランスロットは自分の変異した両腕を見せつけるようにしながら言う。


「形代の案山子の能力だ、肉体ってのはな、その魂にあった形状になるように出来ている、人には人、犬なら犬、魔女なら魔女…しかし、魂の形が変わってしまえば、肉体の形もまた変わってくる、形代の案山子は魂を司る能力、奪った魂と俺の魂を掛け合わせて、その形状と性質を変える事で、肉体を改造する事が出来るんだ」


 こんな風にな、と、ランスロットは巨大な左手で地面を抉り、おもむろにその土を口へと運ぶ。数回咀嚼して、飲み込んだ。


「……受け取れ」


 そして、大砲のような右腕から、本当に大砲のように、巨大な岩石を発射した。


 放たれた岩はゲルダに直撃し、直後爆発を起こした。


 下半身から上が消滅したゲルダが、フラフラとよろめいた後、パタリと倒れた。


「な、何がどうなっとるんや⁉︎」


 困惑するゼノヴィア、今度は彼女の方へ、ランスロットの砲身が向けられる。


「だから、言ったろうが、魂を変えればそれに合わせて肉体を改造できる、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、更に、発射したものが破裂するようにな、最も、こんな風に作り変えるには、一旦死ななきゃならない上に、大量の魂を消費するから、必然的に、蘇生回数が減るんだ」


 再びランスロットが土を咀嚼する。


「お前の大好きな射撃で仕留めてやるよ、じゃあな」


「くっ…!」


 無限射撃で右腕を破壊しようとするが、巨大な左腕を盾のようにかざされ、弾かれてしまう。


「ゼノヴィアさん!」


 ジャンヌが駆け出すが、間に合わない。


 再び巨大な岩石と化した土ダンゴが発射され、猛スピードでゼノヴィアへ向かっていく。


「っ!」


 衝突、後に爆発を起こした。岩と共にバラバラと崩れていくそれは、どう見ても人の肉体では無かった。


「ほう、驚いたな」


 そこには、巨大な氷壁がそびえ立っていた。その向こうには、ゼノヴィアと、そして、砕かれたはずのゲルダが平然と立っていた。


「凄まじい回復速度だな、あんなダメージ、俺でも再生するのに二十秒はかかる」


「かかりすぎ、蘇生から再生までで二秒かかったら遅いぐらいだよ」


 やれやれというふうにゲルダは首を横に振り、チラリとゼノヴィアを見る。


「訛りの人、それさ、もっと強い使い方あるよ」


「え…えっと、どうやるの?」


「…カイなら教えなくても使えてたけどなぁ…」


 ゲルダは、少し寂しそうに言ってから、二丁の拳銃を指差して言う。


「私の無限射撃の魔法『撃ちっぱなし(エンドレスリピート)』が、ただ単に無限に撃ち続けられるだけの特異魔法だと思ってる? そんなわけないでしょ、仮にも銃を魔具化する魔法なんだから、もっと他にもギミックつくよ」


 私の魔法はもっとすごいんだ、と拗ねたように口を尖らせるゲルダに、ゼノヴィアは申し訳なさそうに尋ねる。


「そ、そうなんや、良かったら教えてくれへん? なるべく簡単に、ロットの奴が都合良く待ってくれてる間に」


 正直魔具すら始めて使うのに、いきなりギミックとか言われても分からないのが当たり前だし、そんな事で拗ねられても対応に困ると言うのが素直な気持ちなのだが、そこはグッと堪えて、あくまで低姿勢を貫き通す。


「んー…しょうがないなぁ」


 ゲルダはしばらく考えてから、引き金を引く指の動作を真似しながら、一言だけで、簡単に説明する。


「早く撃ちすぎなんだよね、無限に射撃が出来るからって、間隔をなくして焦って撃ちまくる必要はどこにも無いよ」


「…? それは、どういう意味なん?」


 しかし、それ以上会話は続かなかった。


 再びランスロットが発射して、それをゲルダが防ぎ、攻防が再開される。


「話は済んだか、まぁどっちにしろ殺すが、それよりも、思い出したぞ、『凍結の魔女』、お前の事を少し思い出した」


「ん、どっかで会ったっけ?」


「三年前の魔女狩りの記録が残っている、確か、姉弟で参加したんだってな、弟は、人間だったそうじゃないか」


 弟の話が出た途端、ゲルダの顔色が明らかに変わった。


「なるほど、当時からその無限射撃の魔法を使って、弟の事もサポートしていたのか、しかし、その弟が死んでしまった今、その技術を継ぐ者がいなかったと、そこで偶然見つけたのが…そいつか、ふん、お前の死んだ弟は報われんな」


「あ?」


 ゲルダの目つきがみるみる鋭くなっていく。


 しかし、それでもランスロットはひるむ事なく続ける。


「報われない、と言ったのだ、全くの無駄死に、だってそうだろう? 自分の武器の新しい使い手が、そんなにも雑魚だなんて、死んだ意味が無いだろ、普通その後を継ぐ者と言うのは、先代から技術を教わっている分、優れているはずだ、なのに、いや待てよ、そもそも死んだ奴は弱者なんだよな、お前ら姉弟がどちらも生きていれば、もっと戦いは有利に進んだかもしれないのに…なるほどな、ゼノヴィアもゼノヴィアなら、肝心な所に居ないお前の弟も」


「私の弟をバカにするなぁああああああぁぁぁぁあああああああああっ!!!!!」


 ゲルダが叫んだ、その一瞬で、周囲に冷気が立ち込め、木々や草花が凍り始めた。


「なんだ…?」


 景色の急変ぶりに、ランスロットも驚きを隠せていない。


 しかし、それよりも、ゲルダの様子が、明らかにおかしかった。


「許さない…ユルさないぞ…私の、弟を、馬鹿にしたな…侮辱したな、見下したなぁ…殺してやる、ぶち殺してやる…かき氷みたいに細かく砕いて、イチゴ味のシャーベットみたいにしてやる…」


 ゲルダの周りに異様な冷気が集まっていき、徐々に人ならざる姿を形成していく。


「オイオイオイ、アイツまたかよっ!」


「これ、私達もまずいんじゃないの…」


 既に経験済みのエルヴィラとジャンヌが冷や汗を垂らす、が、それは地面に落ちる前に、肌に張り付いてしまった。


 シュウゥゥゥゥゥウッ、と、白い冷気を吐き出して、現れたのはさっきまで魔女だった氷獣。


 いや、獣というよりも、爬虫類、トカゲのような姿に似ている。


 二足歩行のトカゲ、まるでリザードマンのようだった。


「なるほど、『凍結の魔女』か」


 ランスロットが声を出した途端、それに反応して、氷獣ゲルダは金属を擦り合わせたような耳障りな咆哮と共に、大きく口を開け、そこから、凄まじい冷気を噴射した。


 冷気が触れた途端、地面には氷柱が出来上がる。


 まるで吹雪を吐き出しているようだった。


 間一髪でそれを避け、ランスロットは岩石を発射する。


 猛スピードで巨大な岩石が氷獣にぶつかり、爆発してその氷の外装を破壊する、かと思いきや。


「あ? 不発だと?」


 ゴツンという鈍い音だけを立てて、そのまま岩石はゴロゴロと転がっていった。


 良く見ると、既に岩石は氷で覆われていた。


「氷に関しては…どんな奴だろうと、この世でゲルダに勝てる奴はいねぇな」


 寒さに身を震わせながら、エルヴィラは言う。


「特にあの姿で、ガチの戦闘状態だったら、もう誰にも止められないだろ…その気になりゃあ世界そのものを氷漬けに出来るんじゃねぇかな」


「ランスロットさんは、逆鱗に触れちゃったんだね」


 リザードマンのような姿をしてるだけに、あながち間違いではないかもしれない。


「名前つけてやろ、そうだな…吹雪を起こすリザードマンだし、『ブリザードマン』なんてどうだろう?」


 洒落てるだろ? と、この状況でドヤ顔を決めるエルヴィラ。


 辺りの気温が更に下がった気がするのは、どっちの所為なんだろうと、ジャンヌもまた、こんな状況の中、呑気な事を考えていた。


「でも、あの状態の時って動かないんじゃ」


 最初に見たときは、その場から動けず、攻撃した相手を凍らせるという防御魔法のような攻撃をしてきた。


 相手はランスロットだ、その程度の仕掛け、もうとっくに見破っているかもしれない。


「仕方ねぇ…結局私達が、あのクソ野郎にどうにかしてゲルダを攻撃させるしかねぇのか」


 自分で考えた癖に、ブリザードマンってもう呼ばないのか、とツッコミをいれたくなったが、我慢する。


「私達がゲルダの前に立って、ランスロットさんの攻撃をギリギリで避ける、って感じ?」


「そんな上手くいけば良いけどな」


 ジャンヌは剣を構え、エルヴィラは爪を鋭く伸ばす。


「よし、行くぞっ!」


 エルヴィラの声を合図に、二人はランスロットに攻撃を仕掛けようとしたが、しかし、その攻撃は不発に終わる。


 予想外な事が起きたのだ。


「ッッシャアッアアアアアアアアアアッ!」


 耳を塞ぎたくなるほど甲高い奇妙な咆哮ともに、動けないと思っていた氷獣ゲルダ、もといブリザードマンが勢いよく跳び上がり、そして


「ーーーーーーーーーッ!」


 ランスロットの顔面に拳をめり込ませ、その頭部を凍らせ粉々に砕いたのだった。

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